新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のS-タンパク質に発生した変異について:A930V, D614G, A706S, A879Sなど25個の変異が発生

2020年6月6日現在のNCBI-Virus-databaseにインドから登録されている新型コロナウイル(SARS-CoV-2)のRNAシーケンスから、中国武漢で感染拡大が始まった当初の株に比較して、どんな変異が発生したかについての研究成果が報告されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7521409/

25個の変異が発生しており、発生個所は、4個のクラスター(1-100, 148-255, 570-680, 820-930)に分かれるようです。

 

T572I, A879S, A892V, A930Vの変異は、タンパク質の二次構造に大きな変化を引き起こしており、T572Iはcoilded→helixへ、他の三つはhelix→beta sheetへの構造変化を招いています。A930V, D614G, A706S, A879Sの変異は、タンパク質の構造に比較的大きな違いを生んでいるようです。特に興味深いのは、D614Gの変異が実に88%のRNAシーケンスで起こっており、インドで感染拡大している新型コロナウイルスの中で主流になっているということです。このD614Gについては、RBDのopen conformationを助長し、その結果感染力が上がっていると言われています。

R408I, E471Qは、インドでのみ見られている変異とのことです。

新型コロナウイルス(COVID-19)の早期検査に血清中のSARS-CoV-2のカプシドタンパク質(N-protein)の検査が非常に有効

新型コロナウイルスの検査には、感染の有無を検査するRT-PCRと感染履歴があるかどうかを検査する抗体検査があることは周知の通りです。
新型コロナウイルスに感染して抗体が立ち上がるまでには一週間以上が必要であることから、抗体検査を早期診断に使うことはできません。血清中のSARS-CoV-2のカプシドタンパク質に着目すれば、抗体が立ち上がる以前の早期でも新型コロナウイルスの感染を検査できるという報告があります。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7498565/

ROCカーブでは、AUC=0.9756 (95% CI)、感度=92%、特異度=96.8%が得られたとのことです。なお、カプシドタンパク質のカットオフ値は、1.85 pg/mLでした。

素晴らしい成果ではないでしょうか・・・。

新型コロナウイルス(COVID-19)の治療薬として期待されるトウゴマとヨウシャヤマゴボウ由来レクチンの融合タンパク質

新型コロナウイルス(COVID-19)の治療薬として、トウゴマの種から抽出されるリシンA鎖の変異体(RTAM)とヨウシャヤマゴボウの葉から抽出されるPAP1の融合タンパク質(RTAM-PAP1)の有用性について、SARS-CoV-2の各種タンパク質へのアフィニティー評価とマウスを用いた毒性試験の観点から報告しています。
https://www.mdpi.com/2072-6651/12/9/602/htm

RTAM-PAP1、ACE2、SARS-CoV-2の患者由来の抗体B38らと、SARS-CoV-2の各種タンパク質の間の結合力をCoDockPP, HASSOCK2.2, ZDOCKという3次元分子構造解析ソフトを用いて評価した結果、RTAM-PAP1は、ACE2よりも強く、総合的にB38と同等な結合力を示しました。
また、マウスを用いた毒性試験では、1mg/kgのドーズでも副作用は発生しなかったとのことです。

新型コロナウイルスの治療薬として、トウゴマとヨウシャヤマゴボウ由来レクチンの融合タンパク質の有用性を示すものになっています。


トウゴマ

 

 


ヨウシャヤマゴボウ

RT-PCRを用いた新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検出において、他のコロナウイルスとの交差反応性を無くする方法について

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染疑いの検査には、ご存知のようにRT-PCRが使用されています。検査においては、感度と特異度が非常に大切なのですが、一般に広く実施されているRT-PCRがSARS-CoV-2に対して交差反応性の観点からどれだけ高い特異性を持っているのかについては、多少とも疑問があります。そこで、感度を犠牲にせず、SARS-CoV-2検出の特異度を改善するための方法論が下記グループから報告されています。
https://www.mdpi.com/2075-4418/10/10/775

方法論としては、(1)SRAS-CoVの構造タンパク質をコーディングする部位の内、アクセサリータンパク質とエンベローププロテインをコーディングする(ORF3ab-E)の領域とカプシドタンパク質をコーディングする(N)領域の二つをターゲットとしてPCRのプライマーを設計し、(2)N領域をターゲットとして設計した人工的なペプチド核酸(PAN)をPCRのブロッカーとして併用する方法です。

ペプチド核酸とは、核酸の糖-リン酸骨格をN-(2-アミノエチル)グリシンを単位とする骨格に置き換え、メチレンカルボニル結合で塩基を結合させた化合物であり、標的DNA・RNAに対する結合親和性が1000倍近くも増加します。従って、プライマーとしては働かず、PCR反応の阻害剤として機能します。

この結果として、他のコロナウイルスやインフルエンザウイルスらとの交差反応性が消失し、SARS-CoV-2の検出率は、ORF3ab-Eに対して100%、PNA-Nに対して82.6%となったとのことです。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の治療薬としての感染阻害剤について:フーリン、II型膜貫通型セリンプロテアーゼらの阻害剤は有効か?

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のSタンパク質は、感染受容体に結合するS1部位と細胞膜融合に関与するS2部位に大きく分かれます。このS1部位とS2部位の境界にはフーリン切断部位(furin cleavage site)が存在し、S2部位内にはII型膜貫通型セリンプロテアーゼ(transmembrane protease serine 2:TMPRSS2)のターゲット部位も存在します。これらの部位に対する阻害剤を用いることで、新型コロナウイルスの感染を押さえることができるのではないか、という研究成果が報告されています。
https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S2211-1247(20)31243-2

decanoyl-RVKR-chloromethylketone(CMK):furin阻害剤、camostat:TMPRSS2阻害剤、それに加えてRNAの複製を阻害するnaphthofluoresceinらが検討されました。実験にはVeroE6細胞が使用されています。

 

 

 

 

 

薬効と毒性を検討した結果、50%阻害濃度 (IC50) は、0.057 μM: CMK、9.025 μM: naphthofluorescein、そして 0.025 μM: camostatとなりました。 50% 細胞毒性濃度 (CC50) は、318.2 μM: CMK、57.44 μM: naphthofluorescein、そして2,000 μM: camostatでした。結果としての選択指数は、5,567: CMK、6.36: naphthofluorescein、そして 81,004: camostatとなっています。

CMKとcamostatはウイルスの初期感染を阻止し、naphthofluoresceinはウイルスの複製を阻止する、という違いがあることに注意しましょう。今後の診断薬開発のリード化合物として更なる検討を期待します。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染を押さえるには、パイナップルの摂取が良い

Univ. of Nebraska Medical Centerのグループは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染を抑制するために、パイナップルから抽出されるブロメライン(タンパク質分解酵素の中のシステインプロテアーゼに分類される酵素)が有効だとする研究成果を報告しています。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.09.16.297366v1

 

 

 

 

 

ブロメライン(bromelain)は、SARS-CoV-2の感染受容体であるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2), II型膜貫通型セリンプロテアーゼ(TMPRSS2)およびSARS-CoV-2のS-タンパク質をターゲットとして作用し、 SAS-CoV-2の感染を抑制します。ブロメラインは、消化器官から良く吸収され、体内でも生化学的な活性を維持することから、ブロメラインが豊富なパイナップルを摂取することが新型コロナウイルスの感染抑止に有効であろうとしています。

 

新型コロナウイルス(COVID-19)では、男性の方が女性よりも重症化率が高いが、特に”ハゲ”では重症化率が急上昇するらしい

新型コロナウイルス(COVID-19)においては、男性ホルモンの影響により男性の方が女性よりも重症化しやすいという報告があります。下記の研究は、その中でも”ハゲ”の男性が非常に重症化率が高いことを報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/P

”ハゲ”の指標には、下記のNHS-scaleが使用されています。

 

 

 

 

 

NHS-scaleで、3から7の男性では非常に重症化率が高くなっていることが分かります。

 

膵管腺癌のオルガノイドを用いたバイオマーカー探索について

Harvard Medical Schoolのグループは、膵管腺癌のバイオマーカーとして、そのオルガノイドを用いた研究から候補となるバイオマーカーを報告しています。

https://insight.jci.org/articles/view/135544

(1) 糖鎖の観点から:High mannoseおよびLewis Xエピトープ構造が膵管腺癌で増加する。

(2) 細胞外小胞(EV)タンパク質の観点から:ANXA11(アネキシンA11:小胞体の輸送小胞COPIIの出芽領域に動員されるカルシウム依存性リン脂質結合タンパク質)が増加する。

更なる研究の進展を期待しましょう。

 

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のSタンパク質のD614G変異で感染能が上がっている原因は、RBD(Receptor Binding Domain)のConformationの変化にある

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)において、現在は、Sタンパク質のD614G変異を持つ株が感染の主流となっています。University of Massachusetts Medical Schoolらのグループは、何故、過去のD614よりもD614G変異の方が感染能が高いのかという原因についてその研究成果を報告しています。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7492024/

SPRを用いて、D614GとACE2との相互作用を解析した結果は、D614G変異によってACE2へのアフィニティーが高まっていることが原因ではないことを示しており(むしろ、若干アフィニティーが下がっている)、Cryo-EMによるSタンパク質の構造解析からは、RBD(Receptor Binding Domain)のClose とOpenの存在割合が変化しており、D614よりもD614G変異の方がOpen構造の割合が増加していることを示しています。従って、D614Gの感染能が高まっている原因は、Sタンパク質のRBDがより露出したことが原因であると結論されています。

 

Deep Learningによる胸部X線撮影画像の診断で新型コロナウイルス(COVID-19)の診断精度が大きく向上した

新型コロナウイルス(COVID-19)の診断として胸部のレントゲンやCTが常用されます。Univ. of Oklahomaのグループは、胸部のX線撮影画像からCOVID-19由来の肺炎かどうかを判別するに際し、Deep Learningの手法を取り入れることで、その診断精度を上げることに成功しています。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S138650562030959X?via%3Dihub

Deep Learningは、Convolutional Neural Networkを6層使用し、入力する胸部X線撮影画像を224 x 224 x 3のサイズとし、Convolutionは3 x 3としています。入力画像の x3はR, G, Bの3色であることを示します。X線撮影画像は、白黒のグレーですので、R, G, Bの3色は、下図に示すような画像の前処理で作っています。下図において、(Ip)は横隔膜を除去した画像、 (Ieq)は画像の強度ヒストグラムを用いてコントラストを調整する画像処理方法を加えたもの、そして (Ib)は、更にバイラテラルフィルタを加えたものであり、この3つの (Ip), (Ib), (Ieq) を用いてR, G, B画像をシミュレートしています。

 

 

 

 

 

Deep Learningの結果は、
X線撮影画像をそのまま用いたsimple modelで、精度として88%が得られ、上記した画像の前処理を加えると精度は94.5%に向上したとのことです。

Deep Learningを用いた診断が益々医療の現場で用いられる時代になるのではないでしょうか?