Fcγ受容体を介したエフェクター効果と抗体依存性感染増強 (ADE):SARS-CoV-2の治療用抗体に関して

Biological Defense Program, DSO National Laboratories, Singaporeらのグループは、SARS-CoV-2中和抗体のFcを介したエフェクター機能について研究しています。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0253487

抗体依存性感染増強 (ADE)は、治療薬として抗SARS-CoV-2抗体を使用する場合の大きな懸念として存在しています。ADEは、Fcγ受容体が関与して、食細胞における感染を増強した場合に起こります。ADEの可能性を排除するために、Fcγ受容体が関係しない例えばIgG4アイソタイプを使用したり、FcγR-null LALA 変異を人工的に導入するというような手法がとられます。しかしながら、これらの手法は逆効果をもたらし、抗体の持つ能力を下支えするシグナルパス、例えばFcγ受容体を介したADCC効果、を殺してしまうはずです。この問題に答えるために、著者らはSARS-CoV-2回復期患者からRBDに結合する中和抗体IgG1を抽出し(SC31と命名)、その治療効果をそのLALA変異体と比較する実験を行い、SC31はADEを起こすことなく、Fcγ受容体がかかわるINF-γらの抗ウイルス応答を示しました。

SC31の治療効果におけるFcγ受容体を介したエフェクター効果を確認するために、SC31とそのLALA変異体の比較を行っています。 FcγRIIIa ADCCシグナルパスの上流の活性化を評価するために、ADCC reporter assayを組み込んだFcγRIIIaを発現するJurkat reporter 細胞株を使用し、SARS-CoV-2 Spikeを発現するようにしたHEK293T株を共培養して、蛍光を測定しました。SC31のLALA 変異体とは異なり、SC31においては、ドーズ依存性を持ちながらADCCシグナルの活性が見られました。

Galectin-3が腹部大動脈瘤のバイオマーカーになり得る

Taipei Medical University, Taiwanらのグループは、Galectin-3が腹部大動脈瘤の良いマーカーになり得るとしています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8200414/

超音波診断が、AAAの診断に対してはゴールドスタンダードであり、高い感度と特異性を持っています。しかし、その感度は、動脈瘤の大きさで変わりますし、動脈瘤下の大動脈拡張には著音波診断はすいしょうされません。この為、動脈瘤サイズを反映する炎症性の血中バイオマーカーがあれば、動脈瘤の発見や進行を検査するのに役立ちます。

151名の腹部動脈瘤患者と195名の健常者の協力を得て、血中バイオマーカーとしてGal-3とIL-6の横断的な研究が行われました。血中Gal-3の濃度は、腹部大動脈溜の患者で健常者に比べて顕著に高くなっていました(96.9 ± 4.5L vs. 76.5 ± 1.9 ng/mL)、同様に血中IL-6の濃度も腹部大動脈瘤の患者で高くなっていました(92.8 ± 5.2 pg/mL vs. 72.5 ± 3.0 pg/mL)。Gal-3とIL-6の診断能力をROC解析した結果、Gal-3のAUCは0.91となり、IL-6のそれは0.72となりました。

Gal-3 は、マクロファージに対する走行性因子であり、それ故、各種の心血管疾患と関連しています。Gal-3が高値となった腹部動脈瘤患者においては、活性化されたマクロファージなど炎症性免疫細胞の心血管疾患への遊走や更なるGal-sの分泌を意味している可能性もあります。

3種のC-型レクチン、MBP, Langerin, Dectin-2、とMannoseの結合様式について抜粋

東北薬科大のグループは、病原菌認識に関わる11種の哺乳類レクチン受容体についてレビューしています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8185196/

このレビューの中から、3種のC-型レクチンについて、ご参考にまとめてみました。
多くのC-型レクチンはマンノースに対して特異性を示し、病原体の認識に深く関わっています。一つ目のマンノース結合レクチンはMBP(MBLとも呼ばれる)ですが、これは自然免疫の補体経路を活性化するものとして知られています。マンノース修飾は哺乳類のN-型糖鎖で頻繁にみられるものであり、何故MBPが外因性のマンノースを認識できるのか不思議ではないでしょうか? 恐らくこれは、哺乳類のN-型糖鎖に比べて、病原菌のマンノース修飾は密度が高いことに原因があると考えられます。C-型レクチンのドメインは、マンノースのOH3とOH4に配位したCa2+イオンを好みます。そのアフィニティーはKd値が1mMと非常に低く、1:1の反応では免疫反応を引き起こせません。しかしながら、MBPは三量体であり、病原菌に発現する多くの末端マンノースと多価的に反応することができます。MBPの糖鎖結合サイト間の距離は50Åであり、そのような多価的な結合にちょうど良い構造となっています。もうひとつのC-型レクチンであるLangerinの場合には、三量体の結合サイト間の距離は40Åであります。 多価的に結合することによって、単一のマンノース結合に比べて、アフィニティーは何と1,000倍 向上することが分かっています。

Dectin-2も同じようにC-型レクチンですが、DC-SIGN、Langerinなど他のC-型レクチンに比べると、Manα1-2Man 構造をまるっと認識することが異なっています。他のC-型レクチンは、末端のManα1-2Man構造しか認識しないのです。内部のマンノース残基を認識できるということは、Dectin-2 は長いマンナン型糖鎖を認識するに優れていると言えるでしょう。

COVID-19治療薬として、TMPRSS2阻害剤としての低分子化合物 ketobenzothiazole が有力な候補に挙がる

Washington University School of Medicine, Saint Louis, United Statesらのグループは、既存のCamostat and Nafamostatに対しても非常に優れた活性を示す知分子のTMPRSS2阻害剤 ketobenzothiazoleを発見した。そのリードが豪物である MM3122 は、recombinant full-length TMPRSS2に対して、IC50 = 340 pM という阻害効果を示し、ヒトのCalu-3肺上皮細胞へのSARS-CoV-2感染に対してもEC50 = 430 pM という阻害効果を示した。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8204910/

尿酸とCOVID-19: COVID-19を発症すると低尿酸血症になるという

Cliniques universitaires Saint-Luc, Belgiumらのグループは血中の尿酸値とCOVID-19の重症度の間に面白い関係があると述べています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8201458/

低尿酸血症の割合は、一般的に外来患者の0.3%程度と言われています。しかし、COVID-19に関する本コホート研究では、SARS-CoV-2感染で入院した患者の20%が低尿酸血症であり、ICUにてエクモを必要とする患者では77%にも増加します。

尿酸は、プリン体の代謝産物であり、肝臓で作られます。腎臓は血中の尿酸値の重要なレギュレーターであります。血中の尿酸は、糸球体によってフィルタリングされ、腎臓の近位尿細管において絶妙な吸収と分泌のバランスが取られています。近位尿細管における尿酸輸送の分子的なメカニズムはまだ完全に解明されていないと言えますが、URAT1 (SLC22A12)が近位尿細管内での尿酸の再吸収を介在する主たるトランスポーターだと考えられています。COVID-19で死亡した患者の腎臓サンプルからの検証では、このURAT1が70%も減少していることが確認されており、これが尿酸の再吸収と分泌のバランスを崩しているものと考えられます。いずれにしても、COVID-19由来の低尿酸血症の原因は推測的であり、多岐にわたる要素が関係しているものと思われます。

ともあれ、血中の尿酸値がCOVID-19の重症化リスクを予見する信頼に足るバイオマーカーであるようです。

HIVの抗体はSARS-CoV-2の糖鎖抗原に結合するが、中和することはできない

University of British Columbia, Canadaのグループは、HIVの抗体がSARS-CoV-2を中和化できるかどうかについて議論しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-021-91746-7

HIVの抗体3種(2G12, PGT128, PGT126)のSARS-CoV-2への結合性をmethyl α-d-mannopyranoside(安定化されたmannoseアナログ)存在下でELISAアッセイを用いて評価しました。methyl α-d-mannopyranoside の濃度が上昇するとともに、これら抗体の交差反応性が阻害され、これら3種のHIV抗体はSARS-CoV-2に対して糖鎖を介して相互作用していることが分かります。

luciferase reporter geneを導入したSARS-CoV-2疑ウイルスを用い、ACE-2を過剰発現したHEK293-T 細胞への感染阻害実験が行われました。感染48時間後に、細胞ライセート中のLuciferase発光を測定しています(RLU: relative luciferase units)。 これら3種のHIV抗体の場合には、しかしながら、広い濃度範囲に渡って中和活性は全く見受けられませんでした。一方で、SARS-CoV-2 RBDをエピトープとするVH-FC ab8抗体の場合には、中和活性を示すきれいな阻害効果が示されています。

しかし、ブログ著者が思うに、C-型レクチンを発現する免疫細胞(マクロファージなど)への感染に対しては、これらのHIV抗体でも中和できる可能性があるのではないでしょうか?

p-cymeneがSARS-CoV-2の抗ウイルス薬になり得る

University of Crete, Greeceのグループは、p-cymene(p-シメン)がSARS-CoV-2に対する抗ウイルス薬になり得ると報告しています。
https://bpspubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/prp2.798

SARS-CoV-2に感染したVero細胞をp-cymeneで処理(濃度は0.0125 ~ 200 μg/ml、2日間のインキュベーション)した結果、プラーク形成が顕著に減少し、培養上清中のウイルス力価も大きく減少しました(up to 90%, Q-PCRにて検証)。SARS-CoV-2を感染させる前に、Vero細胞をp-cymeneで前処理した場合には、ウイルス力価が95%減少しました(Q-PCRで検証)。IC50 の値は、同時アプライで74.5 μg/ml、前処理した場合では57 μg/mlまで減少しました。重要なことは、p-cymene の濃度は <100 μg の場合には、細胞の生存能力には全く影響がないという事です。

SARS-CoV-2 N proteinとインポーチンAの結合体に対して、p-cymeneを加えた場合の影響を分子動力学を用いて検証した結果は、p-cymene はヌクレオカプシドとインポーチン結合体を不安定化させることが分かりました。この結果として、核内輸送が阻害されることになります。

Type2糖尿病由来の循環器系疾患に対する新しい尿中マーカーについて:High mannose構造が増加

岡山大医学部のグループは、Type 2 糖尿病性循環器系疾患に対する新しい尿バイオマーカーを発見したと報告しています。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fcvm.2021.668059/full

Type 2 糖尿病性疾患の主要な疾患の一つに循環器系疾患があります。本研究では、680名のType 2 糖尿病患者の尿グライコームの変化をレクチンマイクロアレイを用いて調べています。

5年間のフォローアップ期間の間に、62名の患者がエンドポイントに達しました。Cox比例ハザードモデルを用い、既知の循環器系疾患に対する指標、統計的な疑陽性率、モデルの適合性の向上などを考慮した結果、2つのレクチンが循環器系疾患の進行と顕著に相関していることが分かりました。2つのレクチンは、UDAとCalsepであり、これらのハザードレシオは、UDA(Man5 ~ Man9 に特異性)=1.78 (95% CI: 1.24–2.55, P = 0.002) 及び Calsepa(Man2~Man6)=1.56 (1.19–2.04, P = 0.001)となりました。これらのレクチンに共通する糖鎖結合特異性は、N-型糖鎖のHigh Mannose構造になります。

これらの結果から、type 2 糖尿病患者において、high-mannose型糖鎖を持つ糖タンパク質の尿中への排泄が、循環器系疾患を発症するということを予見する上での優れたマーカーになることを示しています。このような異常なN-型糖鎖修飾の変化が起こる背景のメカニズムについては不明であり、今後の研究が待たれます。

STL, PNA, JacalinのO-GalNAcに対する結合特異性

Georgia State Universityらのグループは、化学的酵素的に作られたO-GalNAc糖鎖に対するSTL, PNA, Jacalinの糖鎖結合特異性を詳細に報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41467-021-23428-x

STL は、末端にLacNac構造を持つcore 2, core 6構造に結合し、core 1やcore 3には結合しません。
PNA は、β1-3Gal branchを持つcore 1やcore 2に選択的に結合します。.
Jacalin は、core 3とほとんどのcore 1構造に強く結合し、α2-6 Siaを嫌います。core 2, core 4, core 6 構造には結合しません。

膀胱がんにおける治療ターゲットとしてのバイオマーカーについて:sialyl-T, sialyl-Tn抗原を発現するHOMER3がそれだ

Portuguese Institute of Oncologyらのグループは、膀胱がんの治療ターゲットとして、sialyl-Tやsialyl-Tn 抗原を発現するHOMER3が有望であると述べています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8188679/

膀胱がんの細胞株である5637とT24からは、10種類ほどの糖鎖構造が特異的に見つかっており、O-型糖鎖が主体です。両方の細胞株で、特に高発現しているのは、mono- 及び di-sialylated T 抗原 (sialyl-T)、core1、更にsialylated 或いはまた fucosylated core2 であります。

このグライコミクス解析をベースとして、細胞からライセートを抽出し、超遠心して膜タンパク質をエンリッチしました。その後、シアリダーゼで処理した後、T抗原にアフィニティーを持つPNAレクチンでプルダウンしました。得られた糖タンパク質をトリプシン消化し、nanoLC-CID-MS/MSにかけ、プロテオミクスの標準的な手法に従って糖タンパク質が同定されました。その結果、900種を超える糖タンパク質が同定されました。

これらの中で、GLUT1(SLC2A1) と HOMER3 が1stランクに位置付けられ、膀胱がんの潜在的な治療ターゲットとして浮上しました。GLUT1 進行した膀胱がんでしばしば過剰に発現するきわめて重要なグルコース・トランスポータです。一方、HOMER3は、ニューロンのシグナル伝達、T細胞の活性化、およびベータアミロイドペプチドの輸送に関与しているとされています。

膀胱がんにおいては、下図に示すように、HOMER3が、sialyl-Tn や sialyl-T 抗原とともに細胞膜上の同じ位置に発現していることが免疫染色で確認されました。