抗ウイルス活性を示すGRFTレクチンと硫酸化多糖類であるカラギーナンを混合して使用するとSARS-CoV-2に対する抗ウイルス活性が大幅に強化される

The City University of New York, USAらのグループは、GRFTレクチンとカラギーナンを混合して使用することにより、其々を単独で用いる場合に比べて、SARS-CoV-2に対する抗ウイルス活性を大きく高めることが出来ることを示しました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8400000/

GRFT は121個のアミノ酸配列からなるホモ二量体のレクチンであり、high mannoseに高いアフィニティ―を示します。High mannose構造は、しばしばウイルスのスパイクに存在する構造であり、HIV、HSV、HCV、ebola、コロナウイルスなどに見られるものです。GRFTは、pMの濃度でHIVをin vitroで阻害出来ることから、GRFTは、HIVの増殖を阻害する最も優れた阻害剤の一つとされています。

一方、カラギーナンは、ガラクトピラノースからなる2糖の繰り返し構造を持つ硫酸化多糖類であり、3種の構造が知られています(κ-Carrageenan (κ-CG)、ι-Carrageenan (ι-CG)、λ-Carrageenan (λ-CG))。カラギーナンも抗ウイルス活性を持つとして知られており、FDAにおいてその安全性は高いと認識されています。

GRFT、カラギーナン、およびその混合物のSARS-CoV-2に対する50%効果濃度(EC50)を下記に示します。
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GRFT, 20.6µg/mL
ι-CG, 7.5µg/mL
λ-CG, 6.1µg/mL
ι-CG + GRFT (1:5), 0.2µg/mL
λ-CG + GRFT (1:5), 0.4µg/mL
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本 in vitroでの疑ウイルスを用いた細胞感染アッセイでの結果を確認する為、今後行われるであろうin vivoでの評価結果を期待しましょう。

バシラス属 (5.SG.3) と シュードモナス属 (2.C.19) を小麦の根圏で共存させると、小麦の根の成長が促進され、塩害にも強くなった

Agricultural University of Athens, Athens, Greeceらのグループは、小麦の根圏において、バシラス属 (1.SG.7, 5.SG.3) と シュードモナス属 (2.SG.20, 2.C.19) を混合して使用すると、それぞれを単独で用いた場合よりも、根の横方向への成長本数が増え、その総量も増加し、更に塩害にも強くなるということを報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8400701/

68種の アリールスルファターゼ(ARS)を生産するバクテリアを石灰質土壌で栽培される小麦の根圏から分離しました。バクテリアの系統学的な解析から、これらの分離された大部分のバクテリアは、シュードモナスバシラス 属に分類されることが分かりました。これら根圏バクテリアに対して、IAA分泌、抗菌活性、バイオフィルム精製、塩害耐性、らの観点から、8種のバクテリアが選別されました。具体的には、バシラス属(1.SG.7、5.SG.3)、シュードモナス属(2.SG.20、2.C.19、3.SG.19、2.C.23、4.SG.6、2.SG.8)であります。

これら8種のバクテリアは、どれも、根の横方向への本数とその総量を増加させました。この植物成長促進能力は、バクテリアを混合することで更に増強され、特にバシラス属(1.SG.7、5.SG.3) とシュードモナス属(2.SG.20、2.C.19)の混合が効果的であり、塩害に対しても強くなりました。

非常に多くのバクテリアや菌類を含む根圏は全くの複雑系であり、植物成長促進根圏バクテリア(PGPR)として、どのようにすればより効果的な根圏内バクテリアの構成が得られるのかを理解する為には、ここで示されたように、代表的な根圏バクテリアにフォーカスして研究する方法が有効であろうと思われます。

SARS-CoV-2 ラムダ変異株(L452Q, F490S)は、デルタ変異株(L452R, T478K)よりも感染力が高いことが確認された

University of Colorado, Aurora, USAらのグループは、SARS-CoV-2のラムダ変異株の方が、デルタ変異株よりも高い感染力を持つことを示しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34462744/

Pfizer-BioNTechのワクチンを接種した人達から得られる抗体の全体的な結合力は、6カ月もすると大幅に低下してきます(デルタ株の場合で約3.5倍、ラムダ株では約4倍低下します)。この事は、ラムダ株の方がデルタ株よりもワクチン接種で得られた免疫からより容易に逃れやすいという事を示しています。

ラムダ変異株のRBDにあるL452QとF490Sの変異は、RBDと感染受容体であるACE2の結合力に対して、デルタ変異株に比較して結合力を増すものではありません。しかしながら、これらの変異は、RBD内の疎水性パッチに影響を及ぼし、中和抗体の結合力を弱めてしまいます。これが、何故、ラムダ変異株の方がデルタ変異株よりも高い感染力を持つのか、という理由であると考えられます。

根圏バクテリアのポテンシャル:赤トウモロコシの根圏細菌 Pseudomonas protegens EMM-1から優れた病原菌阻害物質が見つかった

Benemérita Universidad Autónoma de Puebla (BUAP), Puebla, Pue., Méxicoらのグループは、根圏バクテリア、シュードモナス属のグラム陰性桿菌 EMM-1(Pseudomonas protegens EMM-1)から抽出された病原菌阻害物質について報告しています。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0240545

Pseudomonas protegens EMM-1 は、赤トウモロコシの根圏から単離されました。そして、そのPseudomonas protegens EMM-1 が効果的に肺炎桿菌や化膿性レンサ球菌らを阻害することが分かりました。

Pseudomonas protegens EMM-1から分泌される阻害物質の実態を調べる為、まず初めに、遠心分離で培養上清液を使用する方法を試しましたが、この中からは阻害物質は見つかりませんでした。代わりに、エタノールを用いた冷却リーチング法で寒天培地から阻害物質が抽出できました。この阻害物質は、下図のように強い阻害活性を示しており、将来、他の阻害物質が更に見つかってくる可能性を示唆します。

阻害物質の分子サイズは、3 から 10 kDaであると推察されました。阻害活性は 100°C で失われますが、-4°C から 60°Cの間では安定でした。また、pHの影響については、6から8の間で安定でした。残念ながら、本論文では、この阻害物質の分子構造の同定までは行われていません。

しかし、この研究は根圏バクテリアを評価することの重要性を示唆しており、医療や農業において、新しい病原菌阻害剤の開発につながるものと期待されます。

強い免疫圧力下で、80日間でSARS-CoV-2はNTDやRBDに変異を作って中和抗体から免疫を逃れた

Monoclonal Antibody Discovery Lab, Fondazione Toscana Life Sciences, Siena, Italyらのグループは、強い免疫圧力下で、SARS-CoV-2は、変異を導入することで、80日間にて回復期患者の中和抗体から逃れてしまった、という報告をしています。
https://www.pnas.org/content/118/36/e2103154118.long

ワクチン開発における重要な問題は、回復期患者やワクチン接種済み者の抗体免疫下で、ウイルスが完全に免疫を逃れるように進化できるか否か、ということです。この問題を検証するために、回復期患者の血漿とSARS-CoV-2 wild-type (WT) との混合物を Vero E6 細胞と共培養を行い、14継代、90日間に渡って評価しました。

この共培養実験に使われた血漿は、2020年3月から5月にかけて得られた20名のCOVID-19回復期患者の血漿から選別したものであり、この時期は、オリジナルのSARS-CoV-2 WT と SARS-CoV-2 D614G 変異株のみが存在していました。PT188 血漿が、SARS-CoV-2 S1–S2 サブユニットに対して最も強い結合力を示し、RBDに対して最も強い力価(1/1,280)を示しました。.

この血漿は、7継代に渡ってウイルスを完全に中和化しました。しかし、7継代45日後には、NTDのN3ループ内にF140欠損が発生したことでブレークスルーが始まりました。11継代73日目には、RBDにE484K変異が発生し、12継代80日にはNTDにN5ループが挿入され新しい糖鎖が付加されました。この事によって、SARS-CoV-2はPT188血漿の中和能力から完全に逃れてしまいました。

NTD内やNTDループ近傍に見られた変異や欠損は、実際に最近のSARS-CoV-2の変異株(アルファ、ベータ、ガンマ変異株)でも見られており、糖鎖の付加はウイルス(インフルエンザやHIV などの多く)が免疫圧力から逃れるために良く使用する戦略です。E484Kという本実験で見られた変異は、現実にもベータやガンマ変異株で見られる変異であり、非常に興味深いものです。

感染力の強いSARS-CoV-2 デルタ株の蔓延もあるが、Pfizerのワクチン接種から半年も経つと感染リスクが上がりだす

Leumit Health Services, Israelらのグループは、Pfizerの2回ワクチン接種後の経過時間がSARS-CoV-2の感染予防に対して与える影響を調査しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8366798/

本研究のコホートサイズは、ワクチンの完全接種を受けた33,993名(49% 女性、平均年齢 47歳)を含んで居ます。Pfizer-BioNTech BNT162b2ワクチンの二回接種を受けたこの大きなコホートにおいて、ワクチン接種完了後146日(約5カ月)が経過すると、SARS-CoV-2に対する感染リスクが顕著に上がってくるということがあります。この傾向はすべての年齢層で同じなのですが、年齢が上がるほど感染リスクは上がっており、60歳以上の場合で、感染リスクのオッズ比は3.00倍に上がっていました。しかしながら、この研究期間を通じて、SARS-CoV-2の新しい感染はデルタ株(B.1.1627.2)であることを考慮する必要がありそうです(113名の内、93%がデルタ株)。

ブログ管理人は、現在のPfizer-BioNTech ワクチンはデルタ株に対しても有効なようですが、それにしてもワクチンを接種して半年も経つと防御効果が弱くなり始めており、三回目のブーストワクチンを考慮すべきであるように思います。

コメの根圏:シュードモナス・クロロラフィスは、コメの免疫防御を活性化するようだ

International Centre for Genetic Engineering and Biotechnology, Trieste, Italyらのグループは、コメの根圏におけるシュードモナス・クロロラフィス(Pseudomonas chlororaphis)の接種の影響について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8309335/

植物成長促進根圏バクテリア(PGPR)の中で、シュードモナス・クロロラフィス(P. chlororaphis)に属する株が、単子葉植物、双子葉植物、野生植物、栽培植物を含んで多様な植物と共生関係を作っています。P. chlororaphis は、現在、次の四種に分類されています、即ち、chlororaphis、aureofaciens、aurantiaca、pisciumであります。 P. chlororaphis は、植物プロバイオティクスとしての応用が注目されており、根圏バクテリアとして、走化性、運動性、バイオフィルム形成、リン可溶化、aminocyclopropane-1-carboxylic acid (ACC)デアミダーゼ、Indole-3-acetic acid (IAA)生産と制御など、植物に有利なフェノタイプが存在します。

P. chlororaphis は、異なった抗カビ材である Prn (pyrrolnitrin)、PCN (phenazine-1-carboxamide)、PCA (phenazine-1-carboxylic acid)、2-OH-PHZ (2-hydroxyphenazine)、HPR (2-hexyl-5-propyl-alkylresorcinol) 、HCN (hydrogen cyanide)らを生産します。これらの分子は、フサリウム菌 やその他菌類、植物炭疽病菌、疫病菌、フハイカビ、菌核病菌、イモチ病菌、リゾクトニア菌などのような植物病原菌の成長を阻害し、植物の健康を守ります。

P. chlororaphis の植物成長に対する影響を調査するために、幾つかの表現型パラメータが評価されました、例えば、クロロフィル、フラボノイド、窒素バランス指標などです。加えて、P. chlororaphis接種後90日目の植物の背丈、根の総量なども評価されました。 結果は、コントロールとP. chlororaphisを接種した植物の間で、殆ど何も統計的な有意差は観測されませんでした。ただ、窒素バランス指標の上昇傾向やフラボノイドの低下傾向は、P. chlororaphis接種した植物で見られました。結果として、本試験の環境下では、P. chlororaphisの接種は、植物に対して実質的な利益は何もないようだとの結論になりました。

しかしながら、P. chlororaphisの接種によって、植物の免疫力が強化されるという可能性があることは示されました。
P. chlororaphisを接種された植物では、接種後28日目において、多様なストレス応答性ジンクフィンガータンパク質をコードするOsISAP1遺伝子の発現が上昇しており、これは植物の免疫防御システムが活性化されたことを示すものだからです。

Galectin-3 が、COVID-19重症化の優れた予後マーカーになり得る

University of Medicine “Aldo Moro”, Bari, Italyらのグループは、COVID-19の重症化に対して、Galectin-3が優れた予後マーカーになり得ると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8332745/

恐らく、本論文がCOVID-19の急性呼吸器不全(ARDS)における予後マーカーとしてのGalectin-3を報告する初めてのそれでしょう。

血中のGalectin-3濃度が高い患者は、重度のARDSを発症する危険性が高く、予後も良くありません。SARS-CoV-2感染の影響を受けやすい患者では、いわゆるサイトカイン・ストームを引き起こします。例えば、死に至った患者では、各種の血中炎症性マーカーの値が高くなっており、それらはCOVID-19の重症化と良く相関しています。それにも関わらず、著者らの多変量回帰分析モデルでは、IL-5、CRP、そしてGalectin-3のみが統計的に意味のある結果を示しています。IL-6とCRPについては、これは驚くべきことではなく、既に数多くの研究で、IL-6とCRPがCOVID-19重症化の予後マーカーとして報告されています。Galectin-3に対して注意を向けたのは本研究が初めてです。本研究では、COVID-19重症化を予測するROC解析のAUCで、Galectin-3が最も優れた値を示しました。Galectin-3 cut-off値=35.3ng/mLにて、AUC=0.75 (p = 0.001) を得ています。

実際、血中のGalectin-3濃度が35.3 ng/ml を超える患者においては、重度のARDSを発症するだけでなく、ICU入院率や死亡率も上がっていました。なお、本研究のコホートサイズは156名の患者でした。

SARS-CoV-2 Spikeに対する抗体をコートした金のナノ粒子(GNP)は、SARS-CoV-2の感染を100%阻止できる

Jackson State University, USAらのグループは、SARS-CoV-2 Spikeに対する抗体をコンジュゲートした金のナノ粒子(GNP)が、SARS-CoV-2の感染を完全に阻止できることを示しました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8323809/

クエン酸がコートされたオリジナルのGNPの大きさは、15 ± 2 nmでしたが、抗スパイク抗体をコンジュゲートすることで大きさは27 ± 6 nm に増加しました。

感染実験において、SARS-CoV-2 疑ウイルス(# C1110G, Montana Molecular, Bozeman, MT) と、HEK293T 細胞が使われました。HEK293Tには、SARS-CoV-2の感染受容体であるACE2が発現していることが知られています。

下図に示すように、抗スパイク抗体がコンジュゲートされたGNPは、HEK293T細胞におけるSARS-CoV-2の感染増殖を完全に阻害できました。感染阻害効率は、100 ng/mLの高Spike抗体がコンジュゲートされたGNPの場合に100%に達し、10ng/mLの場合で60%に達していました。比べて、PEGがコートされたGNPや100 ng/mLの抗スパイク抗体の場合には、感染阻害効率は1%以下という低さでした。

< a href="https://www.emukk.com/WP/wp-content/uploads/2021/08/GNPantibody_SARS-CoV-2.png">

しかしながら、ブログ管理人は、この方法がin vivoでも使えるのどうか?については、不明です。

冬小麦の根圏:菌根菌ヘルパーバクテリアとしてのグラム陽性菌Bacillus amyloliquefaciensがArbuscular菌根菌の共生を助け、小麦の収量を増やした

University of Hertfordshire, Hatfield, UK のグループは、菌根菌ヘルパーバクテリアとしてのBacillus amyloliquefaciensが、arbuscular菌根菌の共生を助け、冬小麦の収量が増加することを報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8309287/

土壌細菌と植物との関係は非常に複雑であり、土壌の富栄養化をもたらし、植物の免疫と防御を強化し、植物の収量を改善し、二酸化炭素を固定するといったメリットをもたらします。Arbuscular菌根菌は、地球上の植物の80%もの根圏に存在する真菌のひとつであり、植物と菌根菌は相利共生を超えたお互いに無くてはならない関係を構築しています。菌根菌ヘルパーバクテリアは、そんなArbuscular菌根菌を刺激し、植物と土壌細菌の共生をより強固なものにします。その三者(植物、Arbuscular菌根菌、そして菌根菌ヘルパーバクテリア)の関係において、しかしながら、菌根菌ヘルパーバクテリアとArbuscular菌根菌との関係については良く分かっていないことが多いのです。そこで、本研究においては、菌根菌 R. intraradices (Ri)に加えて、三種のグラム陽性菌を菌根菌ヘルパーバクテリアとして評価しています:B. subtilis(Bs)、B. pumilis(Bp)、B. amyloliquefaciens(Ba)であります。

一般的な耕耘(CT) は、土壌細菌の多様性とその存在量に直接的に影響します。耕耘によって菌根菌の菌糸ネットワークが破壊され、植物の根の皮質に侵入した樹枝状体が減少してしまいます。しかし、根圏細菌に対する耕耘の影響というのも十分理解されているわけではありません。そこで、上記の一連の実験は耕耘あり(CT)、無し(ZT)で評価されました。

結論としては、グラム陽性菌であるB. amyloliquefaciens が、Arbuscular菌根菌の共生を助け、冬小麦の収量を増やすという事が分かりました。