ラクトバチルス・クリスパタス KT-11のS-layerタンパク質がロタウイルスの感染を阻害する:シアル酸が鍵を握る

信州大学らのグループは、ラクトバチルス・クリスパタス KT-11のS-layerタンパク質が、ロタウイルスの感染を阻害することが出来、ウイルス感染開始にシアル酸が関係している可能性を指摘しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8902352/

ラクトバチルス属を含む乳酸菌は、チーズ、ヨーグルト、発酵乳などの発酵乳製品の生産に重要な役割を果たしています。近年、乳酸菌のS層タンパク質(SLP)の抗ウイルス成分としての作用に注目が集まっています。

Caco-2細胞におけるロタウイルスDS-1株の感染に対するラクトバチルス・クリスパタス KT-11 SLPの効果を下図に示します。 DS-1感染が、ドーズ依存的にKT-11 SLPによる感染前処理によって、有意に抑制されていることが分かります。しかし、逆に、KT-11 SLPは、100μg/ mLでの感染前処理後でも、ロタウイルスWa株の感染は全く抑制できませんでした。

ロタウイルスの細胞への侵入は複雑な多段階プロセスであり、ロタウイルス表面タンパク質のさまざまなドメインが、接着と侵入の受容体として機能する細胞表面分子と相互作用します。その中で、末端シアル酸や組織血液型抗原などのいくつかの糖鎖が、標的細胞へのロタウイルスの付着に関与していることが報告されています。上図に示したように、KT-11 SLPは、Caco-2細胞におけるDS-1株の感染をドーズ依存的に有意に阻害しました。ロタウイルス株と宿主細胞との感染初期の相互作用は、VP4遺伝子型に依存しています。 VP4(P型)の分子特性に基づく分類により、DS-1株はP[4]遺伝子型に分類されます。DS-1株を含むP [4]遺伝子型ロタウイルスが、感染にH-type1およびLewis-b抗原を使用していることを示す研究例が増えています。実際、H-type1およびLewis-b抗原はCaco-2細胞で発現しています。この結果は、これらの抗原へのKT-11 SLPの競合的結合によってDS-1感染の可能性が阻害されたことを示唆しています。しかし、予想に反して、同じH抗原とLewis-b抗原を感染に使用してるとして報告された別の優勢なP[8]サブタイプであるWa株の感染は、KT-11 SLPの存在下で全く阻害されませんでした。

最近ですが、DS-1株の感染は、3′-シアリルラクトースと6′-シアリルラクトースによって有意に阻害されたが、Wa株は2′-フコシルラクトースによって阻害された、ということが報告されました。従って、シアル酸を含む何らかの化合物が、DS-1株の感染に深く関与している可能性があります。