小麦の根圏:ヒトの亜鉛不足を救う小麦根圏の亜鉛(Zn)可溶化バクテリア

Chinese Academy of Agricultural Sciences, Shenzhen, Chinaらのグループは、亜鉛を沢山含む小麦品種というのは、その根圏に亜鉛を可溶化するより多くのバクテリアを呼び込んでいるのだと主張しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8261137/

世界人口の約20%が、亜鉛(Zn)の接種不足に悩まされています。そして、この状況は大気中の二酸化炭素の増加とともに更に悪化するだろうと予測されています。この亜鉛不足の問題を解決する効果的な方法の一つが、小麦のような主要作物の穀類中の亜鉛濃度を上げてやることなのです、即ち亜鉛の生物学的栄養強化です。小麦の亜鉛栄養強化のターゲットというのは、現在の穀物亜鉛濃度である20 ~ 30 mg/kg を 40 mg/kg に増加させることであり、それが実現できれば人類には十分なのです。

土壌の中の亜鉛の可動性は高くなく、植物の根からの亜鉛の吸収はその根圏において起こりますが、根とバクテリアの活性度を高めることによって利用できる亜鉛の量を少しは高めることができます。世界中に分布している石灰質の土壌では、アルカリ性の環境や炭酸塩の高い濃度の為に亜鉛の利用性が下がっています。各種の植物の根は、カルボン酸、アミノ酸、低分子のペプチドなどを分泌しており、根圏を酸性化することによってミネラルの中に固定化されている亜鉛を可溶化できます。更には、根からの分泌物の上で共生しているバクテリアも有機酸、鉄キレート、細胞外多糖類を分泌しており、それによって土壌根圏中の各種の栄養物を可溶化することができます。

高亜鉛と低亜鉛の小麦品種の間でその根圏内に集まっているバクテリアの量を比較解析すると、高亜鉛の小麦では、低亜鉛の小麦より1.5倍以上、30種のバクテリアが増加しており、2種のバクテリアが低亜鉛の小麦で高亜鉛の小麦に比べて二倍以上増加していました。この32種のバクテリアの内、既報の土壌の亜鉛可溶化バクテリア(38種)の中の一つであるシュードモナスに属する3種が特に増加していました。既報の亜鉛可溶化バクテリアのほとんど半分が小麦の根圏で増加しているものの、そのほとんどは高亜鉛と低亜鉛小麦の間では顕著な違いは示していませんでした。
異なるのは、32種の高亜鉛、2種の低亜鉛のバクテリアは、小麦の根圏でエンリッチされており、高亜鉛と低亜鉛の小麦の間でそれが大きく違うという事です、特にシュードモナスやマッシリアが高亜鉛の小麦で顕著に増えています。更に、32種の遺伝子解析からは、28種の高亜鉛バクテリアや2種の低亜鉛バクテリアには、土壌の亜鉛可溶化に関する遺伝子が含まれていることが分かりました。それ故、既報の亜鉛可溶化バクテリアはすべての小麦品種に対して亜鉛の吸収を助けるものであり、ここで同定された20種の高亜鉛及び2種の低亜鉛バクテリアは、小麦品種間での亜鉛吸収の差異に関係しているものなのかも知れません。

このような事から、高亜鉛の小麦品種というのは、土壌亜鉛可溶化に関係したバクテリアを呼び寄せており、高亜鉛と低亜鉛小麦品種の違いはその根圏の亜鉛可溶化バクテリアの存在量に依存しているのだ、と言っても良いのかも知れません。しかしながら、高亜鉛小麦品種がどのようにしてバクテリアを呼び寄せているのかは謎のままです。