新型コロナウイルス(COVID-19)とABO及びRh±血液型の関係について

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染リスクについて、ABO血液型の影響を7,503case、296,216controlを使って調査した結果が、University of Bolognaらのグループから報告されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7500631/

A型:OR=1.23(95%CI: 1.09-1.4)
B型:OR=1,05(95%CI: 0.96-1.15)
AB型:OR=1.09(95%CI: 0.94-1.26)
O型:OR=0.77(95%CI: 0.67-0.88)

とのことです。

一方、Sakarya Universityのグループは、Rh+の血液型が新型コロナウイルスでより重症化する割合が高そうだと報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32965363/

新型コロナウイルス(COVID-19:SARS-CoV-2)の検出にCRISPR/Cas12aを使う:Mn2+を使った増感効果

CRISPR/Cas9が2020年のノーベル化学賞に輝いたのは一週間ほど前のことです。
この手法の派生技術を新型コロナウイルスの検査に使った論文が幾つか見受けられます。下記の論文は、CRISPR/Cas12aを用いた検出について、Mn2+を用いて更に13倍高感度化できたと報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7536916/#advs2020-bib-0005

手法論を簡単に書き出しますと、下記のようになります。

  • 検体からRNAサンプルを取得します。
  • これをDNAに逆転写して、PCRで増幅します(dsDNAを作る)。
  • 新型コロナウイルスのEタンパク質に特異的なRNA配列を使ってクリスパーRNA(crRNA)を予め設計しておきます。
  • これとCas12a酵素を同時に加えると、新型コロナウイルス特異的な配列がサンプルのdsDNAにあると該当箇所が切断されます。
  • これによってPCR過程で組み込まれていた蛍光プローブとクエンチャーの距離的な相互作用が無くなるので、励起光を当てれば蛍光がでる。

この蛍光は、検出器でももちろん読み取りますが、目でも確認できるという訳です。
この系にMn2+を加えると13倍高感度化したということです。

新型コロナウイルス(COVID-19)における液性免疫応答(抗体を中心とした免疫反応)には永続性がないのはどうしてか?

Harvard Medical Schoolらのグループは、液性免疫応答(抗体を中心とした免疫反応)にはどうして永続性がないのか?について報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32877699/

生体に侵入するウイルスなどの外来性の異物の排除には自然免疫に加えて、抗体を中心とする適応免疫が活躍します。感染の初期には低親和性のIgG抗体が産生されますが,時間の経過とともに産生されるIgG抗体は成熟し抗原に対する親和性が上昇していきます。これは,胚中心(Germinal center:免疫応答の際に脾臓やリンパ節などの免疫組織に形成される微小な構造)において高親和性の抗体を産生するB細胞が分化するからです。感染の初期には抗原に特異的なB細胞がプラズマ細胞へとすみやかに分化し低親和性の抗体を産生しますが、一部のB細胞は転写因子Bcl6を発現し(Bcl-6 Tfh細胞)、胚中心を形成します。

実は、COVID-19においては、この杯中心の形成が抑制されていることが表題の原因のようです。何故、胚中心の形成が抑制されるのか?について、詳細なメカニズムは分かっていませんが、TNF-αのようなサイトカインが過剰に産生されるとBcl6-Tfh細胞の分化が抑制され、胚中心も結果として形成されないとのことです。

この現象は、COVID-19のみでなく、Ebora, Marburg disease, H5N1 influenzaでも起こるようです。

癌に対する糖鎖創薬の在り方について

糖鎖は細胞の顔と言われるように、細胞の状態で大きく糖鎖が変化します。癌化でも特異的な糖鎖構造変化が起こることが知られており、糖鎖を創薬ターゲットとして様々な診断薬や治療薬の開発が行われています。癌化で発生する糖鎖構造の変化は、癌の種類によってもことなるのですが、共通する特徴としては、下記があります。

(1) N-型糖鎖の多分岐化
(2) O-型糖鎖の刈込
(3) 末端シアル酸修飾の増加
https://jitc.bmj.com/content/8/2/e001222.long

しかし、これらに加えて、癌化すると糖鎖修飾量自体が増加したり、ハイマンノース構造も増加するという特徴もあるようです。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32143591/

上記引用論文を踏まえて、糖鎖創薬のストーリーを以下のようにまとめてみます。

  • 抗体薬物複合体(Antobody-drug conjugates: ADC):レクチンなどを用いてターゲットとする糖鎖が発現している癌細胞を狙い撃ちする。この場合に、二重の糖鎖特異性を持たせた抗体でより精密にターゲットを狙い撃ちする手法が更に有効(例えば、GD2ガングリオシドとMUC1を二重に狙い撃ちする)
  • Siglec阻害剤:Siglecは、免疫細胞のほとんどに発現しており、シアロ糖鎖との結合で信号が入ると免疫反応が抑制される。
  • Galectin阻害剤:腫瘍細胞にはgalectinが高発現しており、免疫チェックポイントCTLA-4と結合し免疫反応を抑制したり、galectin-1はT-細胞のアポトーシスを誘導する
  • 免疫チェックポイント阻害剤:PD-1/PD-L1も強く糖鎖修飾を受けており、それを踏まえて優れた阻害効果を示す分子標的薬が有望
  • C-typeレクチン:DC-SIGN, Dectin-1らは免疫増強に有効、逆にNK62DGやMicleは免疫抑制的に働く

新型コロナウイルス(COVID-19)におけるIgG応答の特徴について

Chulalongkorn Univ.のグループは、タイにおける新型コロナウイルス(COVID-19)における患者のIgG応答について、次のように報告しています。
この研究は、2020年3月10日から5月31日までに解析された384名の患者のデータに基づいています。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0240502

血清中のIgGは、感染後2週間を過ぎると立ち上がってくる。
感染が軽症の患者では、感染後2週間たっても20%の患者からはIgGが検出されなかった。
軽症、中症、重症と症状が重くなるにしたがってIgGの発現量が増加する。
男性の方が女性よりもIgGの発現が高くなっている。

 

 

 

 

 

他所からの報告と傾向は相関していますね。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のS-タンパク質に発生した変異について:A930V, D614G, A706S, A879Sなど25個の変異が発生

2020年6月6日現在のNCBI-Virus-databaseにインドから登録されている新型コロナウイル(SARS-CoV-2)のRNAシーケンスから、中国武漢で感染拡大が始まった当初の株に比較して、どんな変異が発生したかについての研究成果が報告されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7521409/

25個の変異が発生しており、発生個所は、4個のクラスター(1-100, 148-255, 570-680, 820-930)に分かれるようです。

 

T572I, A879S, A892V, A930Vの変異は、タンパク質の二次構造に大きな変化を引き起こしており、T572Iはcoilded→helixへ、他の三つはhelix→beta sheetへの構造変化を招いています。A930V, D614G, A706S, A879Sの変異は、タンパク質の構造に比較的大きな違いを生んでいるようです。特に興味深いのは、D614Gの変異が実に88%のRNAシーケンスで起こっており、インドで感染拡大している新型コロナウイルスの中で主流になっているということです。このD614Gについては、RBDのopen conformationを助長し、その結果感染力が上がっていると言われています。

R408I, E471Qは、インドでのみ見られている変異とのことです。

新型コロナウイルス(COVID-19)の早期検査に血清中のSARS-CoV-2のカプシドタンパク質(N-protein)の検査が非常に有効

新型コロナウイルスの検査には、感染の有無を検査するRT-PCRと感染履歴があるかどうかを検査する抗体検査があることは周知の通りです。
新型コロナウイルスに感染して抗体が立ち上がるまでには一週間以上が必要であることから、抗体検査を早期診断に使うことはできません。血清中のSARS-CoV-2のカプシドタンパク質に着目すれば、抗体が立ち上がる以前の早期でも新型コロナウイルスの感染を検査できるという報告があります。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7498565/

ROCカーブでは、AUC=0.9756 (95% CI)、感度=92%、特異度=96.8%が得られたとのことです。なお、カプシドタンパク質のカットオフ値は、1.85 pg/mLでした。

素晴らしい成果ではないでしょうか・・・。

新型コロナウイルス(COVID-19)の治療薬として期待されるトウゴマとヨウシャヤマゴボウ由来レクチンの融合タンパク質

新型コロナウイルス(COVID-19)の治療薬として、トウゴマの種から抽出されるリシンA鎖の変異体(RTAM)とヨウシャヤマゴボウの葉から抽出されるPAP1の融合タンパク質(RTAM-PAP1)の有用性について、SARS-CoV-2の各種タンパク質へのアフィニティー評価とマウスを用いた毒性試験の観点から報告しています。
https://www.mdpi.com/2072-6651/12/9/602/htm

RTAM-PAP1、ACE2、SARS-CoV-2の患者由来の抗体B38らと、SARS-CoV-2の各種タンパク質の間の結合力をCoDockPP, HASSOCK2.2, ZDOCKという3次元分子構造解析ソフトを用いて評価した結果、RTAM-PAP1は、ACE2よりも強く、総合的にB38と同等な結合力を示しました。
また、マウスを用いた毒性試験では、1mg/kgのドーズでも副作用は発生しなかったとのことです。

新型コロナウイルスの治療薬として、トウゴマとヨウシャヤマゴボウ由来レクチンの融合タンパク質の有用性を示すものになっています。


トウゴマ

 

 


ヨウシャヤマゴボウ

RT-PCRを用いた新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検出において、他のコロナウイルスとの交差反応性を無くする方法について

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染疑いの検査には、ご存知のようにRT-PCRが使用されています。検査においては、感度と特異度が非常に大切なのですが、一般に広く実施されているRT-PCRがSARS-CoV-2に対して交差反応性の観点からどれだけ高い特異性を持っているのかについては、多少とも疑問があります。そこで、感度を犠牲にせず、SARS-CoV-2検出の特異度を改善するための方法論が下記グループから報告されています。
https://www.mdpi.com/2075-4418/10/10/775

方法論としては、(1)SRAS-CoVの構造タンパク質をコーディングする部位の内、アクセサリータンパク質とエンベローププロテインをコーディングする(ORF3ab-E)の領域とカプシドタンパク質をコーディングする(N)領域の二つをターゲットとしてPCRのプライマーを設計し、(2)N領域をターゲットとして設計した人工的なペプチド核酸(PAN)をPCRのブロッカーとして併用する方法です。

ペプチド核酸とは、核酸の糖-リン酸骨格をN-(2-アミノエチル)グリシンを単位とする骨格に置き換え、メチレンカルボニル結合で塩基を結合させた化合物であり、標的DNA・RNAに対する結合親和性が1000倍近くも増加します。従って、プライマーとしては働かず、PCR反応の阻害剤として機能します。

この結果として、他のコロナウイルスやインフルエンザウイルスらとの交差反応性が消失し、SARS-CoV-2の検出率は、ORF3ab-Eに対して100%、PNA-Nに対して82.6%となったとのことです。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の治療薬としての感染阻害剤について:フーリン、II型膜貫通型セリンプロテアーゼらの阻害剤は有効か?

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のSタンパク質は、感染受容体に結合するS1部位と細胞膜融合に関与するS2部位に大きく分かれます。このS1部位とS2部位の境界にはフーリン切断部位(furin cleavage site)が存在し、S2部位内にはII型膜貫通型セリンプロテアーゼ(transmembrane protease serine 2:TMPRSS2)のターゲット部位も存在します。これらの部位に対する阻害剤を用いることで、新型コロナウイルスの感染を押さえることができるのではないか、という研究成果が報告されています。
https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S2211-1247(20)31243-2

decanoyl-RVKR-chloromethylketone(CMK):furin阻害剤、camostat:TMPRSS2阻害剤、それに加えてRNAの複製を阻害するnaphthofluoresceinらが検討されました。実験にはVeroE6細胞が使用されています。

 

 

 

 

 

薬効と毒性を検討した結果、50%阻害濃度 (IC50) は、0.057 μM: CMK、9.025 μM: naphthofluorescein、そして 0.025 μM: camostatとなりました。 50% 細胞毒性濃度 (CC50) は、318.2 μM: CMK、57.44 μM: naphthofluorescein、そして2,000 μM: camostatでした。結果としての選択指数は、5,567: CMK、6.36: naphthofluorescein、そして 81,004: camostatとなっています。

CMKとcamostatはウイルスの初期感染を阻止し、naphthofluoresceinはウイルスの複製を阻止する、という違いがあることに注意しましょう。今後の診断薬開発のリード化合物として更なる検討を期待します。