新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の紫外線照射による不活化について

University of Milanらのグループは、SARS-CoV-2の紫外線(UV-C: 254nm)照射によるウイルスの不活化について報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-021-85425-w

V6細胞を標的として、感染多重度(MOI)0.05、5、1000のいずれかでSARS-CoV-2が投与されたサンプルに対して紫外線を照射しています。0.05 MOIは低レベルのウイルス汚染に相当し、5 MOIはウイルス感染した患者の唾液に見られる平均濃度、1000 MOIは非常に高い濃度であり、末期のCOVID-19患者で観察された濃度に対応します。
0.05 MOIから5 MOIの領域では、4MJmJ/cm2と非常に弱い紫外線でウイルスの完全な不活性化が達成できました。最高のウイルス入力濃度(1000 MOI)でも、16.9 mJ/cm2以上の線量で完全に不活化されました。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対するPfizer (BNT162b2) /Moderna (mRNA-1273) ワクチン投与後の縦断的評価から

University of Pennsylvania Perelman School of Medicineのグループは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対するPfizer (BNT162b2) /Moderna (mRNA-1273) ワクチン投与後の縦断的評価結果を報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7941668/

  1. ワクチンの接種によって、SARS-CoV-2に過去にかかった人も、未経験の人も、同様に抗体レベルを高めることができる
  2. しかし、SARS-CoV-2に過去にかかった人は、二回目のワクチン接種で追加の効果はほとんどない
  3. SARS-CoV-2未経験の人は、二回目のワクチン接種で抗体レベルは更に高まる
  4. ワクチン接種の効果は年齢に関わらず現れるが、抗体レベルは年齢と共に減少する傾向がある
  5. SARS-CoV2未経験の人では、ワクチン接種後の抗体レベルとメモリーB細胞の間に相関関係が認められない
  6. SARS-CoV-2に過去にかかった人では、ワクチン接種後の抗体レベルとメモリーB細胞の間に相関関係が認められる
  7. ワクチンによって誘発されたメモリーB細胞応答を調べることの重要性を示している

つまり、過去にSARS-CoV-2にかかった人は、ワクチン接種は1回でも良さそうで、未経験の人は必ず2回接種は受けるべきですね。

変異の激しいRNAウイルスには、やはりカクテル抗体が有効:SARS-CoV-2のケース

Fred Hutchinson Cancer Research Centerらのグループは、SARS-CoV-2のRBDに対する二種のモノクロナール抗体(LY-CoV555, LY-CoV016)について、発生した変異の影響を調べています。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.02.17.431683v1

LY-CoV016は、K417N変異には非常に弱く、LY-CoV555は、E484K変異には非常に弱いことが分かります。両方とも1,000倍以上IC50の値が増加しています。従って、異なったSARS-CoV-2のエピトープを持つ抗体を幾つか組み合わせてカクテル抗体とすることで、SARS-CoV-2の変異に強い治療薬とすることができるであろうことを本研究は如実に示しています。

世界各地で発生しているSARS-CoV-2の変異に対するPfizer, Modernaワクチンの有効性:B.1.351やP.1変異株は危ない

Massachusetts General Hospitalらのグループは、世界各地で発生しているSRAS-CoV-2の代表的な変異に対するBNT162b2 (Pfizer)、mRNA-1273 (Moderna)という代表的なワクチンの有効性について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7899476/

世界各地で発生しているSRAS-CoV-2の代表的変異(9種類)の分布

各変異に対するPfizer, Modernaワクチンの有効性をNeutralizationで示す。B.1.1.7に対してはほとんど問題はないようですが、B.1.351 v2やP.1ではかなり有効性が下がっているように思われます。K417N, E484K この二つの変異がB.1.351とP.1に共通に存在し、B.1.1.7には存在しないようです。

乳癌や卵巣癌に対するGalectin-3を標的とする治療薬の有効性

Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New Yorkらのグループは、乳癌や卵巣癌に対するGalectin-3を標的とする治療薬の開発について報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-021-82686-3

卵巣がんや乳癌などでは、CA125エピトープを持つMUC16と名付けられたムチンが高発現しています。ムチンはO型糖鎖の修飾を強く受けており、末端部にはpoly LacNAc構造が付加して糖鎖が伸長している場合もあります。Galectin-3(Gal-3)は、poly LacNAcにアフィニティーを持ち、それ故、Gal-3はMUC16に糖鎖を介して結合します。Galectin familyは多様な機能を持ちますが、MUC16は癌細胞との関係が深く、癌の増殖や浸潤に関係しているとされています。

著者らは、Gal-3に対するモノクロナール抗体(14D11)を用いて、卵巣がんや乳癌に対するGal-3の阻害効果をin vitroおよびin vivoで評価しました。Gal-3とLacNAcのKd値は~0.2mMであり、Gal-3と14D11のKd値は~14.6nMでした。従って、14D11の方が13,000倍程強いアフィニティーを持つことになります。

MUC16を高発現するふたつの卵巣がん株(A2780, SKOV3)をマウスに移植し、14D11投与の効果を生存率で比較したものが下記です。

また、乳腺癌細胞(MDA-MB-231)をマウスに移植し、14D11投与の効果を比較したものが下記です。これらの実験結果は、Gal-3の阻害によって癌の増殖を抑えることができることを如実に示しています。

ベンサミアナタバコ(N. benthamiana)で発現させたリコンビナントACE2-Fc融合タンパク質を新型コロナウイルスの治療に使う

UC Davisのグループは、新型コロナウイルスの治療薬としてACE2-Fc融合タンパク質を使うというアイデアを提唱していました。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0237295

Chulalongkorn University, Bangkok, Thailandらのグループは、ACE2-Fc融合タンパク質を実際にベンサミアナタバコ(N. benthamiana)の葉で発現させ、in vitroにて、SARS-CoV-2の阻害効果を実証して見せました。Vero細胞にSARS-CoV-2を感染させ、その後ACE2-Fc 融合タンパク質をアプライした場合、阻害効果として0.84 μg/ml (IC50)を得たという事です。何故植物を使ったのでしょうか?彼らに寄れば、植物を使うことのメリットは、ローコスト、生産のスケーラビリティー、そして動物やヒト由来の病原体を持っていないからだ、としています。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpls.2020.604663/full

Arrayed Imaging Reflectometry (AIR) platformに形成した糖鎖アレイを利用したインフルエンザウイルスの型判別

Univ. of Rochesterのグループは、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのサブタイプ、及びノイラミニダーゼのサブタイプを簡易に見分ける方法として、Arrayed Imaging Reflectometry (AIR) platformの上に各種糖鎖を固定化したセンサーチップを開発し、利用しています。
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.bioconjchem.0c00718

ここでの興味の中心は、上記の応用例よりも、むしろ、Arrayed Imaging Reflectometry (AIR) platformとは何ぞや?という点にあります。このplatformは、Benjamin Miller Lab., Univ. of Rochesterによって開発されたもののようです。原理は物理的に非常に簡単でして、鏡面のSi基板上に薄い酸化膜を成長させ、酸化膜の上面と下面(即ちSiO2/Si界面)で反射された光の干渉効果を利用するものです。基板上に斜め入射した光が干渉効果で無反射となる反射条件を決めておき、基板上に固定したプローブとアプライしたリガンドが反応することで反射光の相互干渉に変化が起こり、反射光が現れるという現象を利用するものです。従って、SPRと同様にサンプルへの蛍光ラベリングが必要でないという利点もあります。問題はやはり感度でしょうか?しかし、上記の例では、SPRと同等以上と述べています。
https://www.urmc.rochester.edu/labs/benjamin-miller/projects/arrayed-imaging-reflectometry.aspx

IgA腎症の予後予測マーカー:糖鎖修飾の変化をレクチンで補足する

岡山大医学部のグループは、IgA腎症の予後予測マーカーについて、糖鎖とレクチンに着目した研究を報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-020-77736-1

2010年から2017年にかけて岡山大病院でIgA腎症の生検を受けた157名の患者を対象とし、尿をサンプルとしたレクチンマイクロアレイを用いた研究から、優れた予後予測マーカーを発見しています。
予後の転帰の判断基準は、glomerular filtration rate (eGFR) の減少 (> 4 mL/min/1.73 m2/year)、あるいはまた、eGFR がベースラインより30%以上減少した場合とされました。統計学的な評価には、T Scoreが使用され、ECAレクチン(Galβ1-4GlcNAcに糖鎖結合特異性を持つ)とNPAレクチン(High Mannoseに糖鎖結合特異性を持つ)が良好な予後予測マーカーになり得ることが分かりました。
ECA:(odds ratio [OR] 2.84, 95% confidence interval [CI] 1.11–7.28)
NPA:(OR 2.32, 95% CI 1.11–4.85)
T Scoreは、パーセンタイル順位を標準化した値を10倍して50を足すことで求められます。T0, T1, T2は、尿細管萎縮/腎間質線維化に関するOxford classificationを指します。

不妊症の一つの原因である薄い子宮内膜(子宮内膜発育不全)に対する再生医療学的な治療アプローチについて

成育医療研究センターのグループは、不妊症の一つの原因である薄い子宮内膜(子宮内膜発育不全)に対する再生医療学的な治療アプローチについて述べています。
https://stemcellres.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13287-021-02188-x

不妊症にはいろいろな原因があるのですが、その中の一つに薄い子宮内膜(子宮内膜発育不全)があります。子宮内膜が薄いと、卵子の着床が起こりにくいということが分かっていますが、何故そうなのか?については、殆ど分かっていません。この子宮内膜発育不全に対する治療法には、(1)エストラジオール補充やミネラルやビタミンの投与、そしてまた、再生医療的なアプローチとして、(2)多血小板血漿の投与、(3)間葉系幹細胞の投与、および(4)in vitroで培養した自家子宮内膜シートの利用などが考えられています。

再生医療学的なアプローチでは、しかし、子宮内膜を如何に効率的に xeno-freeで培養するか?という事が非常に重要です。子宮内膜は基本的にfeeder-freeでは培養が難しく、xeno-freeという観点から、著者らはMEFではなく自家子宮間質細胞をfeederとする方法を開発しました。そしてまた、子宮内膜細胞の成長を加速するという観点で、特殊培地(ESTEM-HE)を使用しました。下図にて、conventional mediumとはDMEMであり、epithelium-specific medium とは特殊培地ESTEM-HEであります。

Pfizerの新型コロナウイルス(COVDI-19)ワクチンの有効性:B.1.1.7(英国変異株)、B.1.351(南アフリカ変異株)への影響

Grossman School of Medicine, New Yorkらは、Pfizerの新型コロナウイルス(COVDI-19)ワクチンの有効性をB.1.1.7(英国変異株)、B.1.351(南アフリカ変異株)について報告しています。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.02.05.430003v1

本ブログサイトでも、他の研究グループによる同様な研究結果を記載しています(2021年2月6日の記事参照)。
本グループの報告でも、似たような傾向になっています。現在のPfizerのワクチンは、英国変異株の影響はさほど受けませんが、南アフリカ変異株に対しては、有効性がかなり下がりそうだ、というのは確かなようです。