アーカイブ: 2022年11月2日

アルツハイマー病に特有なN-型糖鎖修飾の全体像について

Department of Surgery, Beth Israel Deaconess Medical Center, Harvard Medical School, USAらのグループは、健常人、無症候性アルツハイマー、症候性アルツハイマー病患者の脳におけるN-型糖鎖修飾の全貌について報告しています。
https://www.mcponline.org/article/S1535-9476(22)00241-9/fulltext

アルツハイマー病の神経病理学的特徴は、β-アミロイド (Aβ) を含む細胞外沈着物の形成と、過剰リン酸化タウによる神経内神経原線維変化の進行です。

大きな視点で、糖タンパク質の全体像を調査するために、健常人、無症候性アルツハイマー、および症候性アルツハイマーを含む30人の脳サンプルから得た糖タンパク質の定性的なN-型糖鎖修飾の分析が行われました。レクチン・アフィニティ分離と親水性相互作用クロマトグラフィー (HILIC) の組み合わせにてN-型糖鎖修飾を受けた糖タンパク質を選択的に濃縮し、LC-MS/MSによって分析をしています。 ConA、RCA、SNA、WGA、VVA、および AAL の組み合わせが、脳内のN-型糖鎖修飾を受けた糖タンパク質の濃縮に最適でありました。その結果、2,035個のユニークな糖ペプチド、580個のN-型糖鎖結合部位、および 124個の糖鎖から、合計303個の糖タンパク質が同定され、合計で 1,901個のグライコフォームが構成されました(注: ひとつの糖鎖修飾部位が、みっつの異なる糖鎖で同定された場合、それらはみっつのグライコフォームとしてカウントされます)。

最も豊富な糖鎖は 1201 ~ 1250 MW の範囲内にあり、糖鎖組成に基づいてサンプルから検出された総グライコフォームの 20% 以上となります。この分子量範囲の糖鎖の大部分は、Man5GlcNAc2 (Man5) 構造に由来します。 2 番目に頻度の高い糖鎖は、bisecting-GlcNAc とコアのフコシル化を伴うバイアンテナリー糖鎖として同定されます。他の一般的な糖鎖には、糖ペプチドのフコシル化の程度が異なるいくつかのハイマンノース、複合、およびハイブリッド N-糖鎖が組織全体で同定されました。全体的なグライコフォームに基づく分布を考慮すると、異なるサンプルグループ間で糖鎖の分子量または糖鎖の分布に統計的な差はありませんでした。

異なるサンプルグループの糖鎖修飾パターンに関するより多くの情報を得るために、糖鎖修飾部位レベルでの分析も行われました。異なる糖鎖修飾部位にわたる糖鎖修飾の集合的変化について、異なるサンプルグループ間(健常、無症候性アルツハイマー、および症候性アルツハイマー)で比較すると、健常な脳サンプルと比較して、無症候性および症候性アルツハイマーでは、ガラクトシル化、フコシル化、bisecting、および多分岐の減少が見られました。また、症候性アルツハイマーと比較して無症候性アルツハイマーでは、ガラクトシル化、フコシル化、bisecting、および多分岐型およびハイブリッド型のレベルが高くなっていました。

アルツハイマーに特有な、決定的なN-型糖鎖マーカーというのは見つかっていないようです。

腸チフス菌のVi莢膜性多糖類の作用機序について

Department of Medical Microbiology and Immunology, University of California at Davis, California, USAらのグループは、腸チフス菌のVi莢膜性多糖類の作用機序について報告しています。
https://journals.asm.org/doi/10.1128/mbio.02733-22

細菌性病原体は、(i) 免疫細胞によるオプソニン化および食作用を回避したり、或いは (ii) 食作用中の殺傷を回避して食細胞内に常駐することによって、宿主の免疫反応を逃れるという戦略を取ります。

サルモネラ属のチフス菌は、腸チフスの原因細菌であり、単核食細胞とリンパ球の蓄積である腸チフス結節と呼ばれる小さな肉芽腫に病原体が持続することを特徴とする重度の播種性感染症です。腸チフス菌は、Vi 抗原としても知られる病原性のVi莢膜多糖を合成します。これは、天然の IgM によるオプソニン化から細菌を保護し、好中球やマクロファージなどの貪食宿主細胞による貪食を防ぎます。しかし、腸チフス菌は典型的な細胞内病原体であるため、腸チフス菌がそのような抗貪食性カプセルを持っていることは逆説的です。

本研究では、腸チフス菌のVi莢膜多糖の二重性が、示されています。Vi 莢膜多糖が存在することにより、腸チフス菌は好中球による食作用を選択的に回避できる一方で、マクロファージに発現するDC-SIGN、C-型レクチン、に結合することにより、マクロファージの食作用を促進することが示されました。


ここで、tviB-vexE は、Vi莢膜性多糖類を持たない腸チフス菌の変異体です

野生きのこ Gymnopilus imperialis(担子菌類)の多糖類が示す免疫増強効果

Instituto de Ciências Ambientais, Químicas e Farmacêuticas, Universidade Federal de São Paulo, Brazilらのグループは、野生きのこ Gymnopilus imperialis(担子菌類)の多糖類が示す免疫増強効果について報告しています。
https://www.mdpi.com/1424-8247/15/10/1179

本研究では、G. imperialis の乾燥担子体から水溶性抽出物を抽出し、以下に示すような三つの主要な多糖類画分 (Gi-MRSW、Gi-FSME、および Gi-FPME) を得ました。

この内、Gi-MRSW 画分のみが、LPS と同様のマウス・マクロファージに対する免疫増強活性を示したとのことです。この多糖類の詳細構造については、言及されていません。

O-Mannose修飾を受けたα-ジストログリカンとガレクチンとの相互作用について

北大・次世代物質生命科学研究センターらのグループは、O-Mannose修飾を受けたα-ジストログリカンとガレクチンとの相互作用について、特にcore M1に着目した研究結果を報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-022-22758-0

O-Mannose (O-Man) の修飾構造は、ヒトにおいては正常な発達に必要な限られたタンパク質にのみ見られるもので、筋肉および神経生理学において重要な機能を持っていることが分かっています。 α-ジストログリカン (α-DG) は、ジストログリカン (DG) の細胞外成分であり、最も広く研究されている哺乳類の O-Man 糖タンパク質です。骨格筋と脳で遍在的に発現し、細胞接着、筋肉の完全性、および神経学的発達に関連しています。 α-DG は、そのムチン様ドメインに、LacNac 末端を持つ3種類のO-man コア構造 (M1、M2、および M3) というユニークな糖鎖構造を持っています。

本研究では、ヒトのGal-1、-4、および -9 (-3 を除く) は、O-Man LacNAc 末端複合糖質と強く結合し、α2,3-シアリル化末端が存在すると、これらガレクチンの親和性が大幅に低下することが示されました。これは、このタイプの糖鎖修飾の伸長によって、このタイプの O-Man 糖鎖に対するガレクチン活性を微調整できることを示唆しています。更に、これらの相互作用はラクトースによって有意に阻害され、α-DG core M1 型糖鎖がガレクチンの標準的な糖結合部位 (S 面) に結合し、ガレクチンの受容体として機能することも確認されました。

更に、Gal-1 は、マイクロアレイ実験で、ラミニン-111、-121、-211、および-221 (ただし-511 を除く) とcore M1 α-DG 糖ペプチドをリンクするトランスブリッジ型の結合を形成することが示され、筋ジストロフィーの治療において、ガレクチンが治療に使える可能性が示されました。


ラミニンとガレクチンを含む core M1 複合糖質マイクロアレイの蛍光画像

アーバスキュラー菌根菌接種による根圏細菌叢の変化と大豆の成長促進効果

Engineering Research Center of Agricultural Microbiology Technology, Ministry of Education, Heilongjiang University, Harbin, Chinaらのグループは、アーバスキュラー菌根菌(Rhizophagus intraradices)を大豆に接種し、大豆の成長効果や根圏細菌叢・真菌叢の変化について報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-022-22473-w

フィールド実験は、パラメータとして、AM菌接種の有り・無し、および大豆の連作の有り・無しを振り、3重の実験として行われました。即ち、In0、In1、Non0、そしてNon1という4条件での比較です。

AM菌接種の効果は、根圏細菌叢の組成変化よりも根圏真菌叢の組成変化に大きく現れました。下図に示すように、最も優勢な属は、In1YSFおよびNon1YSFで、Subulicistidium でした。ただし、フサリウムは、In0YSF と Non0YSF で最も優勢な属でした。興味深いことに、フサリウムの相対存在量は、AM菌を接種することで、Non0YSF の 15.72% から In0YSF の 1.58% に激減していました。

これに呼応して、大豆根腐れ病指数は、AM菌の接種により有意に減少しました。たとえば、AM菌接種による病害指数は非接種に比べて66%に減少しています。そしてまた、大豆の生育/収量指数は、AM菌の接種で高くなり、非連作下でAM菌を接種した大豆で最も高くなっていました。

(sLex)に結合特異性を持つE-セレクチンを (6′-sulfo-sLex)に対する結合特異性に改変する

Complex Carbohydrate Research Center, University of Georgia, Athens, GA 30602らのグループは、E-セレクチンの糖鎖結合特異性を二ケ所に変異を入れることで sLex から 6′-sulfo-sialyl Lewis X に変えることができると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9564326/

レクチンは糖鎖の検出によく使用されますが、硫酸化糖鎖への適用は、硫酸化糖鎖の認識レクチンが殆どないことと、そのブロードな特異性のために非常に困難です。

本研究では、E-セレクチンに着目し、6′-sulfateとE-セレクチンのE92およびE107との間の不安定化な立体的および静電的相互作用をE92A/E107Aという二個の変異を挿入することによって除去し、6′-sulfo-sLexに対する新たな結合特異性を持つように改変しています。良く知られているように、E-セレクチン自体は、非硫酸化リガンド sLex に特異的な結合を示します。
この新しい糖鎖結合特異性は、6′-sulfo-sLex が優先リガンドである Siglec-8 の特異性を良く模倣しています。

根圏細菌叢の細菌構成と植物の遺伝子型には相関関係が存在する

State Key Laboratory of Agricultural Genomics, BGI-Shenzhen, Shenzhen, Chinaらのグループは、根圏細菌叢の形成に数多くの植物の遺伝子が関わっていることを、一定の環境下で栽培した827種のアワ育種品種を用いて検証しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9546826/

実験的に、アワの根圏細菌叢から合計 644個の分類学的に異なる細菌株が収集され、257個の細菌分離株を得ることができました。これらの細菌分離株から、植物成長促進に対する回帰モデルでトップのベータ推定値を示した6つの正のマーカーOTU と4つの負のマーカーOTU の代表的な細菌株を用いて、植物成長検証実験が行われました。

ここで、正のマーカーOTUsは、 (Acidovorax OTU_46, Bacillaceae OTU_22228, Kitasatospora OTU_8, Bacillus OTU_19414, Bacillus OTU_25704 and Bacillales OTU_381)、負のマーカーOTUsは、 (Shinella OTU_37, Bacillus OTU_54, Bacillaceae OTU_19835 and Bacillaceae OTU_28133)、であります。

これら10種のマーカー細菌株とアワのHuagu12という育種品種を滅菌プレートで7 日間共培養し、根の長さや植物の高さに現れる違いをコントロールと比較しています。トップのベータ推定値を示すOTU を表す正のマーカー細菌株は、顕著な成長促進能力を示しました。具体的には、正のマーカー細菌株(Kitasatospora OTU_8)は根と茎の両方の成長を促進しましたが、(Bacillus OTU_22228)と(Acidovorax OTU_46)は、コントロールと比較してシュートの成長のみを促進しました。一方、負のマーカー細菌株(Bacillaceae OTU_19835)および(Bacillaceae OTU_28133)は、Huagu12 のシュートと根の成長を抑制しました。

本研究を通じて、宿主の遺伝的変異と根圏細菌叢との間に相関関係があることが示されていることは非常に興味深く、根圏細菌叢の構成が植物の遺伝子型によって影響を受けること如実に示されています。

育種の新しい視点:SynComと呼ばれるコア細菌種の利用

古典的な育種法に転換期が訪れようとしています。大きな流れの一つは特定の標的DNA配列のみを変更することができるゲノム編集を使った育種法です。これにより育種にかかる期間を従来法に比べて大きく短縮化することができます。しかし、更に大きなうねりは、植物の形質を改善するために根圏細菌を積極的に使用しようとする考え方です。この方法の大きなメリットは、植物は元の遺伝子型を維持しており、遺伝子の組み換えやゲノム編集を行った製品に比べれば、特定の安全性評価を必要としないということにあります。

根圏細菌と植物の共生関係については、既に多くのブログ記事を書いていることもあり(即ち、多くの論文が存在するということなのですが)、その重要性について、改めて本ブログで強調することはしません。しかし、その方法論として、SynComという言葉が使われだしていることを本ブログでは強調しておきたいと思います。SynCom というのは、根圏細菌叢の全体的な組成に関する蓄積データの解析を通じて、根圏細菌叢の構造に大きく影響を与える可能性が最も高いと考えられる「コアとなる選別された数種の細菌種の組合せ組成」のことを指します。

実際の農業における SynCom 応用の有効性はテストされていますが、しばしば一貫性がないようです。この失敗の主な理由は、植物に関連する根圏細菌が有益な効果を期待通りに発揮できていないからです。この問題を解決するには、宿主植物の遺伝子型と根からの分泌物、生育環境との細菌種の適合性、在来の土壌細菌との空間的競合などを考えなければなりません。自然発生的な細菌集団とのSynComの生態的相互作用は、実際の環境では考慮しなければならない最も重要な側面のひとつだと考えられます。更に、SynComを根圏に定着させテリトリーを拡大させる為に、バイオスティミュラントを積極的に利用するという事も考えられるでしょう。

マイクロバイオームセンサーとバイオスティミュラントは、今後益々ホットな話題になっていくはずです。

参考)https://www.cell.com/trends/plant-science/fulltext/S1360-1385(22)00156-X

既存のバイオスティミュラントの例

バイオスティミュラントは、植物に対する気候や土壌の状態に起因する植物のダメージを軽減し、植物の収量を上げるための新しい技術です。特に、根圏細菌叢の制御による病原菌の抑制、植物成長ホルモンの分泌、土壌中の植物栄養素の可溶化などの効果が注目されています。
日本バイオスティミュラント協議会

このような観点で、市場にはすでに幾つかの商品が存在しています。それを幾つかご紹介したいと思います。
コメとれ~る(KODAと称されて、⽔田に繁殖するアオウキクサから採取された「α-リノレン酸」を含有し、植物の生長調節作用を示す)
Dr.キンコン(アーバスキュラー菌根菌を含有し、植物との共生効果を促進する)
Dr.放線菌(グラム陽性細菌である放線菌を含有し、病原菌を抑制する)
トリコデソイル(子嚢菌トリコデルマを含有し、病原菌を抑制する)
キチン(N-GlcNAcが植物の免疫を活性化、放線菌の餌にもなる)

アグロホロビオントは、これら既存のバイオスティミュラントの効果を改善するためのマイクロバイオームセンサーの開発を進めると共に、新しいバイオスティミュラントの開発にも取り組んでいます。
アグロホロビオントの活動

糖鎖生物学者でもあるスタンフォード大学のキャロライン・ベルトッツィらが2022年のノーベル化学賞を受賞

2021年6月に、スタンフォード大学のキャロライン・ベルトッツィらが発表したRNAが糖鎖修飾を受けているという信じがたい論文をブログ紹介しています。
small noncoding RNAが糖鎖修飾を受けているという信じがたいお話

そのご本人が、2022年のノーベル化学賞を受賞しました。
受賞した内容は、糖鎖生物学そのものではありませんが、シアル酸という糖鎖の生合成に関する研究から、生体直交化学の開拓に至りました。

因みに、「がん細胞表面のシアル酸修飾と免疫に関して」キャロラインがTED上で分かりやすい話をしています。ご参考にどうぞ!
がん細胞表面のシアル酸修飾と免疫のお話:TED Youtube

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