SARS-CoV-2 ワクチンの3回目の接種で起こる免疫反応について:2回目接種の8カ月後に3回目を接種

The Institute of Medical Biology, Chinese Academy of Medical Sciences and Peking Union Medical College, Kunming, Yunnan, Chinaらのグループは、SARS-CoV-2の不活化ワクチンの3回目の接種によっておこる免疫反応について報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34666622/

SARS-CoV-2の不活化ワクチンの開発と製造に協力した53人のボランティアが本研究の対象者となっていますが、どのメーカーが開発製造したものであるのかは不明です。被験者は、2020年に、2回のワクチン接種を28日間空けて受けており、2回目の接種から8カ月後に3回目の接種を最近受けました。

3回目の接種後、当日、5日後、7日後、そして14日後に6名のボランティアから血液を採取し、評価されました。SARS-CoV-2のWuhan株に対する抗Spike抗体や中和抗体が接種後5日目以降に立ち上がり、14日後には抗体の正のコンバージョンレートが100%に達しました。興味深いことに、SARS-CoV-2に対するIFN-γ-T細胞反応の記憶も3回接種後に急速に呼び覚まされていました。

このことは、2回の不活化ワクチン接種で誘起される中和抗体は徐々に減少していくのですが、3回目の接種で抗体反応は急速に呼び覚まされ、2回目接種から8カ月経ってもT-細胞記憶もまだ消えていないことを示しています。

SARS-CoV-2に対する抗体の母乳へのトランスファーは、IgAとIgMが主体である

Department of Biological Engineering, Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, MA, USAらのグループは、SARS-CoV-2に特異的な抗体の母乳へのトランスファーは、IgAとIgMが主体であると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8531199/

以前の研究では、妊娠した女性の抗体のFcエフェクター機能は、胎盤を経由して子供にトランスファーされるということが分かっています。しかしながら、そのFcエフェクター機能の母乳へのトランスファーについては、良く分かっていませんでした。

当然でしょうが、SARS-CoV-2に感染した母親は、SARS-CoV-2に特異的な抗体を血中にも母乳の中にも持っていました。しかし、興味深いことに、母乳へのトランスファーは、IgAとIgMが主体であり、IgG1のトランスファーはかなり限定的であることが分かったのです(下図参照)。

サーファクチン型リポペプチドの重要性:根の表面のペクチンをバチルス菌が認識することで共生関係が深まる

University of Liège‐Gembloux Agro‐Bio Tech, Gembloux, Belgiumらのグループは、根圏細菌であるバチルス・ベレツェンシスは植物の根のペクチンを認識し、共生関係を深めていくとしています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34724831/

植物の根と根圏細菌が共生関係を開始する初期の段階での分子間相互作用については、良く分かっているとは言えません。著者らは、善玉菌の一種であるバチルス・ベレツェンシスが、植物の根の細胞表面のペクチンを根からの滲出液とのシナジーの中において認識することによって、バチルス菌の初期のコロニー化の過程で共生関係を深める重要な分泌物としてサーファクチン型リポペプチドの分泌が非常に高まることを示しました。

実際、下図に示すように、homogalacturonan low methylated (HGLM)(ペクチンのこと)を根からの滲出液を模した培地(REM)に加えることでサーファクチンの産生が8倍増加することが示されました。しかしながら、バクテリアは、HGLMよりも低分子のオリゴマーは認識しない様であり、下図に示すように、oligogalacturonides(OGs)を添加してもサーファクチンの産生には何の影響も見られませんでした。 このことは、長鎖のポリマーは、バクテリアのコロニー形成に適した健康な植物の存在を意味し、短鎖のポリマーは共生関係を築くには不適切な死んだ根っこである、ということをバクテリアが見抜いているからなのかも知れません。


homogalacturonan low methylated (HGLM), DP of >150; oligogalacturonides (OG), DP of 15; galacturonic acid (GA), DP of 1; DPはdegree of polymerizationの略

しかし、この論文においては、植物の分子パターンとしてのペクチンのバックボーンを認識するバクテリアのレクチン様タンパク質については一切の情報がなく、今後の課題であります。

ヒトのマンノース特異的レクチンのそれぞれを狙い撃ちするマンノシル化高分子の人工合成

Department of Chemistry, Massachusetts Institute of Technology, MS, USAらは、ヒトのマンノース特異的レクチンの各々に特異的なマンノシル化高分子を開発しました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8549053/

糖鎖結合性タンパク質(レクチン)は、病原菌に結合し自然免疫を活性化するように、多様な細胞認識、シグナリングに重要な役割を果たしています。レクチンをターゲットにする、特に免疫細胞表面に発現するそれらをターゲティングするということは、免疫や創薬に大きく貢献する可能性があります。レクチンは多量体を形成していることが多く、それ故、結合するリガンドのほとんどは多価であります。レクチンをターゲティングする場合の有効な方法は、ポリマーをバックボーンとして単一の糖鎖エピトープを多重に乗せることであります。しかしながら、このような多価のリガンドの欠点というのは、単糖特異性を共有するレクチンのそれぞれを区別することが出来ないという事です。例えば、マンノース単糖特性を持つレクチンには、DC-SIGN、DC-SIGNR、MBL、SP-D、langerin、dectin-2、mincle、DEC-205などがあります。

著者らは、これらのマンノース特異的レクチンをより正確にターゲティングできるようなマンノシル化高分子を開発しました。

ターゲットのマンノシル化糖高分子を生成するために、(R)-または(S)-グリシジルプロパルギルエーテル(GPE、> 99%ee)から始まる反復指数関数的成長(IEG)サイクルを実行して、正確に8、16、または32のアリル側鎖を持つ高分子を作り上げます。この時に、すべて(R)(アイソタクチック)、すべて(S)(アイソタクチック)、および交互(R-alt-S)(シンジオタクチック)の3つの異なる高分子構造を作り上げました。そして、この高分子にマンノース残基を付加するために、これらをUV光(λ= 365 nm)下でβ-チオマンノースナトリウム塩と反応させました。

結合アフィニティーは、サンプル間で数ケタ以上変わっていました。例えば、DC-SIGNのKA値は、(S)-8merに対して 1 × 104 から(R)-16merに対して、1 × 108 にまで変化しています。Dectin-2の場合でも、1 × 104 から1 × 108に変化していますし、DEC-205の場合には、すべての高分子に 1 × 106 から 1 × 109で強く結合し、(R)-32merの場合で最も強いアフィニティー 2.2 × 109を示しました。

このように、同じマンノース単糖特性を持つレクチンに対して、広いレンジのアフィニティーを実現できていることは驚異的です。

ヘビ毒であるホスホリパーゼA2(PLA2s)がSARS-CoV-2に対して高い抗ウイルス活性を示す

Department of Molecular Neuroimmune Signalling, Shemyakin-Ovchinnikov Institute of Bioorganic Chemistry, Russian Academy of Sciences, Moscow, Russiaらのグループは、バイペラ・ニコルスキーというヘビの毒(ホスホリパーゼA2(PLA2)の二量体)が、SARS-CoV-2に対して高い抗ウイルス活性を示すと報告しています。.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34714362/

バイペラ・ニコルスキーから得た二種のヘビ毒(HDP-1、HDP-2)とそのサブユニット(HDP-2I、HDP-2P)を天然の抗ウイルス剤として評価しました。
Vero E6細胞を用いたSARS-CoV-2の感染実験において、HDP-2Pは、わずかに0.1 µg/mlの濃度でさえ、完全に感染を押さえることが出来ました。
一方、そのHDP-2PのVero E6細胞に対する細胞毒性は、100 μg/ml という濃度で、51%ほど細胞の生存率を下げるに留まるという結果でした。

これらの結果は、SARS-CoV-2に対する抗ウイルス薬を開発する上において、PLA2が天然物として高いポテンシャルを持つものであることを示しています。

サポニンを用いて根圏細菌叢を制御する

京都大学生存圏研究所らのグループは、サポニンを用いて、根圏細菌叢を制御できると述べています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8538258/

植物の根からの代謝物は、根の滲出液と呼ばれており、光合成による炭素固定の約40%を占めると考えられています。根の滲出液に引き寄せられて集まった根圏バクテリアは、植物の成長を助け、各種の環境変動に対して植物を強くします。しかしながら、これらの根の滲出液と根圏バクテリアの関係については、まだ良く分かっていないというのが実情です。
サポニンは、そんな根の滲出液の成分の一つであり、被子植物に広く見られるものです。サポニンは、生物学的及び薬理学的な活性を示し、例えば、抗バクテリア作用、抗菌作用、そして、溶血性や細胞毒性という側面も持っています。

サポニン類(α-Solanin、dioscin、soyasaponins、glycyrrhizin)の処理によって、下図に示すように、バークホルデリア、メチロフィルス、ロドシクルス、モラクセラ、シュードモナス、P3OB-42、カウロバクター、ステロイドバクター、ゲオバクター、スフィンゴモナス科のバクテリアが増加していました。

例えば、バークホルデリア科のバクテリアは、植物の免疫反応に関わる遺伝子の発現上昇、揮発性硫黄化合物やシデロホアの産生を通じて植物病原菌を抑制したり、スフィンゴモナス科のバクテリアは、植物ホルモンの産生、重金属毒性の軽減、乾燥耐性の強化、植物病原菌の抑制らを通じて、植物の生長を促進することが知られています

サポニンを産生分泌する植物は、それ故、これらバクテリアを根圏に引き付けることによって利を得ていると考えることは非常に尤もらしいと言えるでしょう。