迫る食糧危機:東京大学大学院教授・鈴木宣弘先生の講演から長周新聞の記事が凄い

東京大学大学院教授・鈴木宣弘先生の講演が面白すぎて恐怖です。
本ブログは、日本語版のみです。
引用記事に英語版がありませんので、致し方ないところです(笑)。

迫る食糧危機㊤
迫る食糧危機㊦

新たなる緑の革命を通じて、少しでも日本の安全、食の安全に貢献できればと思う次第です。
環境再生型農業の実現‗アグロホロビオントの戦略

lectibody:レクチンとscFC抗体の二重特異性を持つ人工分子を癌治療に用いる方法

Faculty of Biology, University of Freiburg, Freiburg, Germanyらのグループは、細胞障害性T-リンパ球を動員すると同時に、癌細胞上の腫瘍関連抗原に結合する”lectibody”を、癌治療の新しいモダリティとして報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9733292/

lectibodyは、志賀毒素のBサブユニットに抗CD3単鎖抗体フラグメントを結合させることによって実現されました。悪性癌細胞に発現する腫瘍関連スフィンゴ糖脂質グロボトリアオシルセラミド (Gb3) は志賀毒素のB サブユニット(レクチンの一種)によって選択的に認識され、T-細胞上のCD3受容体は、抗CD3結合分子としての単鎖抗体フラグメント(scFv)OKT3によってターゲティングされます。

この基本概念の正しさを証明する為に、Gb3抗原の発現量が異なるふたつのヒト結腸腺癌細胞株、HT-29およびLS-174、をlectibodyで標的しました。 HT-29細胞株は多量のGb3を発現しますが、対照的に、LS-174細胞株は非常に少量のGb3を発現するか、或いは全く発現しません。以下のように、癌細胞の殺傷活性は、標的細胞の表面におけるGb 抗原の存在量と強く相関することが示されました。

野生小麦の根圏に存在する優れた善玉菌(シュードモナスとエンテロバクター)

UMR IPSiM, Université de Montpellier, Institut Agro, CNRS, Montpellier, Franceらのグループは、野生小麦の祖先の根圏から分離されたふたつの窒素固定能を持つ善玉菌について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9740669/

野生コムギの祖先の根圏からふたつの善玉菌、シュードモナス BPMP-PU-28 とエンテロバクター BPMP-EL-40、が分離されました。これらの菌株は、植物の成長に必要な土壌中の窒素の利用可能性が制限されている場合に、植物の成長を助けることが示されています。

これらの善玉菌から得られた培養上清は、以下に示すように、根尖部の根毛密度と長さに顕著な影響を与えていました(左がコントロール、右がシュードモナスの場合)。

これらのバクテリアからの分泌物には次のような特徴がありました。

AHL N-テトラデセノイル-L-ホモセリン ラクトン (TDHL) が、BPMP-PU-28 および BPMP-EL-40 からの分泌物として発見されています。 AHLは、細菌のクオラム・センシングと細菌のコミュニケーション・ネットワークに関与しており、植物の成長にプラスの効果をもたらし、植物受容体によって認識されることで、植物遺伝子発現の変更につながる可能性があります。

細菌の分泌物にはアミノ酸が検出されませんでしたが、幾つかの環状ペプチドが存在したことにも注意する必要があります。AHLとともに、環状ペプチドはクオラム・センシングに関与することが示されています。クオラム・センシングで役割を果たすことに加えて、環状ペプチドは、植物ホルモンの模倣物として機能することで、サリチル酸、エチレン、およびジャスモン酸シグナル伝達経路を昂進させます。

AHL と環状ペプチドに加えて、分泌物として同定された代謝産物の多くは、例えば抗生物質として作用作用したり(同定された代謝産物の約 18% が抗生物質効果を持つことが期待できます)、あるいは、栄養素の吸収を改善するという形で植物の成長促進に役割を果たす可能性もあります。

大豆の栽培土壌にキチンを添加した場合の根圏細菌叢の特徴的な変化

Key Laboratory of Mollisols Agroecology, Northeast Institute of Geography and Agroecology, Chinese Academy of Sciences, Harbin, China, らのグループは、大豆の栽培土壌にキチンを添加した場合の根圏細菌叢の変化について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9730418/#SM1

キチンの土壌への添加は、大豆連作の障害を軽減する有望な方法と考えられていますが、その根底にあるメカニズムは不明のままです。

そこで、本研究においては、キチン添加による根圏細菌叢の変化が評価されました。
細菌のOTUレベルでは、キチン添加は、ストレプトマイセス、スフィンゴモナス、バチルス、メソリゾビウム、およびニトロスピラの相対存在量を有意に増加させました。
真菌の門レベルでは、キチン添加は、接合菌門の相対存在量を著しく増加させ、逆に、フザリウム、パラフォマ、シリンドロカルポン、およびセプトリアらの植物病原体の相対存在量を大幅に減少させました。

ヒトのDectin-1は、O-型糖鎖修飾を強く受けており、CLEC-2 のリガンドとしても機能する

九州大学医学部らのグループは、ヒトのDectin-1は、O-型糖鎖修飾を強く受けており、C-型レクチン受容体であるCLEC-2のリガンドとしても機能すると報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36479973/

Dectin-1 は、病原体のβ-グルカンを認識する最も特徴的なC-型レクチン受容体(CLR)として知られています。本研究においては、Dectin-1が血小板に発現する別のCLRであるCLEC-2のリガンドである可能性があることが初めて発見されました。CLEC-2については、従来、その内因性リガンドであるポドプラニンをO-型糖鎖修飾依存的に認識することが知られていました

Dectin-1はムチン様タンパク質であり、その根元部分はシアリル core 1 (Galβ1-3GalNAc) またはシアリル core 3 (GlcNAcβ1-3GalNAc) らのO-型糖鎖修飾を強く受けています。この発見は、糖鎖修飾の際に個体発生を調節する生理学的リガンドとしても機能する自然免疫受容体の最初の例と考えられます。

エクソソーム表面のCD63の細胞外ループに特異的な糖鎖修飾を施し、DDSのターゲティング性能を向上させる

Biomolecular Medicine, Division of Biomolecular and Cellular Medicine, Department of Laboratory Medicine, Karolinska Institute, Huddinge Swedenらのグループは、エクソソーム表面の糖鎖修飾をエンジニアリングして細胞へのターゲティング性能を改善しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9719568/

エクソソームは、さまざまな化学および生物学的薬物の送達のための有望なキャリアであると考えられています。 エクソソームの細胞へのターゲティング性能を向上させるために、目的の糖鎖を発現するようにエクソソームをエンジニアリングしています。
エクソソームを産生する細胞に対して、CD63の大きな細胞外ループに糖鎖修飾ドメイン(GD)を挿入し、フコシルトランスフェラーゼ VII(FUT7)または IX(FUT9)をも共発現するように遺伝子操作を行いました。 P19(19-mer、PSGL-1由来)および CTP(28-mer、β-絨毛性ゴナドトロピン由来)が潜在的なsLeXペプチド キャリア(すなわち、グリコシル化ドメインとして)として選択されました。 FUT7とPSGL-1の組み合わせは、sLeXの発現を上昇させ、FUT9とPSGL-1の組み合わせは、LeX のそれを上昇させました。

この戦略を通じて、2種類の糖鎖リガンド、sLeXおよびLeXのエクソソーム上の表面発現が実証され、活性化された内皮細胞および樹状細胞に対してそれぞれ高い特異的なターゲティング性能が示されています。

小麦の根圏細菌叢:門レベルと属レベルの視点から

ICAR-Indian Institute of Wheat and Barley Research, Karnal, Haryana, Indiaらのグループは、幾つかの作付け法における小麦の根圏細菌叢の特徴について解析しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36445165/

本研究では、下記に示す6種の作付け法における小麦の根圏細菌叢を比較解析しています。
organic (Org),
timely sown (TS),
wheat after pulse crop (WAPC),
temperature-controlled phenotyping facility (TCPF),
maize-wheat cropping system (MW),
residue burnt field (Bur).

門レベルでの細菌叢の分析では、プロテオバクテリアの存在が際立っており、続いて放線菌、アシドバクテリア、ゲンマチモナデテス、およびバクテロイデスが全てにおいて大部分を占めています。属レベルでは、相対的な存在量は変化しており、特徴的なのは、バチルスとフラボバクテリウムの存在量が、それぞれTCPFとOrgで一番高く、ニトロスピラの存在量が、TS、MW、および WAPC で一番高くなっていました。

トウモロコシの種子に昆虫病原糸状菌とトリコデルマをプライミングすることでトウモロコシの収量が増加

State Key Laboratory for Biology of Plant Diseases and Insect Pest, Institute of Plant Protection, Chinese Academy of Agricultural Sciences, Beijing, Chinaらのグループは、トウモロコシの成長と昆虫による食被害に対する耐性を高めるための昆虫病原菌の種子プライミングを用いた方法の有用性について報告しています。
https://bmcplantbiol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12870-022-03949-3

アジア アワノメイガは、トウモロコシに最も被害を与える害虫であり、東および東南アジアで年間約 600 万から 900 万トンの収量損失を引き起こしています。

種子プライミングは、現在、作物の非生物的および生物的ストレス耐性、収量、および成長を促進する最も有望な技術のひとつと考えられています。本研究においては、昆虫病原糸状菌(BB処理)とトリコデルマ(TA処理)を用いた種子のプライミングについて検討が行われています。

種子プライミングで得られた実験結果から、昆虫病原糸状菌の種子プライミングによるトウモロコシ収量と経済的収益の増加を推定したところ、BBとTAを同時に種子プライミングした場合(BT処理)において、2018年と2019年にそれぞれ 6811.62 KG/ha と 8117.45 KG/ha という最高の追加収量が得られた計算になりました(これはコントロールよりも 82 ~ 96% 増加しています)。BBとTAそれぞれによる種子プライミングでは、2018 年には、それぞれ 4518.06 (52.2%) と 2930.19 (3​​5.4%)、2019 年には、それぞれ 4688.58 (55.8%) と 3982.40 (47.5%) の追加収量が得られたという結果になりました。

昆虫病原糸状菌の種子プライミングの効果は、アワノメイガ幼虫の発育に見られ、幼虫の成長速度が大幅に低下するとともに、50%以上の幼虫が3齢期に到達することさえできずに死亡したことがわかりました。BT処理で13%という最低生存率が記録され、続いてBB処理で28%、TA処理で36% が記録されたのに対し、コントロールの生存率は94%でした。

アワノメガのストレスを受けた種子プライミングおよび非プライミングのトウモロコシの葉サンプルを、抗酸化物質、プロリン、およびクロロフィルの含有量について分析したところ、真菌株による種子プライミングは、非プライミングのコントロールと比較して、BT処理によって24時間で酵素活性が大幅に昂進していました。 BT処理によって、SOD、POD、プロテアーゼ、PPO、およびプロリン活性は、それぞれ最大 80.29、336、302、141、および65.8 倍と大幅に増強されていました。更に、アワノメイガのストレスは、すべての種子プライミング処理 (BB、TA、BT) で cis-OPDA、JA、および JA-Ile を大幅に増加させましたが、BT処理で最高の植物ホルモン含有量となり、特にBT処理はトウモロコシにおける JA代謝産物の産生の増強を誘導していました。

葉に病原菌が感染すると、根からの分泌物が変化し、善玉菌を呼び寄せる

State Key Laboratory for Conservation and Utilization of Bio-Resources in Yunnan, Yunnan Agricultural University, Kunming, Chinaらのグループは、葉に病原体が感染すると、根からの分泌物が変化し、善玉菌を呼び寄せる、と報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36445116/

サンシチニンジンの葉に薬用ニンジン斑点病菌が感染すると、根圏細菌叢が変化し、根圏土壌における土壌伝染性病原体(Ilyonectria destructans)を抑制し、善玉菌(Trichoderma、Bacillus、および Streptomyces を含む)らを呼び寄せることが示されました。これら善玉菌は、病原菌(I. destructans)に対する拮抗能力を示しただけでなく、薬用ニンジン斑点病菌に対する植物の抵抗性を高めました。


葉の感染が根からの代謝分泌物を変化させる(GC-MS解析)、Inoculatedは、薬用ニンジン斑点病菌を感染させたことを意味する

これって、まるで、ヒトの免疫反応で、炎症部からサイトカインやケモカインが分泌され、白血球などの免疫細胞を炎症部位に呼び寄せる状況にそっくりです。根からの分泌物の変化がサイトカインやケモカインの分泌に相当していて、善玉菌が骨髄細胞由来の免疫細胞という訳です。

SARS-CoV-2陽性となった鼻腔サンプルにおける特徴的な糖鎖構造について

GLYcoDiag, 2 Rue du Cristal, 45100 Orléans, Franceらのグループは、ARS-CoV-2陽性となった鼻腔サンプルにおける特徴的な糖鎖構造についてレクチンを用いて解析しています。
https://www.mdpi.com/2075-4418/12/11/2860

ブログ記事にする事を止めたSARS-CoV-2ですが、ま、良いでしょう(笑)。

GlycoDIAGのGLYcoPROFILE® テクノロジーを用いて、SARS-CoV-2 陽性サンプルと陰性サンプルの間の糖鎖の違いが明確に示されました。
BPAとPHA-Eは、SARS-CoV-2 陽性サンプルから対照群を識別することができ、その蛍光強度は 3000 前後またはそれ以上でした。BPAは GalNAc 含有糖鎖を認識し、PHA-Eは二分岐複合体N-型糖鎖を認識します。更に、WFA (LacdiNAc に結合)、GSL-II (アガラクトに結合)、PHA-L (多分岐複合体N-型糖鎖に結合) らのレクチンも、SARS-CoV-2 陽性を区別できることが示されています。なお、HHAは、ネガティブコントロールとなり得ると考えられました。