心筋梗塞後の治療に、皮質骨由来幹細胞(CBSC)を用いた方が、間葉系幹細胞を用いた再生医療よりも効果的である:糖鎖修飾の違いが関与?

東京都健康長寿研究センターらのグループは、心筋梗塞後の治療に、皮質骨由来幹細胞(CBSC)を用いた方が、間葉系幹細胞(MSC)を用いた再生医療よりも効果的であると述べています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8584423/

最近、マウスを用いた実験で、皮質骨由来幹細胞(mCBSC)が心筋構造リモデリングに有効であることが示されています。mCBSCを用いることで、血管新生が増加し、新たな心筋細胞が作られることが示されています。mCBSCs の処理によって免疫調整機能と血管新生促進作用が特徴的に誘起されるようであり、このことが、心筋梗塞後の治療において、CBSCを用いた方がMSCよりも何故効果的なのかという理由の背景にありそうです。

mCBSCの自己再生能力はmMSCよりも高いのですが、mCBSCの分化能力はmMSCとは異なり、軟骨形成に高いようです。そしてまた、mCBSCsは、TGF-β1をmMSCよりもかなり多く分泌し、TGF-β1は、mCBSCマイグレーションを促すとともに、線維芽細胞の活性化にも寄与します。つまり、TGF-β1 を分泌するCBSCが心筋梗塞部へマイグレートし、心臓線維芽細胞を筋繊維芽細胞へ変化させているのかも知れません。

それら細胞表面の糖鎖については、WFA(lacdiNAc)、ECA(lactosamine-binding lectin)、MAL-I(α2-3 sialic acid binding lectin)の3つのレクチンが mCBSCs において、mNSCよりも高発現しており、SNA、SSA、TJA-I(α2-6 sialic acid binding lectins)らのレクチンが mCBSCs において、mMSCよりも顕著に低発現になっていました。つまり、α2-6sialic acid の低発現ということが、mCBSCの分化をより軟骨形成系統にしている原因なのかも知れません。

過去の研究では、糖鎖がPleukemia inhibitory factor (LIF)、Wnt、FGF、bone morphogenetic protein BMP、Notchらが介在するシグナル経路の制御に関係していることが示されており、LIF受容体βやgp130上のWFA結合性糖鎖がLIF/STAT3 シグナリングに関わり、そしてそれがマウスのES細胞の自己再生に必要であるということが示されています。

本研究においては、WFAに結合する糖鎖がCBSCに対してMSCよりもより特異的であり、これらの事柄は、WFA特異的な糖鎖が、LIF/STST3経路を活性化することによって、CBSCの自己再生能力を高めているのではないか?ということを示唆しているようです。

ラクトバチルス・アジリス NMCC-15 “根圏バクテリアの一種”が、新規の生物学的薬物としての潜在性を示す

Department of Biosciences, COMSATS University Islamabad (CUI), Islamabad, Pakistanらのグループは、カミメボウキ、インドセンダン、イチジクらの根圏から分離されたラクトバチルス・アジリス NMCC-15の生物学的薬物としての潜在性について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8568817/

体に良い働きをするバクテリア(Probiotic bacteria)は、抗生物質に代わる持続可能な代替物として、副作用を示さず、抗酸化作用、抗炎症性作用、そして抗糖尿病作用を示す 新規の生物学的薬剤として期待されています。本研究では、根圏細菌をスクリーニングする為に、次のようなアッセイが評価されました。

安全性試験
まず初めに、潜在的に害を及ぼしそうなバクテリアを排除するために、安全性試験が行われました。これは、次のような判断基準の元で行われました。
(1) 血液溶血性活性を持たないこと、そして(2) ゼラチンを破壊しないこと、であります。

抗生物質感受性試験
抗生物質に対して感受性を示さない株を選定することとし、ラクトバチルス・アジリスが結果としてベストでした。

In-vitro 抗菌アッセイ
ラクトバチルス・アジリス NMCC-15が使用された病原菌(Escherichia coli、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureus、Listeria monocytogenes、Bacillus cereus)に対して、最も顕著な拮抗作用を示しました。

抗酸化、抗糖尿病、抗炎症性アッセイ
ラクトバチルス・アジリスの上清のフリーラジカル阻害率は、標準的な薬剤と同程度であり、それぞれ、68% と 73%となりました。
ラクトバチルス・アジリスは、α-amylase (anti-diabetic potential) をコントロールより51.3%も阻害しました。
ラクトバチルス・アジリスの上清は、アルブミン変性に対して61.6%の活性を示し、アスピリンは69%でした。

種子からの伝染細菌が、苗の根圏細菌叢を支配する

MaxPlanck Tandem Group in Plant Microbial Ecology, Universidad del Valle, Cali, Colombiaらのグループは、苗の根圏におけるバクテリアや真菌の大半は、実は土壌由来ではなく、種子由来であると述べています。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmicb.2021.737616/full

最近まで、研究者達は、すべての根圏細菌は、土壌の中に常在する細菌がリクルートされたものであると伝統的に信じていました。しかし、それは本当に正しいのでしょうか?

本実験においては、密着性の高いガラス製の瓶に滅菌した砂を入れ、その中で植物が育てられました。このようにすることで、種子からの接種以外の如何なる接種経路も遮断した状態で細菌叢の成長を観察することができます。本実験では、18種類の植物が使用されています。

驚くべきことに、本実験においては、土壌は、根圏細菌叢の多様性に寄与するが、根圏において最も多く存在するバクテリアや真菌は、なんと種子由来であるということが実証されています

土壌は、根圏におけるバクテリアの多様性を顕著に増加させますが、多量に存在しているものは、種子からの伝染であります。 平均すると26%のバクテリアのリード数(OTU)は種子由来ですが、これらのバクテリアは、全リード数の実に平均72%を占めています。これらのリード数のほとんどがPantoea、Enterobacter、Pseudomonas、Massiliaらを含むProteobacteriaであり、これらは種子細菌叢にも存在し、非常に多くの植物の種子で見られるものです。

バクテリアに比べると、根圏における種子由来の真菌の多様性は少なく、平均として12%ですが、これらのリード数は全体の中で多数を占める傾向があり、全リード数の平均42%を占めていました。これらの種子由来の根圏真菌の中で最も多いものは Fusariumであり、これはすべての土壌由来の根圏や種子細菌叢で見られるものです。


本実験においては、密着性の高いガラス状の瓶に滅菌した砂、あるいは土壌を入れ、滅菌していない種子を植えています。砂は、121℃で20分間、オートクレーブで二回滅菌され、瓶に入れた後にも、121℃で20分間でオートクレーブされています。土壌は、Palmira, Colombia近くのキャッサバの休閑農地から掘り起こしたものです。

神経芽腫におけるN-型糖鎖修飾の違いが腫瘍の増殖や浸潤に与える影響について

Department of Biochemistry and Molecular Biology, East Carolina University, Greenville, North Carolina, USAらのグループは、神経芽腫におけるN-型糖鎖修飾の変化が、腫瘍の増殖や浸潤に影響を与えることを示しています。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0259743

二種の異なったN-型糖鎖修飾構造を持つ神経芽腫が比較されています。ひとつは、Mgat1をノックダウンすることによってN-型糖鎖修飾を人為的に変化させた細胞株, NB_1(-Mgat1), であり、Oligomannose型のN-型糖鎖のみを発現します。もうひとつは、その元となった神経芽腫細胞, NB_1, であり、より高次の複合型やハイブリッド型のN-型糖鎖を発現します(下図参照、GNL や ConA は、oligomannose型のN-型糖鎖に高いアフィニティーを示し、E-PHA やL-PHA は複合型のN-型糖鎖に高いアフィニティーを持っています)。

細胞の増殖は、複合型のN-型糖鎖構造を持つ NB_1 細胞において、それを持たない NB_1(-Mgat1) 細胞よりも高くなっていました。定量的には、NB_1(-Mgat1) 細胞と NB_1 細胞の間で、54%の低下が見られています。

NB_1(-Mgat1) 細胞は、NB_1 細胞よりも長い突起を持っており、oligomannoseのみを発現する細胞の方が、複合型やハイブリッド型を持つ細胞よりもより浸潤しやすいということを示しています。腫瘍細胞の浸潤性を定量化する為に、浸潤面積の比を評価したところ、 NB_1(-Mgat1) 細胞の方が、NB_1 細胞よりも、2.3倍大きくなっていました。

ボツリヌス菌のヘマグルチニンから作り上げた二種の多価レクチン:Gal/GalNAc特異的なGg、Neu5Ac特異的なRn

東京農工大らのグループは、ボツリヌス菌のヘマグルチニンから作成した二種の多価レクチンを報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-021-01501-1

ボツリヌス菌は、芽胞形成性グラム陽性偏性嫌気性菌であり、神経毒素を産生します。産生される神経毒素の抗原性に従って、A型からG型に分類されます。C型16S前駆体毒素は、神経毒、非毒性の非ヘマグルチニン、およびHA1、HA2、HA3a、Ha3bと名付けられたいくつかのヘマグルチニンで構成されています。

C型 HA1 には、ふたつの糖鎖結合サイトがあり、ひとつはシアル酸(Neu5Ac)、GalNAc、およびgalactoseに結合、もうひとつはGalのみに結合することが知られています。

著者らは、これらボツリヌス菌のヘマグルチニンから、二種の多価レクチンを作成し、それぞれをGgとRnと命名しました。
Gg は、Alexa 488 でラベリングされた HA1 WADF-HA2 WT-HA3 WTの複合体であり、Gal/GalNAcに結合します,

そして、Rn は、Alexa 594 でラベリングされた HA1 NQAA-HA2 WT-HA3 WTの複合体であり、Neu5Acにのみ結合します。

SARS-CoV-2感染で、AngIIに対する交差反応を示す自己抗体ができる場合がある

Pritzker School for Molecular Engineering, University of Chicago, Chicago, Illinois, USAらのグループは、SARS-CoV-2の感染によって、AngIIに対する自己抗体ができる場合があると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8575143/

興味深いことに、63% (73/115)というかなりの割合で、COVID-19の患者でAngIIに対する交差反応的な自己抗体ができあがるようです。ここで115というのはSARS-CoV-2に感染し、COVID-19患者として入院した患者の数です。

この抗AngII自己抗体のレベルは、血圧調整不全の感謝で明らかに高くなっていました(下図参照)。

更に、抗AngII自己抗体の酸素飽和値に与える影響を調べた結果、抗AngII自己抗体を持つに至った患者(73名)の日々の酸素飽和値の最低値は、抗AngII自己抗体を持たない患者(42名)のそれよりも優位に低くなっていました(下図参照)。

何故、抗AngII自己抗体が出来上がるのかについては、抗原提示細胞によってACE-2に結合したSARS-CoV-2とAngIIが同時に貪食され、自己のペプチドAngIIに対して、ウイルス粒子が強い免疫アジュバントとして作用してしまったことで、抗AngII自己抗体が作られたものと考えられています。

SARS-CoV-2 ワクチンの3回目の接種で起こる免疫反応について:2回目接種の8カ月後に3回目を接種

The Institute of Medical Biology, Chinese Academy of Medical Sciences and Peking Union Medical College, Kunming, Yunnan, Chinaらのグループは、SARS-CoV-2の不活化ワクチンの3回目の接種によっておこる免疫反応について報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34666622/

SARS-CoV-2の不活化ワクチンの開発と製造に協力した53人のボランティアが本研究の対象者となっていますが、どのメーカーが開発製造したものであるのかは不明です。被験者は、2020年に、2回のワクチン接種を28日間空けて受けており、2回目の接種から8カ月後に3回目の接種を最近受けました。

3回目の接種後、当日、5日後、7日後、そして14日後に6名のボランティアから血液を採取し、評価されました。SARS-CoV-2のWuhan株に対する抗Spike抗体や中和抗体が接種後5日目以降に立ち上がり、14日後には抗体の正のコンバージョンレートが100%に達しました。興味深いことに、SARS-CoV-2に対するIFN-γ-T細胞反応の記憶も3回接種後に急速に呼び覚まされていました。

このことは、2回の不活化ワクチン接種で誘起される中和抗体は徐々に減少していくのですが、3回目の接種で抗体反応は急速に呼び覚まされ、2回目接種から8カ月経ってもT-細胞記憶もまだ消えていないことを示しています。

SARS-CoV-2に対する抗体の母乳へのトランスファーは、IgAとIgMが主体である

Department of Biological Engineering, Massachusetts Institute of Technology, Cambridge, MA, USAらのグループは、SARS-CoV-2に特異的な抗体の母乳へのトランスファーは、IgAとIgMが主体であると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8531199/

以前の研究では、妊娠した女性の抗体のFcエフェクター機能は、胎盤を経由して子供にトランスファーされるということが分かっています。しかしながら、そのFcエフェクター機能の母乳へのトランスファーについては、良く分かっていませんでした。

当然でしょうが、SARS-CoV-2に感染した母親は、SARS-CoV-2に特異的な抗体を血中にも母乳の中にも持っていました。しかし、興味深いことに、母乳へのトランスファーは、IgAとIgMが主体であり、IgG1のトランスファーはかなり限定的であることが分かったのです(下図参照)。

サーファクチン型リポペプチドの重要性:根の表面のペクチンをバチルス菌が認識することで共生関係が深まる

University of Liège‐Gembloux Agro‐Bio Tech, Gembloux, Belgiumらのグループは、根圏細菌であるバチルス・ベレツェンシスは植物の根のペクチンを認識し、共生関係を深めていくとしています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34724831/

植物の根と根圏細菌が共生関係を開始する初期の段階での分子間相互作用については、良く分かっているとは言えません。著者らは、善玉菌の一種であるバチルス・ベレツェンシスが、植物の根の細胞表面のペクチンを根からの滲出液とのシナジーの中において認識することによって、バチルス菌の初期のコロニー化の過程で共生関係を深める重要な分泌物としてサーファクチン型リポペプチドの分泌が非常に高まることを示しました。

実際、下図に示すように、homogalacturonan low methylated (HGLM)(ペクチンのこと)を根からの滲出液を模した培地(REM)に加えることでサーファクチンの産生が8倍増加することが示されました。しかしながら、バクテリアは、HGLMよりも低分子のオリゴマーは認識しない様であり、下図に示すように、oligogalacturonides(OGs)を添加してもサーファクチンの産生には何の影響も見られませんでした。 このことは、長鎖のポリマーは、バクテリアのコロニー形成に適した健康な植物の存在を意味し、短鎖のポリマーは共生関係を築くには不適切な死んだ根っこである、ということをバクテリアが見抜いているからなのかも知れません。


homogalacturonan low methylated (HGLM), DP of >150; oligogalacturonides (OG), DP of 15; galacturonic acid (GA), DP of 1; DPはdegree of polymerizationの略

しかし、この論文においては、植物の分子パターンとしてのペクチンのバックボーンを認識するバクテリアのレクチン様タンパク質については一切の情報がなく、今後の課題であります。

ヒトのマンノース特異的レクチンのそれぞれを狙い撃ちするマンノシル化高分子の人工合成

Department of Chemistry, Massachusetts Institute of Technology, MS, USAらは、ヒトのマンノース特異的レクチンの各々に特異的なマンノシル化高分子を開発しました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8549053/

糖鎖結合性タンパク質(レクチン)は、病原菌に結合し自然免疫を活性化するように、多様な細胞認識、シグナリングに重要な役割を果たしています。レクチンをターゲットにする、特に免疫細胞表面に発現するそれらをターゲティングするということは、免疫や創薬に大きく貢献する可能性があります。レクチンは多量体を形成していることが多く、それ故、結合するリガンドのほとんどは多価であります。レクチンをターゲティングする場合の有効な方法は、ポリマーをバックボーンとして単一の糖鎖エピトープを多重に乗せることであります。しかしながら、このような多価のリガンドの欠点というのは、単糖特異性を共有するレクチンのそれぞれを区別することが出来ないという事です。例えば、マンノース単糖特性を持つレクチンには、DC-SIGN、DC-SIGNR、MBL、SP-D、langerin、dectin-2、mincle、DEC-205などがあります。

著者らは、これらのマンノース特異的レクチンをより正確にターゲティングできるようなマンノシル化高分子を開発しました。

ターゲットのマンノシル化糖高分子を生成するために、(R)-または(S)-グリシジルプロパルギルエーテル(GPE、> 99%ee)から始まる反復指数関数的成長(IEG)サイクルを実行して、正確に8、16、または32のアリル側鎖を持つ高分子を作り上げます。この時に、すべて(R)(アイソタクチック)、すべて(S)(アイソタクチック)、および交互(R-alt-S)(シンジオタクチック)の3つの異なる高分子構造を作り上げました。そして、この高分子にマンノース残基を付加するために、これらをUV光(λ= 365 nm)下でβ-チオマンノースナトリウム塩と反応させました。

結合アフィニティーは、サンプル間で数ケタ以上変わっていました。例えば、DC-SIGNのKA値は、(S)-8merに対して 1 × 104 から(R)-16merに対して、1 × 108 にまで変化しています。Dectin-2の場合でも、1 × 104 から1 × 108に変化していますし、DEC-205の場合には、すべての高分子に 1 × 106 から 1 × 109で強く結合し、(R)-32merの場合で最も強いアフィニティー 2.2 × 109を示しました。

このように、同じマンノース単糖特性を持つレクチンに対して、広いレンジのアフィニティーを実現できていることは驚異的です。