SARS-CoV-2 RBDをブロックできるキトサンは、COVID-19の治療薬として期待できる

Birla Institute of Technology and Sciences (BITS), Rajasthan, Indiaらのグループは、キトサン派生物がSARS-CoV-2の野生株及びその変異株の感染に対して、新規の阻害剤になり得ると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8313795/

キトサン派生物のライブラリーを、SARS-CoV-2の野生株のRBD、及び変異株(アルファおよびガンマ)のRBDに対して、分子動力学的ドッキング・シュミレーションを用いてスクリーニングを行いました。得られた結果は非常に興味深く、Imino-キトサンとN-benzyl-O-acetyl-キトサンが、SARS-CoV-2 Spike RBDに対して強い結合アフィニティーを示しました(-6.4 ~ -6.7 kcal/mol)。

両化合物のRBDの静電気的表面上における配位モデルを下記に示します、

シトクロムP450 (CYP450)として知られるミクロソーム酵素のファミリーは生体の異物代謝に関わっています。CYP3A4、CYP3A2、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6 はすべてCY450ファミリーのメンバーであり、さまざまな薬物の代謝に関与しています。薬物の理想的なシナリオとは、これらの酵素を阻害しないことであります。この点において、Imino-キトサン と N-benzyl-o-acetyl-キトサン は、両方ともまともな薬物になり得ることを示しています。

Imino-キトサン と N-benzyl-o-acetyl-キトサンの毒性プロファイルは、ラットおよびマウスでの発がん性試験、およびHERG阻害結果を使用して、変異原性および発がん性に基づいて決定されました。毒性プロファイルのすべての結果は良好であり、リガンドが潜在的な薬物である可能性があることを示しています。

小麦の根圏:ヒトの亜鉛不足を救う小麦根圏の亜鉛(Zn)可溶化バクテリア

Chinese Academy of Agricultural Sciences, Shenzhen, Chinaらのグループは、亜鉛を沢山含む小麦品種というのは、その根圏に亜鉛を可溶化するより多くのバクテリアを呼び込んでいるのだと主張しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8261137/

世界人口の約20%が、亜鉛(Zn)の接種不足に悩まされています。そして、この状況は大気中の二酸化炭素の増加とともに更に悪化するだろうと予測されています。この亜鉛不足の問題を解決する効果的な方法の一つが、小麦のような主要作物の穀類中の亜鉛濃度を上げてやることなのです、即ち亜鉛の生物学的栄養強化です。小麦の亜鉛栄養強化のターゲットというのは、現在の穀物亜鉛濃度である20 ~ 30 mg/kg を 40 mg/kg に増加させることであり、それが実現できれば人類には十分なのです。

土壌の中の亜鉛の可動性は高くなく、植物の根からの亜鉛の吸収はその根圏において起こりますが、根とバクテリアの活性度を高めることによって利用できる亜鉛の量を少しは高めることができます。世界中に分布している石灰質の土壌では、アルカリ性の環境や炭酸塩の高い濃度の為に亜鉛の利用性が下がっています。各種の植物の根は、カルボン酸、アミノ酸、低分子のペプチドなどを分泌しており、根圏を酸性化することによってミネラルの中に固定化されている亜鉛を可溶化できます。更には、根からの分泌物の上で共生しているバクテリアも有機酸、鉄キレート、細胞外多糖類を分泌しており、それによって土壌根圏中の各種の栄養物を可溶化することができます。

高亜鉛と低亜鉛の小麦品種の間でその根圏内に集まっているバクテリアの量を比較解析すると、高亜鉛の小麦では、低亜鉛の小麦より1.5倍以上、30種のバクテリアが増加しており、2種のバクテリアが低亜鉛の小麦で高亜鉛の小麦に比べて二倍以上増加していました。この32種のバクテリアの内、既報の土壌の亜鉛可溶化バクテリア(38種)の中の一つであるシュードモナスに属する3種が特に増加していました。既報の亜鉛可溶化バクテリアのほとんど半分が小麦の根圏で増加しているものの、そのほとんどは高亜鉛と低亜鉛小麦の間では顕著な違いは示していませんでした。
異なるのは、32種の高亜鉛、2種の低亜鉛のバクテリアは、小麦の根圏でエンリッチされており、高亜鉛と低亜鉛の小麦の間でそれが大きく違うという事です、特にシュードモナスやマッシリアが高亜鉛の小麦で顕著に増えています。更に、32種の遺伝子解析からは、28種の高亜鉛バクテリアや2種の低亜鉛バクテリアには、土壌の亜鉛可溶化に関する遺伝子が含まれていることが分かりました。それ故、既報の亜鉛可溶化バクテリアはすべての小麦品種に対して亜鉛の吸収を助けるものであり、ここで同定された20種の高亜鉛及び2種の低亜鉛バクテリアは、小麦品種間での亜鉛吸収の差異に関係しているものなのかも知れません。

このような事から、高亜鉛の小麦品種というのは、土壌亜鉛可溶化に関係したバクテリアを呼び寄せており、高亜鉛と低亜鉛小麦品種の違いはその根圏の亜鉛可溶化バクテリアの存在量に依存しているのだ、と言っても良いのかも知れません。しかしながら、高亜鉛小麦品種がどのようにしてバクテリアを呼び寄せているのかは謎のままです。

COVID-19に対するmRNAワクチンを接種後に産生される中和抗体の発現とそれを裏付ける血液中のサイトカイン/ケモカイン・マーカー

National Cancer Institute, Frederick, USAらのグループは、COVID-19に対するmRNAワクチン(Pfizer)を接種後に産生される中和抗体の発現と、それと高い相関性を示す血液中のサイトカイン/ケモカイン・マーカーについて報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8299183/

PfizerのCOVID-19に対するRNAワクチンを接種した63名に対する中和抗体の産生に関するコホート研究からです。このコホートには、二種類の受検者が存在し、58名のグループは、ワクチン接種前にはCOVID-192感染していない人達であり、6名のグループは、ワクチン接種前に既にCOVID-19に感染した人達です。58名の受検者については、ワクチン接種後3週間で免疫応答が立ち上がり(22日)、その後2回目のワクチン接種後に急激に免疫が強化されています(36日)。比較して、COVID-19の発症経験を持つ5名の受検者の場合は、ワクチン接種のその日に既に免疫応答を示し、急速に免疫が強化されました(8日)。その後は特に免疫の上昇は見られず、2回目のワクチン接種でも変わらず、しかし、非常に高い免疫応答を示しています。COVID-19を過去に発症した人は、1回のワクチン接種で十分なブーストが掛かるということです。

この研究のハイライトは、mRNAワクチンによって誘起された幾つかの免疫制御分子がワクチンによる免疫応答と良く相関しているということを示していることであり、特に、初期のサイトカインとケモカイン(IL-15、IFN-γ、そしてIP-10/CXCL10)の発現と動きが、mRNAワクチン戦略の有効性を最適化する上に置いて、非常に有効なマーカーになるということです。

シリカ粒子を用いて干ばつに強い小麦の根圏を作り上げる:土壌細菌の細胞外多糖類の分泌を増加させる

Swedish University of Agricultural Sciences, Uppsala, Swedenrらのグループは、細胞外多糖類を分泌する土壌バクテリアと共に、シリカ粒子を土壌に混ぜることによって、干ばつに強い小麦の根圏を作りました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8229586/

今後10年の間に、農業は地球規模で大きな困難に直面することになります。それは地球規模での水資源の蒸発と降雨の減少による干ばつであり、降雨は地域によっても季節によっても気象変動により変化しています。世界の科学界は、限られたリソースの中で、どうやって小麦のような穀物植物の収穫を上げるかという問題に対して新規な方法を模索しており、幾つかの環境に優しい方法には大きなポテンシャルがあるのですが、大規模なフィールド応用に対しては注意深く最適化されねばなりません。そのような一つの方法が、植物の生長を促す根圏を用いて、植物の自然なディフェンス・システムを強化することなのです。植物の根圏を制御することによって、土壌細菌の相互作用を生かし、植物の生産性を回復させ、植物の環境変化に対する耐性を強化し、気象変動による影響を緩和することができるでしょう。

干ばつ耐性を向上させるために、まず初めに、土壌細菌A26に対して、4-phosphopantetheinyl transferaseを遺伝子的にノックアウトしたA26Sfpという株を作りました。A26Sfp株は、野生型のA26に比べて、グルクロン酸を主成分とする細胞外多糖類からなる菌膜の生産能力が向上しています。そもそも多糖類は親水性であり、保水能力を上げるにはとても適しています。

A26とA26Sfpを1/2 Tryptic soy broth (TSB)培地に50 µg/mL の濃度でシリカ粒子を加え、30℃で24時間培養しました。シリカ粒子の添加は、土壌細菌の数には影響を与えませんでしたが、細胞外多糖類の生産は、A26 と A26Sfp に対して、それぞれ46%、29%向上しました。A26Sfpの細胞外多糖類の生産は、その野生型A26に対して30–40%高くなっているのですが、シリカ粒子の点かで、それが更に20%増加しました。どうしてシリカ粒子の添加が、そのような効果を示すのかについては明確ではないのですが、形態的には細菌が長くなり、細菌集団の形成が見られ、これらが細胞外多糖類の産生増加に関係していると思われます。

質量分析を用いて、細胞外多糖類の定量化を試みたところ、A26Sfpによって作られた細胞外多糖類が、野生型A26のそれに比べて長鎖構造になっていることが分かりました。長鎖の細胞外多糖類が土壌の保水力を上げる原因になっていることはほぼ間違いがないでしょう。

SARS-CoV-2の変異株(アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、イプシロン、カッパ)とACE2の結合力の分子動力学的なシミュレーションから

Lehigh University, Bethlehem, USAのグループは、SARS-CoV-2の各種変異株のRBDとACE2の間の結合力について、糖鎖修飾も考慮に入れた形で分子動力学シュミレーションを行っています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8328061/

SARS-CoV-2 RBDとACE2複合体に対して、RBDとACE2それぞれの重心間の距離の関数として引き剥がすに必要な引っ張り力を分子動力学シュミレーションにより評価しています。RBD-ACE2複合体については、N型糖鎖の完全修飾を仮定し、下記の6種のSARS-CoV-2変異株について計算が行われました。

アルファ変異株 (英国において発見, B.1.1.7: N501Y),
ベータ変異株 (南アフリカにおいて発見, B.1.351: K417N, E484K, N501Y),
ガンマ変異株 (日本とブラジルにおいて発見, P.1: K417T, E484K, N501Y),
デルタ変異株 (インドにおいて発見, B.1.617.2: L452R, T478K)),
イプシロン変異株 (カリフォルニアにおいて発見, B.1.427: L452R) ,
カッパ変異株 (インドにおいて発見, B.1.617.1: L452R, E484Q)),

アルファ変異株が、ACE2からの引き離しには一番強い力を必要とし、ベータ変異株、ガンマ変異株或いはデルタ変異株の順になります。ベータ変異株とガンマ変異株のK417N/T変異が、アルファ変異株に比べて力が弱くなっている原因のようです。加えて、イプシロン変異株はL452R変異によって不安定化したRBDの構造により他の変異株よりも力が弱くなっています。デルタ変異株は、RBDとACE2の距離が相対的に遠い場合に最も強い力を必要とするようです。

興味深いことに、デルタ変異株の様子は、他の変異株とは違っています。T478K変異の影響にて、RBD-ACE2間の距離が78Åで完全に分離するときに最も強い力を必要とします。何がその違いを生み出しているかなのですが、T478K変異によって、デルタ変異株のRBDとACE2bの間には他の変異株の場合よりもより多くの分子間結合点があるようです。デルタ変異株のK487は、距離=78ÅにおいてACE2のP84とM82に結合しているのですが、イプシロン変異株のT478ではこのような相互作用は消失しています。フレキシブルなループに存在する478残基がACE2と一番最初に結合するチャンスがあり、その間の強い相互作用がデルタ変異株がその高い感染力で蔓延した原因になっているのかも知れません。

小麦の根圏:グラム陰性土壌細菌 J12、シュードモナス属 J156が小麦の出芽と成長を最も促す

Mohammed VI Polytechnic University (UM6P), Benguerir, Moroccoらのグループは、小麦の出芽と成長を促すリン固定根圏バクテリアについて報告しています。
https://peerj.com/articles/11583/

近年、植物の根と土壌細菌の共生が非常に着目されており、根圏(rhizosphere)と名付けられています。根圏は、動物の腸と腸内細菌の関係と非常に良く似ており、腸の内皮が根の上皮に相当し、腸内細菌が土壌細菌に相当します。根圏細菌や根のグライコームに関する研究は、しかしながら非常に少なく、今後新たな知見が得られる分野としてブログ管理人は多大な興味を持ってその動向をウォッチしています。

リン (P) は、窒素に引き続いて植物に必要な栄養素であり、植物の生長における殆どすべての代謝プロセス、例えば、光合成、エネルギー伝達、呼吸、シグナル伝達らに係わる必要不可欠な主要栄養素であります。バクテリアを含むリン酸塩可溶化微生物は、土地の肥沃化と植物の生長に重要な役割を果たしています。それ故、リンが欠乏している土壌での穀物の生産とその効率を最大化する為に、環境に優しく、しかも経済的な管理手法の開発が非常に大切です。根圏細菌の生物多様性の調査と根圏における微生物相互作用の最適化とその操作は、高いリンの固定化能力を持つ効果的な微生物の接種を実現する上において欠くことのできないステップであります。リンは、有機体あるいはまた無機体として土壌に多く存在するのですが、そのままでは根はリンを吸収することが出来ません。多数の土壌微生物、特に植物の根圏に存在する微生物は、それらのリンを可溶化することで、植物が吸収しやすくなります。リン酸可溶化細菌は、植物成長促進根圏細菌に属し、リン酸二カルシウム、リン酸三カルシウム、リン鉱石などのさまざまな供給源からの無機体のリンを可溶化することができるのです。

根圏バクテリアのスクリーニングで、下記のように9種のリン固定種が同定されました、

インドール酸 (IAA) は、植物の生長を促進することが知られています、

アンモニアは、間接的に植物の健康に寄与します。特に病原菌に対する代謝的な阻害剤として作用します。すべての土壌細菌はいろいろな濃度でアンモニアを生成しますが、シュードモナス属J153が最も高濃度のアンモニアを生成するようです。

結果として、グラム陰性土壌細菌 J12、シュードモナス属 J156の接種が、小麦の出芽と成長を最も促すことが示されました。

COVID-19重症患者の治療効果:IL-6阻害剤であるトシリズマブとステロイド剤であるデキサメタゾンの用い方が肝要

Jan Kochanowski University, Kielce, Polandらのグループは、COVID-19重症患者に対するトシリズマブとデキサメタゾンの使い方とその治療効果について報告しています。ブログ管理人はお医者様ではないのですが、仮に自分がそうなった場合に、治療法に対する知識があると良いですよね。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8291861/

4つのグループ(トシリズマブ(TCZ)で治療、TCZ とデキサメタゾン(DEX)両方を使って治療、DEXのみで治療、TCZ も DEXも使用していない)を比較しています。TCZのみを用いたグループで死亡率が6.8%と顕著に下がっており、他のグループでは19.6% ~ 23.1%でした。特に、IL-6の濃度が100pg/mLを超えるような患者ではTCZの効果はより顕著であり、TCZのみの場合とその他の場合で、5% 対 22.9% ~ 51.7%となりました。
感染後21日、そしてまた28日後の症状の改善にも大きな違いが出ており、TCZのみの場合で、それぞれ 60% と 75%となっており、DEXのみの場合の数値と比べると倍の効果が出ています(それぞれ、27.6% と 37.9%)。

このようにして、COVID-19の重症患者においては、特にサイトカインストームをひき起こしている場合には、死亡率、症状の改善、退院率などにおいて、TCZはDEXよりも顕著な治療効果を示しています。COVID-19重症患者の場合には、TCZとDEXを合わせて使用しても、TCZ単独の場合に比較して、治療効果には改善は見られないことは特質すべきでしょう。

COVID-19の確認された外来患者の場合には、mRNAワクチンの接種は一回で十分のようだ

Northwestern University Feinberg School of Medicine, USAらのグループは、以前にSARS-CoV-2に感染していた人と、していない人の間で、mRNAワクチンの1回或いは2回接種後のIgG中和活性に如何なる違いが生じているかについて報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8276631/

次の三つのグループについて比較しています:
(1)COVID-19群: COVID-19の確認された外来患者で回復した人達、
(2)血清陽性群: SARS-CoV-2のRBDに対して血清陽性ではあるが、COVID-19に対する急性ウイルス診断テストはない人達、
(3)血清陰性群: ワクチン接種前の以前のSARS-CoV-2感染に対して血清陰性の人達。

COVID-19群は、中和活性中央値%は、血清陽性群に比べて有意に高い(22.2 vs. 4.4, p < 0.001)。 COVID-19群は、ワクチン接種一回で、血清陽性群に比べて顕著に中和活性中央値%が高い(99.9 vs. 56.5, p < 0.001)。 ワクチン接種一回後、血清陽性群の中和活性中央値%は、明らかに血清陰性群よりも高いが、それほど大きく違うわけではない(56.5 vs. 38.2, p = 0.12)。 COVID-19群は、ワクチン二回接種で、血清陽性群よりも中和活性中央値が高い(99.9 vs. 98.5, p<0.001)。 血清陽性群と血清陰性群は、ワクチン二回接種後はほとんど変わらない中和活性中央値%を示す(98.5 vs. 97.9, p = 0.46)。 従って、結果としては、以前にCOVID-19患者と確認された人達は、ワクチン接種一回で十分な効果が得られるようです。

海藻から抽出される多糖類のSARS-CoV-2の感染阻害効果について

Marine Biotechnology Research Center, Koreaらのグループは、海藻から抽出した多糖類のSARS-CoV-2の感染阻害効果と細胞毒性について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8071526/

海藻類は、非常に優れた生薬ソースであり、多糖類、食物繊維、アミノ酸、脂肪酸、天然色素、フタロタンニン、ビタミン、ミネラルなどが抽出できます。これらの成分は、非常に多岐にわたる薬理効果を持ち、抗腫瘍活性、酸化防止、抗細菌・ウイルス活性、抗凝固活性、免疫活性効果などが知られています。

次の多糖類について、SARS-CoV-2の感染阻害効果と細胞毒性が評価されました:
ワカメ、
ミウマコンブ、
ヒジキ、
アカモク、
アワビ内蔵、
ミル、
アサクサノリ、そして
フコイダン。

細胞毒性は、HEK293/ACE2 細胞を用いて評価され、各々の多糖類は、1 ng/mL ~ 1 mg/mL (1/10希釈系列) の濃度にてアプライされ、96時間インキュベートされました。ほとんどの多糖類は、シビアな細胞毒性は示しませんが、アワビ内蔵、ヒジキ、アサクサノリは、1 mg/mLの濃度で少々細胞毒性を示し、アワビ内蔵 の細胞毒性が一番顕著でありました。細胞毒性の強さの度合いは、アワビ内蔵、アサクサノリ、ミル、ヒジキ、ミウマコンブ、ワカメ、アカモク、フコイダンの順に並びますが、これらすべてのCC50 は、500 μg/mL以上でありました。

多糖類による感染阻害効果は、HEK293/ACE2細胞にSARS-CoV-2 疑似ウイルスを用いて評価されました。アサクサノリを除くすべての多糖類がSARS-CoV-2 疑似ウイルスに対して感染阻害効果を示しました。評価された多糖類の中では、アカモクが最も高い抗ウイルス効果を示し、IC50 は 12 μg/mLでありました。その他は、次のような順番になります、アワビ内蔵 (33 μg/mL)、ヒジキ (47 μg/mL)、ミル (74 μg/mL)、ミウマコンンブ (105 μg/mL)、 フコイダン (142 μg/mL)、ワカメ (289 μg/mL)、であります。

結論としては、アカモクの多糖類がSARS-CoV-2の感染阻害には最も適しているようです。

レンズ豆レクチンがSARS-CoV-2変異株に対して広範な抗ウイルス活性を示す

National Institutes for Food and Drug Control (NIFDC), Beijing, China, らのグループは、レンズ豆レクチンが、SARS-CoV-2の変異株に対しても有望な抗ウイルス活性を持っていると報告しています。
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/22221751.2021.1957720

Huh7細胞とあらかじめレクチンで前処理したSARS-CoV-2の疑似ウイルスを用いてレクチンの中和活性を評価しました。WGA、lentil lectin、PHA-L、PHA-E らがSARS-CoV-2疑似ウイルスに対して非常に優れた抗ウイルス活性を示し、そのIC50は 8.5 μg/mL から 22.0 μg/mLの範囲でありました。

レクチンによる血球凝集と細胞毒性は、レクチンの応用においては常に課題となります。 PHA-L と PHA-E は、血液凝集を 3.91 μg/mLで示し、WGA は7.81 μg/mLでした。レンズ豆レクチンは、最も弱い血球凝集を示し、その値は高濃度の 1 mg/mLでありました。一方、細胞毒性はHuh7或いは293Tを使用し、37℃で24時間インキュベートして測定されました。これらすべてのレクチンは、500 μg/mLの濃度でも細胞毒性を示しませんでした。

これらのことを考慮すると、レンズ豆レクチンがSARS-CoV-2阻害には最も適していると考えられます。

レンズ豆レクチンの場合には、SARS-CoV-2 Spikeの個々のN-型或いはO-型糖鎖を除去してもその中和活性には影響はありませんでした。このことは、レンズ豆レクチンがSARS-CoV-2 Spikeの多くの糖鎖修飾サイトに結合できることを示唆しているようです。レンズ豆レクチンは、oligomannose-型糖鎖 (Man-5 ~ Man-9)に強く結合し、還元末端がGlcNAcの複合型やハイブリッド型糖鎖にも結合します。

RBDの周辺には、N165、N234、N343 に糖鎖修飾サイトがあります。これらサイトの糖鎖にはレンズ豆レクチンは結合することができます。特にN234は、完全なoligomannose-型なので、効果的に結合することができます。興味深いのは、これら3つの糖鎖修飾サイトのどれか一つを除去してもレンズ豆レクチンの中和活性には影響がなく、残った二つのサイトで十分なレンズ豆レクチンの中和活性を維持できることを示しています。

現在までに、多様なSARS-CoV-2変異株が出現しているのですが、N165、N234、N343 は 100% 保存されており、これらのことを考慮すると、レンズ豆レクチンの使用は、SARS-CoV-2変異株に対する中和活性の許容範囲の広さから、とても優れた選択肢なのかも知れません。