SARS-CoV-2 オミクロン変異株の感染力、ワクチンブレークスルー、抗体医薬に対する影響力の評価

Department of Mathematics, Michigan State University, MI, USAらのグループは、SARS-CoV-2 オミクロン変異株の感染力、ワクチンブレークスルー、抗体医薬に対する影響力の評価結果を報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8647651/

感染力:
SARS-CoV-2の感染力は、主にACE2とRBD複合体の結合親和性によって決定されますが、furin切断部位も重要な役割を果たします。オミクロンは、furin切断部位に3つの変異があり、RBDに15の変異があることから、感染力には有意な変化があることが示唆されます。オミクロンの感染力の変化は、15個のRBD変異によって誘発されるACE2およびSpikeタンパク質複合体の結合自由エネルギー(BFE)の変化を調べることによって分析されました。その結果、オミクロンはデルタの約2.8倍の感染力を持つと考えられます(BFEの変化:1.57kcal / mol)。

ワクチンブレークスルー:
ワクチンに対するオミクロンの影響を、132個の既知の抗体とSpikeタンパク質複合体のライブラリを用いて分子ベースのデータ駆動型分析によって評価しました。これらの複合体の15個のRBD変異によって誘発される結合自由エネルギーの変化を評価して、ワクチンに対するオミクロンのRBD変異の潜在的な影響が見えてきます。この研究では、抗体ライブラリーの実験データが限られているため、RBDから離れた既知の抗体-Spikeタンパク質複合体(N末端ドメイン(NTD)の複合体など)はこの評価には含まれていません。その結果、オミクロンのワクチンエスケープ能力は、デルタの約2倍になっていると考えられます。

抗体医薬への影響:
オミクロンは、Regeneronの抗体カクテル医薬については、それほど大きな影響は出ないであろうと考えられます。

マンソン住血吸虫由来のエクソソームの糖鎖プロファイルと免疫回避の関係性:α2-6シアル酸の重要性とその由来

Institute of Parasitology, McGill University, Ste-Anne-de-Bellevue, QC, Canadaらのグループは、マンソン住血吸虫由来のエクソソームとその由来について研究しています。
https://www.mdpi.com/2076-0817/10/11/1401/htm

レクチンマイクロアレイを使用して、マンソン住血吸虫のエクソソームに強いアフィニティーを示すいくつかのレクチンが同定され、これらのエクソソームに複数の糖鎖構造が存在することが示唆されました。興味深いことに、末端α2-6シアル酸の糖鎖構造を認識するレクチンである SNA-I は、マンソン住血吸虫由来のエクソソームに対して強いアフィニティーを示しました。 SNA-IIおよびRCA-I は、シアル酸終端で終わることが多い糖鎖構造にアフィニティーがあり、強い信号強度を示しました。更に、4つのマンノース結合レクチン Calsepa、NPA、GNA、HHA は強い信号強度を示し、ハイマンノース型糖鎖構造が豊富にあることが示唆されました。

問題は、シアル酸が何処に由来するのか?ということです。
エクソソームの可能な発生源としての住血吸虫の組織を特定するために、マンソン住血吸虫エクソソームに対して強い親和性を示す3つのレクチン(DSA、RCA-I、SNA-I)を使用して成虫全体に対して組織免疫染色を行いました。 100%の上皮細胞はSNA-Iに陽性、DSAはほとんどの上皮細胞と寄生虫の腸から、RCA-Iは上皮細胞と排泄孔および排泄管らを含む組織から検出されました。総合すると、これらの結果は、複数のエクソソーム亜集団の存在と、成体住血吸虫からのエクソソーム放出における上皮および消化器系および排泄管系の関与を示している可能性があります。

一般的に、シアル酸は、免疫回避を助け、感染ターゲットに影響を与えると言った観点において、感染の過程で重要な役割を果たすため、マンソン住血吸虫由来のエクソソームの糖鎖修飾とその由来に関するこの発見は非常に興味深いものです。

大豆の葉にTiを塗り付けると、リン(P)の吸収が増加し、成長が促進された

College of Agronomy, Sichuan Agricultural University, Chengdu, Chinaらのグループは、葉にTiを振りかけると、光合成効率がアップするとともに、根のオーキシン含有量が増加することによって、リン(P)の吸収が増加すると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8631872/

通常の光強度(NL)の下では、光合成速度は、高リン条件のT0(コントロール)に対して、T2(14.06%)、およびT3(30.46%)において有意に増加し、
低リン条件では、コントロールと比較して、T2(21.98)、T3(38.81%)、およびT4(21.43%)において、有意な増加が見られました。
ここで、T0、T1、T2、T3、およびT4は異なる濃度のTiを意味し(T0 = 0、T1 = 125、T2 = 250、T3 = 500、およびT4 = 1,000 mg / L)、高リン(HP)条件とは 100 mg/kg、低リン(LP)条件とは 10 mg/kg、であることを意味します。

根毛、根の長さ、側根の形成、および根の表面積と言った根の成長特性を表す指標の増加は、根のオーキシン含有量と相関していることが見出されました。このオーキシン含有量の増加に起因するこれら根の形態的特徴の変化は、栄養素(例えばリン)の吸収効率を大幅に改善することに繋がっているのです。

Effect of Ti application on (A) root length, (B) root surface area, (C) root volume, and (D) root diameter of soybean under NL and shade (SC) combined with Low P and High P conditions.

脂質ナノ粒子(LNP)のmRNAワクチンにおけるアジュバントとしての有効性

Department of Medicine, University of Pennsylvania, Philadelphia, PA, USA らのグループは、脂質ナノ粒子(LNP)が、アジュバントとしてワクチンの有効性を高めるということをインフルエンザのヘマグルチニンと、SARS-CoV-2のRNAを用いて示しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8566475/

アジュバントは、ワクチン接種に対する適応免疫応答の質と大きさを改善するために重要です。 LNPカプセル化ヌクレオシド修飾mRNAワクチンは、SARS-CoV-2の重症急性呼吸器症候群に対して優れた効果を示していますが、このワクチンプラットフォームの作用機序は十分に解明されていません。

このLNPがアジュバント活性を持つことを実証するために、空のLNP(eLNP)およびAddaVaxアジュバントSARS-CoV-2 Spikeタンパク質サブユニットワクチンを用いました。マウスをeLNPまたはAddaVaxでアジュバント添加された組換えSARS-CoV-2 Spikeタンパク質受容体結合ドメイン(rRBD)の単回投与で免疫し、陽性対照として、もうひとつのグループをヌクレオシド修飾RBD mRNA-LNPで免疫しました。結果、LNPアジュバントワクチンは、AddaVaxアジュバントによって誘発された応答よりも有意に高いRBD特異的IgG力価を誘発することが示されました。

イオン化可能な脂質がある場合とない場合のLNPのアジュバント特性を比較するために、2つの異なる組成を持つeLNPと混合した組み換えヘマグルチニン(rHA)でマウスを免疫しました。イオン化可能な脂質を含むeLNPは、高い血球凝集素阻害力価を示しましが、驚くべきことに、イオン化可能な脂質を含まないeLNPはアジュバント活性を持っていませんでした。

IL-6は、T濾胞ヘルパー細胞(Tfh)分化の初期調節因子であることが知られています。Tfh細胞は、胚中心(GC)におけるB細胞の親和性成熟の調節に特化したCD4+ T細胞のサブセットであり、Tfh細胞の誘導は、持続性のある免疫応答にとって非常に重要です。イオン化可能な脂質を含むeLNPとmRNA-LNPは、大量の炎症性サイトカイン(IL-6など)とケモカインを誘発するのに対し、イオン化可能な脂質を欠くLNPとAddaVaxでは、低いレベルの炎症性サイトカインとケモカインの誘導に留まりました。

where, empty LNP (eLNP), AddaVax (an MF59-like adjuvant).

春小麦の根圏に洪水が与える影響

Microbial Biogeochemistry, Research Area Landscape Functioning, Leibniz Center for Agricultural Landscape Research e.V., Müncheberg, Germanyらのグループは、春小麦の根圏に洪水が与える影響を報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8602104/

洪水によって、次のような事柄が発生します、
(i) 嫌気性バクテリア(FirmicutesやDesulfobacterota)が顕著に増加します、
(ii) ActinobacteriaやProteobacteriaが顕著に減少します、
(iii) 幾つかの善玉菌が枯渇し、
(iv) 潜在的な悪玉菌が増加します。

具体的に見てみると、洪水によって、GeobacterやClostridium属が増加します。幾つかのClostridium属菌は、軟腐病を引き起こす可能性があり、その存在量は、大雨と洪水によって大幅に増加しました。一方、小麦の成長に有益であるとされるStreptomycesとSpinghomonasの存在量は、すべての氾濫サンプルで劇的に減少しました。これらの二属の善玉菌は、無機リンを可溶化し、シデロホアを形成し、植物ホルモンの生産に影響を与えることができ、生物的防除に関係しています。

Saccharimonadia属に属する細菌は、窒素固定効率の改善や養分変換の促進などの有益な機能を示し、主に湛水した根で枯渇しています。RhizobiaceaeとXanthobacteraceae科の根圏でも同様の傾向が観察されました。

異なるMassilia種のメンバーは、(プロテアーゼ、サイドフォア、およびオーキシンインドール-3-酢酸の生成らの観点で)植物に有益であると見なされています。 Massilia ASVは、苗の根で有意に豊富でしたが、湛水した根では検出されませんでした。同様に、発芽段階で湛水した小麦の根は、植物の成長を促進するとして知られているFlavobacterium ASVの有意な減少をもたらしました。この属の善玉菌は、リン酸を可溶化し、唯一の窒素源として1-アミノシクロプロパン-1-カルボキシレートを使用し、オーキシン、シデロフォア、サリチル酸、抗真菌性キチナーゼ、シアン化水素を生成する能力を持っています。

要約すると、これらの知見は、氾濫が根圏細菌叢の群集動態を著しく変化させ、春小麦の根および根圏に関連する有益な善玉菌群の有意な枯渇を伴うことを示しています。

SARS-CoV-2における突然変異の位置とそれが関係する事象のパターン化

University of Florida College of Medicine, Gainesville, FL, USAのグループは、SARS-CoV-2における突然変異の位置とそれが関係する事象についてパターン化しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8606318/

RBDにおける変異
RBD変異(K417 N、L452R、E484Kなど)は、中和抗体結合に影響を与える可能性があります。 例えば、N501YというRBDの変異は、宿主受容体ACE2に対するSpikeタンパク質の親和性を高めることが分かっています。Spikeタンパク質のS1 NTDおよびRBDで獲得されたこれらのウイルスに有利な変異は、宿主受容体や補助受容体の結合を強化する可能性があります。

NTDにおける変異
何故RBDの変異が(中和抗体と宿主細胞のACE2結合を変化させることにより)ウイルスの適応度を変える可能性があるのかについては理由は明らかなのですが、何故ウイルスにとって有利な変異がNTDに出現しているのかについては、その理由は明らかではありません。SARS-CoV-2においては、NTDを含むSpikeタンパク質上の複数のエピトープに結合する中和抗体ができることから、NTDがウイルスの感染適合性に関連する重要であるが未知の機能(補助受容体結合など)に関与している可能性が非常に高いと考えられます。

Spikeタンパク質三量体間の接触部における変異
A570D、D614G、A701V、D950 N、およびS982Aは、Spikeタンパク質三量体間の接触部に存在します。スパイク三量体界面での置換は、分子間結合親和性を低下させる可能性があり、これら部位に発生した変異は、Spikeタンパク質の切断、構造の再配列、宿主細胞膜との融合メカニズムなど、動的なウイルスプロセスを強化する方法でSpikeタンパク質を不安定化させる可能性があります。

furin cleavage siteにおける変異
Spikeタンパク質の681位の変異は、感染力の高いアルファおよびデルタ変異株に見られますが、感染性の低い変異体であるベータおよびガンマには見られません。681位は、RRARプロタンパク質転換モチーフ(フューリン切断部位)に隣接して位置しています。エンドソームのS1/S2切断は酸性下の環境で発生するため、感染力の高い変異体(アルファのヒスチジン、デルタのアルギニン)の681位にある正に帯電したアミノ酸は、Spikeタンパク質の切断速度とそれに続く膜融合メカニズムに影響を与える可能性があります。