Hydroxychloroquine, Lopinavir, Ritonavirらの新型コロナウイルス(COVID-19)に対する有意な治療効果は認められなかった

McMaster University, Canadaらのグループは、COVID-19の治療薬としてのランダム化比較試験をHydroxychloroquine, Lopinavir, Ritonavirに対して行った結果を報告しています。
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2779044

ランダム化比較試験はブラジルにて実施され、そのサンプルサイズは、hydroxychloroquineに対して214名; lopinavir-ritonavirに対して244名; プラセボに227名でありました。
ウイルスの排除に関して、hydroxychloroquine(odds ratio [OR], 0.91; 95% CI, 0.82-1.02)、lopinavir-ritonavir(OR, 1.04; 95% CI, 0.94-1.16)という結果にてコントロールに対して有意差は認められない結果でした。

因みに、
Hydroxychloroquine:抗マラリアまたは抗リウマチ薬、
Lopinavir:HIV感染症のHAART療法に用いられる医薬品、
Ritonavir:HIVやHCV感染症の治療に使用される医薬品、
であります。

COVID-19治療薬としてのデキサメタゾン(Dexamethasone)の働きについて

厚生労働省は、2020年5月に特例で承認した抗ウイルス薬「レムデシビル」に続き、ステロイド薬の「デキサメタゾン」を、2020年7月に日本国内で承認されているCOVID-19の医薬品として追加しています。デキサメタゾンがどんな役割を果たしているか?について報告している論文をご紹介しましょう。

University of Huddersfield, UKらのグループの研究報告です。
https://link.springer.com/article/10.1007/s10753-021-01464-5

PBMC(末梢血単核細胞)をSARS-CoV-2 Spikeタンパク質で刺激した場合には、炎症性サイトカインであるTNFα, IL-6, IL-1β and IL-8らが高発現します。デキサメタゾン(100nM)を用いてPBMCを前処理すると、これらサイトカインの産生が大幅に抑制されることが示されました。NF-κB転写因子、p38 MAPK、およびNLRP2インフラマソームらの活性化が炎症性サイトカインの産生を促すと考えられていますが、デキサメタゾンは、NF-κB DNA bindingを阻害する(~46%)ことが示されました。

SARS-CoV-2の変異株P.1 に対する中和抗体の活性低下について

University of Oxfordらのグループは、SARS-CoV-2の変異株P.1に対する各種治療用抗体、およびPfizer-BioNTech, Oxford-AstraZenecaのワクチンがもたらす中和抗体の活性度の変化について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8008340/

P.1 変異株には次のような変異が含まれています、
NTDにおいて、L18F, T20N, P26S, D138Y, R190S,
RBDにおいて、K417T, E484K, N501Y,
S1のC-末端において、D614G, H655Y,
S2において、T1027I, V1176F。

Lilly抗体 (LY-CoV16, LY-CoV555) については、中和能力が劇的に減少しました。Regeneron抗体 (REGN10933)およびAstraZeneca抗体 (AZD8895)についても、中和能力の低下が認められました。しかし、AstraZeneca抗体 (AZD1061, AZD 7442) については、ほとんど変化はありませんでした。Adagio抗体 (ADG10, ADG20, ADG30) は高い中和能力を持ち、最終的に100%の阻害能力を示しました。むしろ、ADG30 については、中和能力が若干向上しているようでもあります。

また、Pfizer-BioNTechのワクチン投与後得られた血清については、2.6倍(p<0.0001)、Oxford-AstraZenecaワクチンの場合で、2.9倍中和能力が減少しました。

カテキン類の一種であるGCGがSARS-CoV-2の増殖を阻害する治療薬となり得る

Fudan Universityらのグループは、緑茶に含まれるポリフェノールであるガロカテキンガレート(Gallocatechin gallate: GCG)がSARS-CoV-2の増殖を効率よく抑えることを示しました。
https://www.nature.com/articles/s41467-021-22297-8

SARS-CoV-2のNタンパク質はRNA結合性の構造タンパク質であり、RNAを抱き込んで周囲にシェルを作ります。これは、細胞質中で細胞膜レスの油滴のような巨大分子構造を作る現象である液液層分離(Liquid-Liquid Phase Separation: LLPS)の典型例です。
SARS-CoV-2に感染した細胞中で見られるNタンパク質によるLLPSを、緑茶に含まれるポリフェノールであるGCGが効率よく阻害することが確認されました。Nタンパク質のアミノ酸配列は、コロナウイルスにおいて高く保存されており(~90%)、COVID-19のみでなく、将来の新型コロナウイルスに対する治療薬となる可能性があります。

IL-1R7 抗体がCOVID-19の治療薬として有効かもしれない

University of Colorado Denver Anschutz Medical Campusのグループは、COVID-19の治療薬としてIL-1R7抗体を提案しています。
https://www.jbc.org/article/S0021-9258(21)00416-6/fulltext

マクロファージが異常に活性化(MAS: Macrophage Activated Syndrome)すると、致死率の高い重症に陥ることがあります。新型コロナウイルス(COVID-19)のサイトカインシンドロームがまさにその典型です。
IL-1ファミリーに属するInterleukin-18 (IL-18)が、MASやCOVID-19で高発現し、そのレベルが重症度と相関していることが知られています。

IL-18 は、 IL-1 Receptor 5 (IL-1R5, IL-18 Receptor alpha chain)に結合し、共受容体である IL-1 Receptor 7 (IL-1R7, IL-18 Receptor beta chain)もリクルートします。
著者らは、IL-1R7抗体がIL-18によって介在される NFκB の活性化、IFNγの産生、そして IL-6の産生を阻害することができることを示しました。

日本におけるCOVID-19患者のSARS-CoV-2 IgG抗体の血清陽性率状況

順天堂大学のグループは、34名という小規模なコホートながら、日本におけるCOVID-19感染患者のSARS-CoV-2特異的IgG, IgM抗体の血清陽性率状況を報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8023454/

chemiluminescent microparticle immunoassay (CMIA)-based SARS-CoV-2 IgG test (cat. # 06R90, Abbott) を用いた場合
重症/重篤者の場合:症状発症後1週間以内=40%、1~2週間=88%、2週間後=100%、
軽症/中症者の場合:症状発症後1週間以内=0%、1~2週間=38%、2週間後=100%、
となりました。

IC IgG antibody assay using the Anti-SARS-CoV-2 Rapid Test (cat. # RTA0203, AutoBio) を用いた場合
重症/重篤者の場合:症状発症後1週間以内=60%、1~2週間=63%、2週間後=100%、
軽症/中症者の場合:症状発症後1週間以内=17%、1~2週間=63%、2週間後=100%、
となりました。

これらの結果は、症状発症後14日、呼吸困難のない軽度の症状の患者を含み、PCRの補完検査としてIgG抗体検査をCOVID-19の診断に使うことができることを示しています。
しかし、このコホートは小規模であり、無症状者を含んでいないので、更なる大規模なコホート研究が必要だと思われます。

SARS-CoV-2 Spikeタンパク質のSite-specificな糖鎖修飾の違いについて

University of Southamptonらのグループは、SARS-CoV-2のSpikeタンパク質(All recombinant)について、糖鎖の修飾状態がどのように違うか?について、5つの研究機関のサンプルを比較しています。
使用されている細胞株は下記のようです。
HEK293: Amsterdam, Harvard,
HEK293F: Southampton/Texas,
HEK293T: Oxford,
CHO: Swiss,
糖鎖修飾が宿主細胞の違いや培養条件の違いを反映して(?)、かなり研究機関毎に異なっていることが分かります。
基本的には、Oligo mannoseと複合型のN-型糖鎖が発現しています。

ブログ管理人にとっての興味は、この違いが、SARS-CoV-2の感染力にどの程度の違いをもたらしているか?更には変異が入った時に、糖鎖修飾がどの程度変化を受けているか?そしてそれがどの程度感染力に影響しているか?という課題です。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.03.08.433764v1.full

カクテル抗体(REGN-COV2)は、B.1.1.7, B1.351, P.1変異株の影響を受けない、しかし、Pfizer BNT162b2ワクチン接種での有効性はB.1.351, P.1に対しては低下する 

German Primate Center, Göttingenらのグループは、COVID-19の主要な変異体に対する各種抗体(Casirivimab, Bamlanivimab, Imdevimab)及びカクテル抗体 (REGN-COV2: Casirivimab, Imdevimabを含む)の有効性、更にはPfizer BNT162b2ワクチンのそれら変異体に対する有効性を報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7980144/

カクテル抗体(REGN-COV2)は、すべてのvariants (B.1.1.7, B.1.351, P.1)のSタンパク質によって媒介される侵入を効率的に阻害しました。しかし、REGN10989およびBamlanivimabは、B.1.351およびP.1 varinatsのSタンパク質に対しては有効性が低下することが示されました。

一方、Pfizer BNT162b2ワクチンは、SARS-CoV-2 Sタンパク質をコードするmRNAに基づいており、COVID-19に対して有効なワクチンとされています。BNT162b2で2回免疫した15人のドナーからの血清の中和活性を測定した結果は、WT Sタンパク質によって引き起こされる感染を効率的に阻害し、B.1.1.7変異体のSタンパク質によって引き起こされる感染阻害はわずかに減少しただけでした。しかし、15の血清のうち12は、B.1.351およびP.1変異体のSタンパク質によって引き起こされる感染阻害が著しく低下しました。

COVID-19の胸部CT画像のDeep Learningを用いた診断精度

Sejong University, Seoulらのグループは、新型コロナウイルス(COVID-19)の診断に使われる胸部CT画像に対して、Deep Learningを適用し、COVID-19の診断精度を議論しています。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0249450

Deep Learningに使用されるNeural Networkは20層の構成であり、畳み込みとプーリングを組み合わせて構成されています。入力画像の解像度は、(224 x 224)であり、畳み込みは、(3 x 3)或いは(5 x 5)が使用されています。得られたCOVUID-19の全体的な診断精度は、99.83%(感度=0.9286、特異度=0.991)に達したとのことです。今後は、診断分野へのAI(Deep Learning)の投入が加速していくと思われます。

SARS-CoV-2 Spikeタンパク質をナノ粒子化したワクチンを用いることで、変異に強い広域中和抗体の生成を促すことができる

The Scripps Research Instituteは、SARS-CoV-2 Spikeタンパク質のナノ粒子を用いることで、ウイルスの変異にも強い広域中和抗体を作ることができるとしています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8010731/

現在のワクチンの主流は、recombinant SARS-CoV-2 spikeを抗原として提示する形のプラットフォームであり、mRNAを包含したリポソーム (例えば, BNT162b2 や mRNA-1273)、アデノ随伴ウイルス・ベクターを用いたもの (例えば, ChAdOx1 nCoV-19 [AZD1222], CTII-nCoV, Sputnik V, や Ad26.COV2.S)らが存在します。これらのワクチンは、B.1.1.7変異についてはまだしも、B.1.351やP.1変異に対しては、有効性が顕著に低下することが指摘されています。従って、ウイルス変異に強い広域中和抗体を作ることが出来るワクチンが切望されており、その為には、成熟した抗体を長期間にわたって生み出せる胚中心の形成が必要不可欠です。

SARS-CoV-2 spikeタンパク質は、S1-S2ヘテロダイマーの三量体を形成しています。S1 subunitには、感染をイニシエートするRBDが含まれており、S2 subunitには、fusion peptide (FP) と heptad repeat regions 1 と 2 (HR1 と HR2)が含まれています。著者らは、Spikeタンパク質の安定性を高めるためにHR2-deleted, glycine-cappedのspikeタンパク質をデザインし (S2GΔHR2)、I3–01v9 60-mersをリンカーとしてナノ粒子化したS2GΔHR2-10GS-I3-01v9-LD7-PADRE (I3-01v9-L7P)をワクチンとして使用しました。I3-01v9-L7Pには、20個のS2GΔHR2が含まれています。

S2GΔHR2-10GS-I3-01v9-L7Pをワクチンとして使用することで、B.1.1.7, B.1.351, P.1 変異に対してほぼコンパチブルな力価を有する広域中和抗体が生成されていることがわかりました。このナノ粒子は、単体Spikeに比べて、6倍長い保持時間、4倍大きい濾胞樹状細胞群、5倍高い胚中心の活動を示しました。この理由については、定かではありませんが、ワクチンのサイズ効果だと推測されます。