新型コロナウイルス(COVID-19)で高齢者が重症化しやすいのは、従来型のヒト・コロナウイルス(HCoVs)との交差反応性の有無に由来する

新型コロナウイルス(COVID-19)では、高齢者、基礎疾患(糖尿病、脳血管疾患や高血圧など)があると重症化しやすいということが良く知られています。
高齢者と若年者の間の違いについては、若年者の方が自然免疫力が強い、高齢者では自然免疫と獲得免疫のバランスが崩れているなど、いろいろな議論があります。

下記のグループは、高齢者が重症化しやすいのは、従来型のヒト・コロナウイルス(HCoVs:NL63, OC43などの株)に特異的なT-細胞の交差反応の有無が関係しているのではないかと考えています。
https://www.nature.com/articles/s41598-020-78506-9

本研究より、ヒトα-HCoV(NL63)およびβ-HCoV(OC43)によって誘導される既存のT-細胞免疫が若年成人に存在するが、高齢者には事実上存在しないことが確認され、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に向けられた交差反応性T-細胞の頻度は、ほとんどの高齢者で最小限だったとのことです。なるほど・・・、高齢者の重症化に関係していそうです。

 

 

 

IFN-γ 応答の違いを示す、
<10 (黒), 10–30 (ダークグレー), 30–100 (緑), 100–200 (ライトグイレー), >200 (オレンジ) SFU/10^6 PBMC.

新型コロナウイルス(COVID-19)の新しい治療法:Topoisomerase 1 阻害剤が一気にSARS-CoV-2のウイルス感染によって誘起される遺伝子群の発現を抑える

新型コロナウイルス(COVID-19)が重症化すると、急性呼吸促迫症候群や多臓器不全を引き起こし、サイトカインストームが発生していることは周知の事実です。
炎症を抑えるために、IL-6, GM-CSFといった特定のサイトカインに対する阻害剤を使用しても、効果は限定的です。というのも、サイトカインストームの引き金を引くプロセスには、数多くの分子が関与しており、幾つものシグナルパスが存在するからです。
そこで、下記のグループは、ウイルス感染によって誘起される遺伝子の転写プロセスを一気に阻害してしまう為に、DNA Topoisomerase-1の阻害剤に着目しました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33299999/

因みに、Topoisomerase-1はDNAの2 重螺旋構造を解くのに必須の酵素であります。
ハムスターを用いたin vivo実験にて、ウイルス感染によって高発現する遺伝子群がTopoisomerase-1阻害剤により抑制され、肺の炎症が抑えられることが示されました。

新型コロナウイルス(COVID-19)の状態は、SARS-CoV-2のタンパク質カクテル(S, N, P-タンパク質)で模倣できる

La Paz University Hospital, Spainのグループは、新型コロナウイルス(COVID-19)の症状は、SARS-CoV-2のタンパク質カクテルで完全に模倣できるとし、それを踏まえて治療法を提案しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33283062/

新型コロナウイルスの患者においては、COVID-19の初期においては、炎症とサイトカインストームが誘発され、IL-1β, IL-6, TNF-αらが高発現していることが知られています。この段階は、単球やマクロファージの過剰な活性化で説明できます。COVID-19の後期においては、適応免疫が主役に躍り出てきますし、重度の患者では、リンパ球が非常に減少していることが特徴です。

健常者から取得した血球を、SARS-CoV-2のS-タンパク質、N-タンパク質及びP-タンパク質のカクテルでインキュベートすると、COVID-19の状態を模倣した表現型を作ることができます。例えば、単球においては、抗原提示のシグナルパスであるHLA-DRが減少し、免疫チェックポイントのリガンドであるPD-L1が高発現します。
これらのことから、免疫チェックポイント分子に対する阻害剤(抗体)を用いることが有効な治療につながるのではないか?と示唆され、実際にcamrelizumab (PD-1抗体)を用いた治験が開始されているようです。

進展を期待しましょう。

膵管腺癌におけるβ3Gn-T6糖転移酵素(Core3 O-型糖鎖の合成に関与する酵素)の重要性

癌の発生、進行、転移において、ムチン型のO-型糖鎖の発現変化が見られることは良く知られています。
産総研のグループは、膵管腺癌の臨床病理とOー型糖鎖の関係について研究した内容を報告しています。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0242851

膵管腺癌においては、Tn-抗原とsialyl-LewisX抗原が高発現しています。
しかし、これらの発現量と無病生存期間(DFS)との間には全く相関関係はありません。
興味深いことにβ3Gn-T6糖転移酵素と無病生存期間との間には、しかし、明らかに相関関係があり、β3Gn-T6の発現が高い方が無病生存期間が長くなっていることが示されました。
β3Gn-T6糖転移酵素は、Core3 O-型糖鎖の合成に必要な酵素になります。

現段階では、Core3構造とその伸張構造が何故、無病生存期間を長くするのかについてのメカニズムは判明していません。
今後の研究の進展を期待しましょう。「糖鎖は病態の単なる表現型だ」そういう一般的な懸念を打ち砕く成果に繋がるかも知れません。

直腸癌とTn-抗原

福島県立医科大のグループから、直腸癌とTn-抗原に絡んで、直腸癌治療の力点に関する論文があります。
https://www.mdpi.com/1422-0067/21/23/9081

癌では、ゲノムやエピゲノムに変異の蓄積が進むのですが、直腸癌では、85%が染色体不安定性、15%がミスマッチ修復機構欠損(dMMR)から起きるマイクロサテライト不安定性由来となっています。
また、癌では糖鎖修飾にも異常が発生し、O-型糖鎖が刈り込まれて、Tn-抗原が高発現することも知られています。Tn-抗原は、マクロファージのMGLと結合し、IL-10の産生を促して免疫抑制的に作用するとともに、T-細胞のアポトーシスも誘導します。その結果として、癌細胞が免疫を回避するようになります。

ミスマッチ修復機構が欠損した癌細胞には、欠損していないものに比べてTn-抗原が有意に高発現しています。また、この種の癌細胞においては、CD8+ T-細胞の浸潤が少なく、免疫チェック機能分子であるPD-L1の発現も低いという傾向があります。従って、Tn-抗原が強いミスマッチ修復機能欠損した癌細胞に対しては、Tn-抗原をターゲットにした免疫治療や免疫チェック機能分子の阻害が有効であるかも知れないと結論しています。

新型コロナウイルス(COVID-19)におけるACE2阻害剤の使用がもたらす影響について、糖尿病がやばい

新型コロナウイルス(COVID-19)では、基礎疾患があると重症化を招きやすいことが知られており、例えば、急性腎疾患、糖尿病、免疫不全、閉塞性気道疾患では、Hazard Ratio (HR)が、下記のようになります。
急性腎疾患 (HR = 3.23, 95%CI: 2.01 to 5.19),
糖尿病 (HR = 2.07, 95%CI: 1.32 to 3.26),
免疫不全 (HR = 2.33, 95% CI: 1.29 to4.2),
閉塞性気道疾患(HR = 2.13, 95 %CI: 1.06 -4.3),

下記のグループは、SARS-CoV-2の主要な感染受容体がACE2であることから、ACE阻害剤を用いた場合の副作用について、617名の患者から得られたデータを元に統計解析をしています。
http://www.ijkd.org/index.php/ijkd/article/view/5920/1222

ACE2阻害剤の副作用は、特に糖尿病で深刻であり、(HR = 3.51, 95% CI: 1.59 to 7.75)と報告しています。
下図において、DM=Diabetes Mellitus、ACE=0はACE阻害剤無、ACE=1はACE阻害剤有を示しています。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)における感染経路としてCD147も疑われる

エンベロープを持つウイルスにおいては、宿主細胞の細胞膜表面に存在する受容体とエンベロープタンパク質の結合が感染をイニシエートします。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)においては、ACE2がその受容体になるということが一般的に認識されています。ACE2は、肝臓、肺、胃、腎臓、大腸らに発現していますが、肺におけるACE2の発現はむしろ少なく、COVID-19の重症化を鑑みれば、他の感染ルートが存在していることが疑われます。免疫細胞に広く発現しているC-型レクチンもその候補ではありますが、以下のグループは、CD147が感染経路になり得るということを示しています。
https://www.nature.com/articles/s41392-020-00426-x

CD147とS-タンパク質の相互作用は、SPR及びELISA法で検証され、VeroE6, BEAS-2B細胞を用いた実際の感染実験も行われています。
CD147を介した感染は、そのメカニズムとして細胞膜融合ではなく、エンドサイトーシスであるとのことです。

新型コロナウイルス(COVID-19)において、肥満は危険です

Jinyun People’s Hospital, Chinaのグループは、新型コロナウイルス(COVID-19)と肥満との関係をレポートしています。
https://eurjmedres.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40001-020-00464-9

12,591名のCOVID-19患者の統計的な解析により、新型コロナウイルスに感染し重症化したヒトのBMI(Body Mass Index)は、軽症者よりも高いことが示されました(MD(BMIの平均値差)2.48 kg/m2, 95% CI [2.00 to 2.96 kg/m2])。更に、COVID-19の病態において、肥満はより重症化を招きやすいことが示されました、例えば、ICU治療(OR = 1.57, 95% CI [1.18–2.09]、ECMO使用(OR = 2.13, 95% CI [1.10–4.14])。

ナイーブB細胞の過剰な浸潤が新型コロナウイルス(COVID-19)の重症化のきっかけを作る

新型コロナウイルス(COVID-19)の患者では、CD4+/CD8+ T細胞、形質細胞、マクロファージらの過剰な肺組織への浸潤が共通して起こっており、これが肺組織へのダメージやその繊維化につながっていると理解されています。
National Defense Medical Center, Taipeiのグループは、この引き金になっているのがナイーブB細胞の過剰な浸潤であるとレポートしています。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0242900

以下のようなメカニズムが考えられます。
COVID-19は、β2-インテグリンやα4β1インテグリンの活性化を介して、縦隔リンパ節へのナイーブB-細胞の蓄積やその活性化を引き起こします。SARS-CoV-2のS-タンパク質によって活性化されたナイーブB-細胞の過剰な浸潤により、多量のIgMが分泌され、液性免疫応答が活性化されます。これにより、多量の単球が肺組織にリクルートされ、マクロファージへと分化します。分泌されたIgMは同時に、補体システム、樹状細胞のFc受容体、そしてマクロファージを活性化し、SARS-CoV-2の抗原提示を増加させるとともに、食作用を強化します。加えて、SARS-CoV-2の抗原提示の増加は、IL-12依存の形質細胞の分化を通じて濾胞外反応を加速し、胚中心の形成とB-細胞の成熟を抑えてしまいます。

結論として、ナイーブB-細胞をターゲットとする治療法の重要性が提案されています。

新型コロナウイルス(COVID-19)において、IgM Memory B細胞の減少が重症化と相関している

新型コロナウイルス(COVID-19)において、一般的には、自然免疫と獲得免疫のアンバランスが重症化の引き金を引くのではないか?と考えられています。
Univ. of Pavia(イタリア)のグループは、IgM Memory B細胞の減少が重症化に関係していることを示唆しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-020-77945-8

IgM Memory B細胞は、健常者では、中央値=65.0/uL(IQR: 51.0 – 85.0/uL)であるのに対して、COVID-19患者では、中央値=5.9/uL(IQR: 2.1 – 13.9/uL)と大幅に減少しており、評価されたCOVID-19患者数は66名と少ないのですが、IgM Memory B細胞の減少は、重症化と相関していることも示されました。
年齢、性別らと、このIgM Memory B細胞の減少との間には相関は見られませんでした。