海綿由来レクチンとトロンボポエチン受容体との相互作用

北海道大学水産学部らのグループは、トロンボポエチン受容体 (MPL)と海綿由来のレクチンであるトロンボコルチシン (ThC)との相互作用について報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41467-022-34921-2

海綿由来のレクチンである14kDaのタンパク質であるトロンボコルチシン (ThC)は、MPLに対するアゴニストであるということが分かっています。
そこで、本研究では、フコース結合性レクチンとしてのThCの3次元構造を明らかにし、MPLの活性化は、MPL上のフコシル化糖鎖にThCが結合することによって引き起こされるという事が示されています。


Ca2+(緑色の球)とフコース(ball-and-stick model, 黄色: 炭素, 赤色: 酸素)存在下でのrThCのダイマー構造を示す

レクチンマイクロアレイによるウイルス感染後の細胞表面糖鎖の変化:豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス感染によるブタの感染症

Beijing Key Laboratory of Traditional Chinese Veterinary Medicine, Animal Science and Technology College, Beijing University of Agriculture, Beijing, Chinaのグループは、豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス感染によるブタ肺微小血管内皮細胞の糖鎖修飾変化について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9695484/

豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス (PRRSV) は世界中に蔓延しており、何十年にもわたって養豚産業を深刻な危険にさらしており、主に豚の重度の生殖障害や子豚の呼吸器症状を引き起こしています。しかし、その病因はこれまで完全には解明されておらず、その予防と制御は依然として大きな課題となっています。

ブタ肺微小血管内皮細胞の表面糖鎖に対する高病原性ブタ繁殖・呼吸器症候群ウイルス感染の影響を理解するために、この研究ではブタ肺微小血管内皮細胞に、このウイルスのHN および JXA1 株を感染させ、それらの細胞表面糖鎖の変化を、レクチン マイクロ アレイによって分析しています。

ブタ肺微小血管内皮細胞への高病原性ブタ繁殖・呼吸器症候群ウイルス感染は細胞表面構造を著しく損傷し、複合型N-型糖鎖修飾の減少とポリ-N-アセチルラクトサミンの増加を引き起こすことが示されました。この発見は、細胞表面糖鎖の変化が、高病原性ブタ繁殖・呼吸器症候群ウイルス感染によるブタ肺微小血管内皮細胞の機能不全を引き起こす重要な要因である可能性を示唆しているかも知れません。

ヒトのDectin-1欠乏症が黒色菌糸症(phaeohyphomycosis)に与える深刻な影響

Fungal Pathogenesis Section and Immunopathogenesis Section, Laboratory of Clinical Immunology and Microbiology (LCIM), National Institute of Allergy and Infectious Diseases (NIAID), NIH, Bethesda, Maryland, USAらのグループは、ヒトのDectin-1欠乏症が黒色菌糸症(phaeohyphomycosis)に対するマクロファージ免疫防御を弱めると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9663159/

黒色菌糸症は、メラニン産生と糸状増殖を特徴とする皮膚真菌によって引き起こされる侵襲性真菌感染症です。黒色菌糸症は、通常、外傷から感染して皮下組織に影響を及ぼし、抗真菌療法および/または外科的切除で治療可能です。

本研究では、CARD9欠損症で生命を脅かす感染症を引き起こすことが知られている植物の黒色真菌であるCorynespora cassiicolaによって引き起こされる重度の黒色菌糸症の患者に焦点が当てられています。この患者は、CARD9 共役受容体である Dectin-1 をコードする CLEC7A に両アレル変異がありました。 Dectin-1 は、ヒト免疫細胞によるこの真菌に対する IL-1β および TNF-α の産生に重要であり、マクロファージによる真菌の殺傷を促進します。 CARD9とは、C-型レクチンのシグナル伝達と抗真菌免疫に関与する骨髄細胞の免疫アダプタータンパク質であります。

この患者とは血縁関係のない重度の黒色菌糸症患者 17 人も評価され、17 人中 12 人に有害な CLEC7A 変異が存在し、Dectin-1 細胞外、β-グルカン結合、C-末端ドメインらの変化と関連して、Decin-1–依存性サイトカインの産生障害を引きおこしていました。

Dectin-1欠損患者およびCARD9欠損患者のこの真菌に対する炎症誘発性サイトカイン応答の違いを示す

肝細胞癌のAFPとIgGあるいはIgMの糖鎖修飾変化を組み合わせた診断法

Department of Laboratory Medicine, Shengjing Hospital of China Medical University, Shenyang, Chinaらのグループは、レクチンマイクロアレイを用いた肝細胞癌の診断法について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9634732/

三つのレクチン(EEL、MPL、および TC)を用いたIgGの糖鎖修飾の変化とアルファフェトプロテイン (AFP) を組み合わせたモデルによって、肝細胞癌に対する良好な診断精度(ROCのAUC=0.96 (P < 0.05)、感度=82.54%、特異度=100%)を得たとしています。

また、一つのレクチン (DSL) を用いたIgMの糖鎖修飾変化とAFPを組み合わせた別のモデルでは、ROCのAUC=0.90 (P < 0.05)、感度=75.41%、特異性=100% が得られています。

カンジダ症に対するPD-L1の阻害に着目した治療法の提案

Clinical Medicine Scientific and Technical Innovation Center, Shanghai Tenth People’s Hospital, Tongji University School of Medicine, Chinaらのグループは、宿主の免疫応答に対するPD-L1発現の負の側面、即ち、骨髄から感染部位への好中球の移動を阻害し、真菌感染の免疫逃避を促進する、という役割について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9652346/

カンジダ症の原因となるカンジダ・アルビカンスは、ヒトと共生する日和見的な真菌病原体です。全身感染が起こると、カンジダ・アルビカンスは血流に入り、全身に広がり、侵襲性カンジダ症として知られる疾患を引き起こします。宿主のカンジダ・アルビカンスの殺菌は、炎症性サイトカインの放出、活性酸素種および抗菌ペプチドの生成、好中球細胞外トラップの形成といった免疫反応に依存しており、好中球が主要な働きをしています。

PD-L1は、好中球、B 細胞、樹状細胞、マクロファージなどの免疫細胞の細胞膜に発現することがわかっています。 カンジダ・アルビカンスの感染中、この真菌の細胞壁上に存在するβ-グルカンは、宿主免疫応答の調節に重要な役割を果たしています。 C-型レクチン受容体 Dectin-1(Clec7a 遺伝子によってコードされる)は、このβ-グルカンの認識にとって最も重要な好中球のパターン認識受容体であります。

本研究では、真菌のβ-グルカンによるDectin-1の活性化がマウスおよびヒトの好中球でPD-L1の発現を誘導し、高発現したPD-L1がケモカイン CXCL1およびCXCL2 の分泌を制限し、骨髄から感染部位への好中球の移動を阻害することが実証されました。この発見は、骨髄からの好中球の移動を調整という観点で、PD-L1が真菌感染症に対する好中球ベースの免疫療法の強力な治療ターゲットとして機能する可能性があることを示唆しています。即ち、PD-L1の遮断またはPD-L1発現の薬理学的阻害のいずれかによって、骨髄からの好中球の移動が大幅に増加し、宿主の抗真菌免疫が強化されるということです。

Bacillus subtilis、Delftia acidovorans、および Bacillus polymyxae が、高麗人参の根腐れ病菌(フサリウム菌)の増殖を効果的に阻害

Jilin Ginseng Academy, Changchun University of Chinese Medicine, Changchun, Chinaのグループは、高麗人参の根腐れ病(フサリウム菌)を抑制する為に、健康な高麗人参から分離されたバクテリアの抗真菌活性について報告しています。
https://journals.plos.org/plosone/article/authors?id=10.1371/journal.pone.0277191

高麗人参の根圏土壌から合計 145 のバクテリア株が分離されました。これらのうち、YN-42(L)、YN-43(L)、および YN-59(L) と呼ばれる 三つの分離株が、in vitro で フサリウム菌に対する優れた阻害活性を示しました。


ここで、
a: Bacillus subtilis [YN-42(L)]、
b: Delftia acidovorans [YN-43(L)]、
c: Bacillus polymyxae [YN-59(L)]。

バイオ肥料として5種類の善玉細菌群とバイオ炭を施した小麦とトウモロコシの植物成長促進効果について

Interdepartmental Center SITEIA.PARMA, University of Parma, Italyらのグループは、バイオ肥料として5種類の善玉細菌群とバイオ炭を施したコムギとトウモロコシの植物成長促進効果について報告しています。.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9499264/

バイオスティミュラントは、バイオ肥料や、植物成長促進微生物(PGPM)として定義されるバクテリア、および/または菌類からなります。これらは、土壌に存在する栄養素の利用可能性を高めることによって植物との良好な関係を確立し、植物の収量や健康にプラスの影響を与えます。バイオ肥料の性能を向上させるために、土壌改良剤を積極的に利用し、微生物の成長と生存を促進することが有効です。バイオ炭(Char)はその良い候補であり、その多孔質な構造により、微生物が環境ストレスから生き残ることができる隠れ家となります。

本研究では、小麦とトウモロコシの温室栽培下にて、バイオ炭(善玉細菌のキャリアとして)、ニ種類の善玉細菌群(MC-B と MC-C)、および/またはアーバスキュラー菌根菌 (AMF) の組み合わせをバイオスティミュラントとして用いた場合の効果を調査しています。

  • MC-Bは、以下の善玉菌混合物:A. vinelandii DSM 2289, R. aquatilis BB23/T4d, Bacillus sp. BV84, B. amyloliquefaciens LMG 9814, P. fluorescens DR54
  • MC-Cは、以下の善玉菌混合物:A. chroococcum LS132, B. amyloliquefaciens LMG 9814, P. fluorescens DR54, B. ambifaria MCI 7, R. aquatilis BB23/T4d

結果として、選択された善玉細菌群とバイオ炭の様々な組み合わせが、小麦とトウモロコシのシュートや根のバイオマスに関してプラスの成長効果があることが示されています。

小麦では、成長に最も寄与したバイオスティミュラントは、AMF の有無にかかわらず Char+MC-C であり、次に AMF の有無にかかわらず Char+MC-B となりました。一方、トウモロコシでは、AMF の有無にかかわらず、Char+MC-C が最適なバイオスティミュラントとなり、次に Char+MC-B+AMF または AMF のみが続きました。

SARS-CoV-2 オミクロン株に特徴的な糖鎖修飾とその影響

Institute of Synthetic Biology, Shenzhen Institutes of Advanced Technology, Chinese Academy of Sciences, Shenzhen, Chinaらのグループは、SARS-CoV-2 オミクロン株に特徴的な糖鎖修飾構造と、その影響について報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36318020/

SARS-CoV-2に関する話題をブログにするのは、もう止めようと思っていたのですが、レクチンマイクロアレイを用いた比較糖鎖プロファイリング解析を基本にしている話題だったので、本論文を糖鎖とレクチンに関する話題として簡単に紹介しておこうと思います。

レクチンマイクロアレイを使用した比較糖鎖プロファイリング解析から、SARS-CoV-2 オミクロン株では、末端フコース修飾が昂進し(UEA-Iレクチンより) 、シアリル化(MAL-II、MAA、SNA-Iらのレクチンより) およびガラクトシル化糖鎖(CSA、 WFA、SBA、VVLらのレクチンより)も、他の変異株(アルファ、ベータ、デルタ)より昂進していることが示されました。

SARS-CoV-2 オミクロンのスパイクタンパク質をノイラミニダーゼまたはガラクトシダーゼで処理すると、中和抗体の影響を受けやすくなることが示されました。これは、即ち、オミクロン株では、シアル酸およびガラクトースの修飾を受けた糖鎖の発現が高いほど、中和抗体に対するシールド効果が高まる可能性があることを意味しています。

小麦の根圏:小麦の塩害耐性を耐塩性のバチルス菌の接種で改善し、小麦の成長を促進する

Key Laboratory of Integrated Management of Crop Diseases and Pests, Department of Plant Pathology, Nanjing Agricultural University, Chinaらのグループは、小麦の塩害耐性を耐塩性のバチルス菌の接種で改善し、小麦の成長が促進されることを実証しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9608499/

塩分は、酸化ストレス、浸透圧ストレス、栄養異常、膜機能不全、光合成活性の​​低下、およびホルモン機能不全らにつながる生理学的および代謝障害を誘発することにより、小麦の生育に有害な影響を及ぼします。塩害ストレス下の植物は、活性酸素種 (ROS) を過剰生成することがあり、タンパク質、細胞壁、そしてまた核酸にダメージを与えます。本研究の目的は、中国の青海チベット地域から分離された耐塩性のバチルス株が小麦の成長を促進し、小麦に対する塩ストレスの悪影響を軽減する可能性を評価実証することでした。

バチルス菌株、PGPR、FZB42、NMCN1、および LLCG23は、それぞれ最大 10% NaCl、18% NaCl、および 14% NaClのLB 培地でも増殖できるという耐塩性を示します。
小麦へのNMCN1 と LLCG23 の接種は、コムギの成長パラメーターを大幅に強化しました。高NaCl 濃度 (200 mmol) の環境下で、コントロールとなる小麦に対して、それぞれ、生重量=31.2% と 29.7%、乾燥重量=28.6% と 27.3%、シュート長=34.2% と 31.3%、根長=32.4% と 30.2% と大幅な植物成長効果を示しました。

バクテリアの塩耐性遺伝子、DegU、OstB、OhrR、ComA、SodA、および OpuAC はすべて、生理食塩水条件下で昂進されていることが確認されました。更に、塩害ストレス (200 mmol) の下で NMCN1 を接種した小麦は、expansin (expA1)、cytokinin (CKX2)、そしてauxin (ARF)に関連する遺伝子を有意に発現させており、LLCG23 および FZB42 がそれに続きました。エチレンをコードする遺伝子 (ERF) の発現は、同じストレス条件下で栽培された NMCN1を接種した小麦で大きく発現が低下していました。以下に示すように、高度に好塩菌である NMCN1 を接種した小麦においては、耐塩性遺伝子 (MYB、DREB2、HKT1、および WRKY17)が高発現しており、続いて LLCG23 および FZB42 と続きました。

LSECtin(CLEG4G)の二分岐N-型糖鎖への結合特異性は、溶液中と糖鎖アレイの結果では異なる

Basque Research & Technology Alliance (BRTA), Chemical Glycobiology Group, CIC bioGUNE, Bizkaia, Spainらのグループは、溶液中でのNMRの実験結果と、糖鎖を固定したマイクロアレイを用いた実験結果が異なることをLSECtinと二分岐N-型糖鎖の系で示しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9615123/

非対称の二分岐N-型糖鎖に対する LSECtin (CLEG4G) の糖鎖結合特異性を、NMR によって精査した結果と、糖鎖アレイから得られた実験結果を比較しています。驚くべきことに、NMRの実験では、非対称LDN3およびLDN6 N-型糖鎖の両方が、溶液中で同様の親和性でLSECtinと相互作用することが確認されました。しかしながら、これは、これらの非対称二分岐N-型糖鎖が糖鎖アレイに提示されたときに得られた結果とは対照的であり、糖鎖アレイでは、LDN6のみがレクチンによって効率的に認識されました。

分子認識の様子は、溶液の状態と表面上では異なっています。自然界に存在するものに近いのはどれなのでしょうか?糖鎖は通常、グライコカリックスを形成する複合糖質の一部として細胞表面に露出しています。糖鎖アレイを用いた研究は、細胞表面で行われている研究に近いと考えたくなります。しかし、スライドガラスの表面は、実際の細胞表面のグライコカリックスとは全く異なりますし、リガンドを表面に固定するために使用されるリンカーの長さと化学的性質、およびスライドグラス自体も、最終的な結果と得られた結果の解釈に影響を与える可能性があります。