強い免疫圧力下で、80日間でSARS-CoV-2はNTDやRBDに変異を作って中和抗体から免疫を逃れた

Monoclonal Antibody Discovery Lab, Fondazione Toscana Life Sciences, Siena, Italyらのグループは、強い免疫圧力下で、SARS-CoV-2は、変異を導入することで、80日間にて回復期患者の中和抗体から逃れてしまった、という報告をしています。
https://www.pnas.org/content/118/36/e2103154118.long

ワクチン開発における重要な問題は、回復期患者やワクチン接種済み者の抗体免疫下で、ウイルスが完全に免疫を逃れるように進化できるか否か、ということです。この問題を検証するために、回復期患者の血漿とSARS-CoV-2 wild-type (WT) との混合物を Vero E6 細胞と共培養を行い、14継代、90日間に渡って評価しました。

この共培養実験に使われた血漿は、2020年3月から5月にかけて得られた20名のCOVID-19回復期患者の血漿から選別したものであり、この時期は、オリジナルのSARS-CoV-2 WT と SARS-CoV-2 D614G 変異株のみが存在していました。PT188 血漿が、SARS-CoV-2 S1–S2 サブユニットに対して最も強い結合力を示し、RBDに対して最も強い力価(1/1,280)を示しました。.

この血漿は、7継代に渡ってウイルスを完全に中和化しました。しかし、7継代45日後には、NTDのN3ループ内にF140欠損が発生したことでブレークスルーが始まりました。11継代73日目には、RBDにE484K変異が発生し、12継代80日にはNTDにN5ループが挿入され新しい糖鎖が付加されました。この事によって、SARS-CoV-2はPT188血漿の中和能力から完全に逃れてしまいました。

NTD内やNTDループ近傍に見られた変異や欠損は、実際に最近のSARS-CoV-2の変異株(アルファ、ベータ、ガンマ変異株)でも見られており、糖鎖の付加はウイルス(インフルエンザやHIV などの多く)が免疫圧力から逃れるために良く使用する戦略です。E484Kという本実験で見られた変異は、現実にもベータやガンマ変異株で見られる変異であり、非常に興味深いものです。