SARS-CoV-2の変異株(アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、イプシロン、カッパ)とACE2の結合力の分子動力学的なシミュレーションから

Lehigh University, Bethlehem, USAのグループは、SARS-CoV-2の各種変異株のRBDとACE2の間の結合力について、糖鎖修飾も考慮に入れた形で分子動力学シュミレーションを行っています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8328061/

SARS-CoV-2 RBDとACE2複合体に対して、RBDとACE2それぞれの重心間の距離の関数として引き剥がすに必要な引っ張り力を分子動力学シュミレーションにより評価しています。RBD-ACE2複合体については、N型糖鎖の完全修飾を仮定し、下記の6種のSARS-CoV-2変異株について計算が行われました。

アルファ変異株 (英国において発見, B.1.1.7: N501Y),
ベータ変異株 (南アフリカにおいて発見, B.1.351: K417N, E484K, N501Y),
ガンマ変異株 (日本とブラジルにおいて発見, P.1: K417T, E484K, N501Y),
デルタ変異株 (インドにおいて発見, B.1.617.2: L452R, T478K)),
イプシロン変異株 (カリフォルニアにおいて発見, B.1.427: L452R) ,
カッパ変異株 (インドにおいて発見, B.1.617.1: L452R, E484Q)),

アルファ変異株が、ACE2からの引き離しには一番強い力を必要とし、ベータ変異株、ガンマ変異株或いはデルタ変異株の順になります。ベータ変異株とガンマ変異株のK417N/T変異が、アルファ変異株に比べて力が弱くなっている原因のようです。加えて、イプシロン変異株はL452R変異によって不安定化したRBDの構造により他の変異株よりも力が弱くなっています。デルタ変異株は、RBDとACE2の距離が相対的に遠い場合に最も強い力を必要とするようです。

興味深いことに、デルタ変異株の様子は、他の変異株とは違っています。T478K変異の影響にて、RBD-ACE2間の距離が78Åで完全に分離するときに最も強い力を必要とします。何がその違いを生み出しているかなのですが、T478K変異によって、デルタ変異株のRBDとACE2bの間には他の変異株の場合よりもより多くの分子間結合点があるようです。デルタ変異株のK487は、距離=78ÅにおいてACE2のP84とM82に結合しているのですが、イプシロン変異株のT478ではこのような相互作用は消失しています。フレキシブルなループに存在する478残基がACE2と一番最初に結合するチャンスがあり、その間の強い相互作用がデルタ変異株がその高い感染力で蔓延した原因になっているのかも知れません。