オミクロンは、鼻腔上皮でデルタよりも100倍増殖し易い、しかし、その原因はhACE2に対する結合力が上がっていることだけではない

Department of Infectious Disease, Imperial College London, UKらのグループは、SARS-CoV-2 オミクロンのヒト鼻腔上皮細胞(hNEC)におけるより高い感染力と、その考えられる理由について報告しています。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.12.31.474653v1

SARS-CoV-2 オミクロンは、ヒト鼻腔上皮細胞で感染初期の増幅力が高く、感染後24時間までにデルタよりも約100倍高い増殖力を示しました。感染後48時間を過ぎると、オミクロンはデルタと比較して低下し始め、72時間では、オミクロンは少なくなっていました。 Vero-ATセルでは、2つの変異株の増殖率は同等でしたが、Calu-3細胞では、オミクロンは、すべての時点でデルタよりも低くなっていました。

デルタなどの以前のSARS-CoV-2変異体は、ACE2に結合し、細胞表面プロテアーゼTMPRSS2を介して融合を活性化することによってのみ効率的に細胞に侵入することができます。しかし、オミクロンは、エンドソーム制限を回避する能力を進化させて、TMPRSS2依存および非依存の両方の方法で細胞に侵入することができるようです。これにより、オミクロンは、ACEとTMPRSS2が両方発現昂進している細胞だけに頼るのではなく、気道内のACE2発現細胞に感染することができることが増殖率アップの大きな原因であろうと考えられます。

他に幾つかの報告例もありますが(本ブログでも2022年1月5日に紹介)、オミクロンのSpikeタンパク質は、以前のどの変異体よりもマウスのACE2(msACE2)によく結合することもわかりました。これは、オミクロンがヒトからマウスにジャンプし、その宿主内で変異を蓄積し、そしてヒトに戻ってきた可能性があることを示唆しています。

SARS-CoV-2 オミクロン株に感染するとデルタ株に対する中和抗体の力価が上昇する

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34981076/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8722618/

この二つのレポートから、

オミクロンに感染するとデルタに対する中和抗体の力価が上昇すること(約4.4倍)、

三回mRNAワクチンを接種すると、どの株に対しても中和抗体の力価は高めに保持される、

ということが分かります。

SARS-CoV-2 オミクロンはマウス起源?

University of Chinese Academy of Sciences, Beijing, Chinaのグループは、SARS-CoV-2オミクロン株の前駆株はマウスで進化したという仮説を提唱しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8702434/

一般的に言えば、ウイルスゲノムに蓄積する突然変異の分子スペクトルは、宿主特異的な細胞環境を反映します。

感染爆発前のオミクロン変異の分子スペクトルは、ヒトで厳密に進化したことが知られているSARS-CoV-2変異体の「標準」分子スペクトル(hSCV2スペクトル)とは大幅に異なり、興味深いことに、 感染爆発後のオミクロン変異の分子スペクトルは、hSCV2スペクトルと極似していました。統計的観点から、これらの分子スペクトル分析は、感染爆発前のオミクロン突然変異がヒトで獲得された可能性が低いことを強く示唆しています。

感染爆発後のオミクロン変異(ヒトで蓄積したことが知られている)の分子スペクトルは、ヒトの95%信頼性楕円内に位置していますが、対照的に、感染爆発前のオミクロン突然変異の分子スペクトルはマウスの信頼性楕円内にあり、感染爆発前の突然変異がげっ歯類(特にマウス)の宿主で蓄積したことを示唆しています。

また、RBDの感染爆発前のオミクロン変異は、分子ドッキング分析により、32種類の哺乳動物の中でマウスACE2に対して最も強い結合親和性を示したことも確認されました。

HCoVに特異的なCD8+ T細胞が、SARS-CoV-2に交差反応を示す

理研)免疫学研究所のグループは、ヒトの風邪のウイルスに特異的なCD8+ 特定のT細胞がSARS-CoV-2に対して交差反応を示すことを報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8640030/

最近、ヒト白血球抗原(HLA)の対立遺伝子とCOVID-19の関係が注目されています

著者らは、主要なHLAの1つであるHLA-A*24:02と、SARS-CoV-2に対して交差反応するCD8+ T細胞との相互作用を評価しています。in vitroアッセイを使用して、癌に対する既存のCD8+ T細胞を検出したり、SARS-CoV-2に対する交差反応性CD8+ を有するT細胞を検出することができます。
cited from https://www.jstage.jst.go.jp/article/mhc/23/2/23_115/_pdf/-char/ja

PBMCを選別された6種類のペプチド(Pep#1~Pep#6)の存在下で培養し、21日目にエピトープ特異的なIFN-γ産生CD8+ T細胞の頻度を評価しました。SARS-CoV-2 Spike タンパク質から選択されたこれら6種類のペプチドは HLA-A*24:02 に高い親和性で結合すると予想されましたが、これらのうち5つはT細胞応答を誘導せず、 Pep#3(アミノ酸配列= QYIKWPWYI 、SARS-CoV-2スパイク位置= 1208-1216)-特異的なCD8+ T細胞のみが、すべてのSARS-CoV-2に感染していない健康なドナー(UHD)に由来する細胞でIFN-γの産生を誘導しました。興味深いことに、Pep#3は、4種類の季節性コロナウイルス(HCoV)を含む他のコロナウイルスと高い配列相同性を示しています。 Spike タンパク質の6種類のペプチドすべてがHLA-A*24:02に対して高い親和性を示すと予測されましたが、5つのペプチドは他の季節性コロナウイルスと相同ではありませんでした。
これらの結果は、HCoV特異的CD8+ T細胞がSARS-CoV-2に対して交差反応している可能性があり、既存のメモリーCD8+ T細胞が免疫応答の原因である可能性があることを強く示唆しています。

CD8+ T細胞が様々なコロナウイルスに対して複数の応答を示す理由とその根底にあるメカニズムを理解するために、単一のTCRレベルでCD8+ T細胞の交差反応性を調べました。 Pep#3で再刺激した後、CD107a+ CD8をゲーティングすることにより、Pep#3特異的CD8+ T細胞株からCD8+ T細胞を単離し、TCRレパートリーの単一細胞分析を実施しました。 Pep#3反応性CD8+ T細胞のクローン性を分析するために、合計227のT細胞がスクリーニングされ、5つのUHDと1人の血液悪性腫瘍(HM)患者から44のTCRクローンタイプが同定されました。さらに、そのクローンタイプの中から優勢なTCRタイプに焦点を当て、4つのドナー(3つのUHDと1つのHM)から4つのタイプのTCRαとTCRβのペアを特定しました。クローン化されたTCRの特異性と機能を評価するために、TCRαおよびTCRβ遺伝子をSKW3-CD8AB(ヒトT-ALL)細胞株に形質導入し、それらのペプチド特異的応答を評価しました。興味深いことに、4種類のTCRレパートリーは、エピトープ認識において互いに異なっていました。 UHD2のTCR-T(TCR-T-1)細胞はコロナウイルスに由来するすべてのエピトープによく反応しましたが、UHD8のTCR-T(TCR-T-2)細胞はSARS-CoV-1とSARS-CoV-2にのみ反応しました。

トリコデルマ菌が植物の病原菌抑制と成長促進に対して有効:トリコデルマ菌のキチナーゼと β-1,3-グルカナーゼの分泌がキー

College of Plant Protection, Hainan University, Haikou, Hainan, Chinaらのグループは、13種のトリコデルマ菌が植物の生長に有効であり、バイオ肥料やバイオ農薬としての応用が考えられると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8714372/

種子の発芽を有意に促進した13種のトリコデルマ菌ですが、スイカ、チリ、ナス、およびトマトの根の成長に対するそれらの効果について概観してみます。温室実験では、すべての菌株がチリ苗の根の成長を促進する効果を示し、その中で、HL100菌株はコントロールと比較して根の長さが最大12.17%増加しました。 3つの菌株(GZ070、HL100、およびHN059)は、スイカの苗の根の成長を大幅に促進しました。 HN059株は、コントロールと比較して根の長さが18.81%の最大増加量を示しました。トリコデルマ菌株GZ070、HL100、HN059、JX013、XJ087、およびNX043、HL119、HN059、SC012、XJ035、SC098、SC101は、それぞれナスとトマトの苗の根の成長を促進することがわかりました。ナス(40.99%)とトマト(34.68%)の根の長さの最大増加量は、それぞれGZ070株とSC098株によって記録されました。

トリコデルマ菌は成長が早く、病原性真菌の根圏での成長空間を急速に占有する可能性があり、これが、抗菌効果の重要なメカニズムのひとつです。細胞壁分解酵素と揮発性抗生物質の産生は、生物的防除剤としてのトリコデルマ菌の重要なもうひとつのメカニズムです。病原体に対する優れた拮抗作用を有する13種のトリコデルマ菌株(PI> 85%)が、病原体の細胞壁の分解に関連するキチナーゼおよびβ-1,3-グルカナーゼを分泌することが示されました。即ち、トリコデルマ菌は、根圏空間や栄養を求めて病原体と競合するだけでなく、それら病原体の細胞壁を分解し、菌糸を変形させ、さらには消化し、病原体の増殖を阻害していると考えられます。

幾つかの他所の報告でも、トリコデルマ菌による根のコロニー形成が、様々なペルオキシダーゼ、キチナーゼ、β-1,3-グルカナーゼ、およびリポキシゲナーゼ-ヒドロペルオキシドリアーゼ経路を含む防御関連植物酵素のレベルを増加させていることが示されています。キュウリでは、T-203株による根のコロニー形成により、葉のフェノール配糖体レベルが上昇し、それらのアグリコン(炭水化物部分が除去されたフェノール性グルコシド)が、様々な細菌や真菌に対して強力に阻害作用を示すことも分かっています。

逆相レクチンマイクロアレイで結腸直腸がんのマーカーを探索:PHAE + HL sel レクチンの組み合わせがベスト

Institute of Chemistry, Slovak Academy of Sciences, Bratislava, Slovakiaらのグループは、年齢に依存せず、直腸結腸がんに特異的な糖鎖変化をふたつのレクチンの組み合わせ(PHAE + HL sel)で高精度に判別することが出来ると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8695905/

ここでは、結腸直腸がんのマーカーとして着目される血清のグライコ―ムの変化を捉えるために、逆相レクチンマイクロアレイが使用されました。

逆相レクチンマイクロアレイとは何?
50倍に希釈された血清サンプルを、エポキシドでコーティングされたスライド上に、マイクロアレイスポッターを使用して、3連で異なるウェルにスポットします。続いて、ブロッキングした後、70μlのビオチン化レクチン(PBS中5μg/ ml)を添加し、室温で1時間インキュベートします。スライドをPBSで3回穏やかに洗浄した後、70μlのストレプトアビジン修飾された蛍光物質(PBS中0.1μg/ ml)を15分間添加します。洗浄ステップと脱イオン水での追加洗浄の後、マイクロアレイリーダーを使用して蛍光強度を読み取ります。

本実験で使用されたレクチン
AAL, RPL-Fuc1, PHAE, PHAL, ConA, DBA, WFL, WGA, RCAI, MAA, P sel, RPL-Sia2, SNAI, HPyL, HE sel, and HL sel

PHAE(N-ghlycans with outer Gal and bisecting GlcNAcに特異的)と HL sel(6-O-Su sLexに特異的) の組み合わせで、最も高い判別能力が得られました(AUC = 0.989)。