新型コロナウイルス患者(COVID-19)の中和抗体について、その有効期間は?

東大医学部らのグループは、2020年1月から4月の日本の新型コロナウイルス患者から、その中和抗体の力価の変動の様子を報告しています。
https://www.thelancet.com/journals/eclinm/article/PIIS2589-5370(21)00014-6/fulltext

感染後も数か月間は、中和抗体の力価はそこそこ保たれるようです。下図で、グレーは95%CIの範囲を示します。赤線は中央値です。心配される抗体依存性感染増強(ADE)については、世界中で数多くの研究が行われているが、ADEが増強されたという報告はまだ見受けられず、SARS-CoV-2の場合は、ADEの可能性は低いのではないか?と言及しています。

ラクトフェリンは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染予防にはとても良い

本ブログでも、2021年2月12日の記事にて、ラクトフェリンの抗ウイルス効果について記載しています。SARS-CoV-2の場合には、ACE2を感染受容体としてヘパラン硫酸がその共受容体として機能しています。ラクトフェリンの抗ウイルス機能は、ラクトフェリンがSARS-CoV-2に結合することによって、ヘパラン硫酸への結合を阻害することにあると考えられています。

女子栄養大学のグループは、モンゴルが世界一新型コロナウイルスの感染抑止に成功している背景として、モンゴル人が、世界のどの民族よりも多くラクトフェリンを摂取していることを指摘しています。女子栄養大学は、処方箋無しで購入できる腸溶性ラクトフェリン(1カプセル250 mg)を2カプセル(500 mg)摂取することを推奨します。Amazonからでも手軽に購入できるようです。
https://www.eiyo.ac.jp/ions/?p=4407

HIVに感染しても無症状な子供達のIgGには、その糖鎖修飾に特徴が存在する

University of Oxfordらのグループは、HIVに感染した子供達における興味深い免疫反応について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7763548/

HIVに感染して、ART(antiretroviral therapy)治療を受けてもおらず、高い割合でウイルス複製が進行中であるにもかかわらず、正常なCD4カウントを維持する無症状な子供達(PNP)がいます。子供達においては、広域中和抗体(bnAb)の存在も特徴であります。更に、PNPでは、IgGのFcを介したeffector作用(ADCC, ADCP)が強いということも特徴です。

IgGの糖鎖修飾の違いに着目すると、HIVに感染した大人は一般的にagalacto型の糖鎖構造を持つのですが、無症状の子供の糖鎖は健常者と大きな違いがなく、むしろSia修飾が若干高めであり、FcのCore Fucoseの修飾が少ないという特徴があります。

bnAbは、ヘルパーT細胞(Tfh)およびgp120特異的なIgGのSia修飾と相関していました。
IgGのFcを介したeffector効果については、core fucoseの修飾が低くなるほど、強くなることが抗体医薬で良く知られています。

してみるとPNPというのは、基本免疫反応は弱めではあるが、それを補うbnAbが存在し、IgGのeffector作用も強いということなのかも知れません。

N343に存在するN型複合糖鎖がSARS-CoV-2のRBDのopen, closeの構造変化を制御している

UC San Diegoらのグループは、SARS-CoV-2のAVE2に対するRBDの配位(open or close)をN343の位置に存在する複合型N型糖鎖が制御していることを分子動力学的シュミレーションを用いて示しました。下図を見てもらえれば一目瞭然かと思います。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.02.15.431212v1

世界各地で発生しているSARS-CoV-2の変異に対するPfizer, Modernaワクチンの有効性:B.1.351やP.1変異株は危ない

Massachusetts General Hospitalらのグループは、世界各地で発生しているSRAS-CoV-2の代表的な変異に対するBNT162b2 (Pfizer)、mRNA-1273 (Moderna)という代表的なワクチンの有効性について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7899476/

世界各地で発生しているSRAS-CoV-2の代表的変異(9種類)の分布

各変異に対するPfizer, Modernaワクチンの有効性をNeutralizationで示す。B.1.1.7に対してはほとんど問題はないようですが、B.1.351 v2やP.1ではかなり有効性が下がっているように思われます。K417N, E484K この二つの変異がB.1.351とP.1に共通に存在し、B.1.1.7には存在しないようです。

膜性糸球体腎炎(Membranous Nephropathy)の治療には、捕体経路の阻害が有効

The Ohio State University Wexner Medical Centerらのグループは、膜性糸球体腎炎(Membranous Nephropathy:MN)の原因となっているのが補体の過剰な蓄積であることを指摘してます。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7879111/pdf/main.pdf

腎臓組織切片からLMDでサンプルを取得し、質量分析にて、IgG及び補体の発現量を網羅的に解析しました。その結果、膜性糸球体腎炎では、IgG1~IgG4およびCR1以外の全ての補体群が健常者に比較して高発現していることが確認されました。一方で、mannose-binding lectin (MBL), Ficolin, Collectinらは検出されませんでした。これらの結果は、レクチン経路ではなく、補体古典経路が異常に活性化され糸球体組織にダメージを与えていることが示唆されます。CR1は主に糸球体上皮細胞(podocyte)に発現していることから、ダメージを受けてCR1が減少することが補体の活性化を更に加速しているのかも知れません。なお、膜性糸球体腎炎の場合には、M-type phospholipase A2 receptor (PLA2R)が発症の抗原になっていると考えられているようです。

SARS-CoV-2に対するhCoVs特異的なIgGの交差反応について

NMI Natural and Medical Sciences Institute at the University of Tübingenらのグループは、1,173名の血清/血漿サンプルを使用し、SARS-CoV-2感染者、非感染者に対して、SARS-CoV-2特異的およびhCoVs特異的なIgGについて評価した結果を報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41467-021-20973-3.pdf

ヒトに風邪を引き起こすコロナウイルス(hCoVs)には、四種類(NL63, 229E, OC43, HKU1)が知られています。
下図のようにSARS-CoV-2とこれらhCoVsの間には、程度の差こそあれ、確実に相関関係が存在しています。SARS-CoV-2感染者の内、10%はSARS-CoV-2特異的なIgGが検出されておらず、この原因が、自然免疫によってウイルスが排除された結果なのか?それともhCoVs特異的なIgGの交差反応の結果なのかについては、今のところ不明です。


今更ですが、C型レクチン CD209/DC-SIGN, CD209L/L-SIGNが新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染受容体になり得るという指摘

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染受容体は、ACE2以外に、C型レクチンもそうである、という指摘は下記の論文に見ることが出来ます。
Harvard Medical School, July 30, 2020
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.07.29.227462v1
Boston University, Dec. 9, 2020
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.06.22.165803v2
Boston University, (Dec. 22, 2020)よりReviewという形での論文がありましたので、それを参考にふたつのデータを紹介しようと思います。
https://www.mdpi.com/2079-7737/10/1/1

ACE2は確かに主要な感染受容体ではあるのですが、肺ではそれほど発現量が高くなく、むしろCD209/DC-SIGNの方が発現量が高くなっています。
CD209L, CD209, ACE2を過剰発現させたHEK293細胞を用いて、SARS-CoV-2の疑似ウイルスを感染させた実験も下記に示します。
ACE2は感染受容体として一義的に重要なのですが、ACE2の発現が弱い組織では、C型レクチンがSARS-CoV-2の感染を大いに介在していることは事実でしょう。
なお、これらC-type Lectin(DC-SIGN, L-SIGN)のCRDは、High Mannose構造を強く認識します。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染しても発症しないようにすればよい:ウイルスとの積極的共存の可能性について、ウイルスに打ち勝つ術

常々ブログ著者が考えていることと同じような内容が下記の論文に書かれていましたので、それを参考にしながら記事にまとめてみました。
A group from Central University of Tamil Nadu, etc.
https://academic.oup.com/femspd/article/79/1/ftaa076/6027506

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染しても無症状者がかなりの割合で存在します(80%に達するという報告もあります)。一般的にSARS-CoV-2に感染して発症するまでの潜伏期間は、5,6日ですが、14日に及ぶ場合もあります。しかし、無症状の場合は、平均19日と潜伏期間が長くなるようです。

SARS-CoV-2に感染すると、STING経路が活性化され、NLRP3インフラマソームの活性化がそれに追い打ちをかけて、IL-1β, IL-18, TNF-α, IFN-γ, IL-6らサイトカインの産生を過剰に促し、サイトカインストームを引き起こします。しかしながら、コウモリは、各種ウイルスのリザーバーでありながら、自身は発症しません。コウモリの場合は、その進化の過程において、次のような特徴を備えることでウイルスと共存していると考えられます。
(1)単球におけるNLRP3インフラマソームの過剰な産生が抑制されている、
(2)PYHIN遺伝子欠損により外因性DNAを検知する能力が低下している、
(3)抗炎症性サイトカインIL-10の分泌が多い、
(4)NK細胞に機能性キラー細胞Ig様 (KIR)受容体, キラー細胞レクチン様(KLR)受容体が欠損している。

ヒトの無症状者の場合は、炎症性サイトカインのレベルも低く、SARS-CoV-2特異的なIgGもかなり低いということが分かっています。つまり、無症状であるということは、免疫反応が弱いことの結果とも考えられます。また、逆に、無症状である理由の一つには、通常の風邪のコロナウイルス(229E, HKU1, OC43, NL63)に対するIgGの交差反応の結果という考えもあります。

ウイルスとの積極的共存という意味において、コウモリで発見されたメカニズムは、ヒトにおけるCOVID-19に対する治療戦略の開発を示唆している可能性が高いと思われます。それこそがウイルスの脅威から生き残る知恵なのかもしれません。

アガラクト(i.e., GlcNAc)結合特異性を持つレクチン:BLL、PVL、GSL-II、そしてBGL

複合型糖鎖において末端のGal修飾を欠く糖鎖(すなわちアガラクト型:末端GlcNAc)は、自己免疫疾患などで良く見られる糖鎖構造です。アガラクト型を認識するレクチンには、下記のように、BLL, PVL, GSL-IIらが知られています。BLLとPVLはキノコ由来であり、GSL-IIはマメ科レクチンです。

Boletopsis leucomelaena(クロカワ):BLLレクチン

 

 

 

 

 

Psathyrella velutina(ムジナタケ):PVLレクチン

 

 

 

 

 

 

Griffonia simplicifolia(バンデリア豆):GSL-IIレクチン

 

 

 

 

 

 

New England Biolabs, Inc.のグループは、クロカワキノコの北米における同種キノコ(Boletopsis grisea)の遺伝子配列を明らかにし、recombinant lectin (rBGL)の糖鎖結合特異性を糖鎖アレイを用いて評価しました。興味深いことに、rBGLは、アガラクト型N型糖鎖にアフィニティーを持つ以外に、O型糖鎖であるThomsen–Friedenreich 抗原 (TF-antigen; Galβ1,3GalNAc-α-)にもアフィニティーを持つことが明らかとなりました。アプリケーションによっては、このO型糖鎖への結合性を生かせるかも知れません。
https://www.nature.com/articles/s41598-020-80488-7