N343に存在するN型複合糖鎖がSARS-CoV-2のRBDのopen, closeの構造変化を制御している

UC San Diegoらのグループは、SARS-CoV-2のAVE2に対するRBDの配位(open or close)をN343の位置に存在する複合型N型糖鎖が制御していることを分子動力学的シュミレーションを用いて示しました。下図を見てもらえれば一目瞭然かと思います。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.02.15.431212v1

膜性糸球体腎炎(Membranous Nephropathy)の治療には、捕体経路の阻害が有効

The Ohio State University Wexner Medical Centerらのグループは、膜性糸球体腎炎(Membranous Nephropathy:MN)の原因となっているのが補体の過剰な蓄積であることを指摘してます。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7879111/pdf/main.pdf

腎臓組織切片からLMDでサンプルを取得し、質量分析にて、IgG及び補体の発現量を網羅的に解析しました。その結果、膜性糸球体腎炎では、IgG1~IgG4およびCR1以外の全ての補体群が健常者に比較して高発現していることが確認されました。一方で、mannose-binding lectin (MBL), Ficolin, Collectinらは検出されませんでした。これらの結果は、レクチン経路ではなく、補体古典経路が異常に活性化され糸球体組織にダメージを与えていることが示唆されます。CR1は主に糸球体上皮細胞(podocyte)に発現していることから、ダメージを受けてCR1が減少することが補体の活性化を更に加速しているのかも知れません。なお、膜性糸球体腎炎の場合には、M-type phospholipase A2 receptor (PLA2R)が発症の抗原になっていると考えられているようです。

SARS-CoV-2に対するhCoVs特異的なIgGの交差反応について

NMI Natural and Medical Sciences Institute at the University of Tübingenらのグループは、1,173名の血清/血漿サンプルを使用し、SARS-CoV-2感染者、非感染者に対して、SARS-CoV-2特異的およびhCoVs特異的なIgGについて評価した結果を報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41467-021-20973-3.pdf

ヒトに風邪を引き起こすコロナウイルス(hCoVs)には、四種類(NL63, 229E, OC43, HKU1)が知られています。
下図のようにSARS-CoV-2とこれらhCoVsの間には、程度の差こそあれ、確実に相関関係が存在しています。SARS-CoV-2感染者の内、10%はSARS-CoV-2特異的なIgGが検出されておらず、この原因が、自然免疫によってウイルスが排除された結果なのか?それともhCoVs特異的なIgGの交差反応の結果なのかについては、今のところ不明です。


今更ですが、C型レクチン CD209/DC-SIGN, CD209L/L-SIGNが新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染受容体になり得るという指摘

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染受容体は、ACE2以外に、C型レクチンもそうである、という指摘は下記の論文に見ることが出来ます。
Harvard Medical School, July 30, 2020
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.07.29.227462v1
Boston University, Dec. 9, 2020
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.06.22.165803v2
Boston University, (Dec. 22, 2020)よりReviewという形での論文がありましたので、それを参考にふたつのデータを紹介しようと思います。
https://www.mdpi.com/2079-7737/10/1/1

ACE2は確かに主要な感染受容体ではあるのですが、肺ではそれほど発現量が高くなく、むしろCD209/DC-SIGNの方が発現量が高くなっています。
CD209L, CD209, ACE2を過剰発現させたHEK293細胞を用いて、SARS-CoV-2の疑似ウイルスを感染させた実験も下記に示します。
ACE2は感染受容体として一義的に重要なのですが、ACE2の発現が弱い組織では、C型レクチンがSARS-CoV-2の感染を大いに介在していることは事実でしょう。
なお、これらC-type Lectin(DC-SIGN, L-SIGN)のCRDは、High Mannose構造を強く認識します。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染しても発症しないようにすればよい:ウイルスとの積極的共存の可能性について、ウイルスに打ち勝つ術

常々ブログ著者が考えていることと同じような内容が下記の論文に書かれていましたので、それを参考にしながら記事にまとめてみました。
A group from Central University of Tamil Nadu, etc.
https://academic.oup.com/femspd/article/79/1/ftaa076/6027506

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染しても無症状者がかなりの割合で存在します(80%に達するという報告もあります)。一般的にSARS-CoV-2に感染して発症するまでの潜伏期間は、5,6日ですが、14日に及ぶ場合もあります。しかし、無症状の場合は、平均19日と潜伏期間が長くなるようです。

SARS-CoV-2に感染すると、STING経路が活性化され、NLRP3インフラマソームの活性化がそれに追い打ちをかけて、IL-1β, IL-18, TNF-α, IFN-γ, IL-6らサイトカインの産生を過剰に促し、サイトカインストームを引き起こします。しかしながら、コウモリは、各種ウイルスのリザーバーでありながら、自身は発症しません。コウモリの場合は、その進化の過程において、次のような特徴を備えることでウイルスと共存していると考えられます。
(1)単球におけるNLRP3インフラマソームの過剰な産生が抑制されている、
(2)PYHIN遺伝子欠損により外因性DNAを検知する能力が低下している、
(3)抗炎症性サイトカインIL-10の分泌が多い、
(4)NK細胞に機能性キラー細胞Ig様 (KIR)受容体, キラー細胞レクチン様(KLR)受容体が欠損している。

ヒトの無症状者の場合は、炎症性サイトカインのレベルも低く、SARS-CoV-2特異的なIgGもかなり低いということが分かっています。つまり、無症状であるということは、免疫反応が弱いことの結果とも考えられます。また、逆に、無症状である理由の一つには、通常の風邪のコロナウイルス(229E, HKU1, OC43, NL63)に対するIgGの交差反応の結果という考えもあります。

ウイルスとの積極的共存という意味において、コウモリで発見されたメカニズムは、ヒトにおけるCOVID-19に対する治療戦略の開発を示唆している可能性が高いと思われます。それこそがウイルスの脅威から生き残る知恵なのかもしれません。

アガラクト(i.e., GlcNAc)結合特異性を持つレクチン:BLL、PVL、GSL-II、そしてBGL

複合型糖鎖において末端のGal修飾を欠く糖鎖(すなわちアガラクト型:末端GlcNAc)は、自己免疫疾患などで良く見られる糖鎖構造です。アガラクト型を認識するレクチンには、下記のように、BLL, PVL, GSL-IIらが知られています。BLLとPVLはキノコ由来であり、GSL-IIはマメ科レクチンです。

Boletopsis leucomelaena(クロカワ):BLLレクチン

 

 

 

 

 

Psathyrella velutina(ムジナタケ):PVLレクチン

 

 

 

 

 

 

Griffonia simplicifolia(バンデリア豆):GSL-IIレクチン

 

 

 

 

 

 

New England Biolabs, Inc.のグループは、クロカワキノコの北米における同種キノコ(Boletopsis grisea)の遺伝子配列を明らかにし、recombinant lectin (rBGL)の糖鎖結合特異性を糖鎖アレイを用いて評価しました。興味深いことに、rBGLは、アガラクト型N型糖鎖にアフィニティーを持つ以外に、O型糖鎖であるThomsen–Friedenreich 抗原 (TF-antigen; Galβ1,3GalNAc-α-)にもアフィニティーを持つことが明らかとなりました。アプリケーションによっては、このO型糖鎖への結合性を生かせるかも知れません。
https://www.nature.com/articles/s41598-020-80488-7

キチナーゼ3様タンパク質(CHI3L1/YKL-40)が新型コロナウイルス(COVID-19)の新規創薬ターゲットとなり得る

Brown Universityらのグループは、キチナーゼ3様タンパク質(CHI3L1/YKL-40)が新型コロナウイルス(COVID-19)の新規創薬ターゲットとなり得ることを報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33442679/

新型コロナウイルスに感染しても大多数は無症状か軽症ですが、10~20%は入院を余儀なくされます。特に興味深いのは、COVID-19の重症化は、年齢や合併症の存在(糖尿病、高血圧、肥満、メタボリックシンドローム、心血管疾患、COPDや喘息など)と深く関係しているということです。CHI3L1は、炎症や疾患によって様々な細胞から分泌され、免疫応答の調整に関与し、細胞のアポトーシスを保護することも知られています。興味深いのは、CHI3L1は、年齢やCOVID-19のリスクファクターである合併症の存在で分泌量が増大するということです。そこで、著者らは、CHI3L1とCOVID-19の感染でキーファクターとなるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)、タンパク分解酵素(TMPRSS2)、リソソーム内加水分解酵素カテプシンL(CTSL)の関係性に着目しました。

マウスを用いたin vivoでの実験では、CHI3L1を高発現させると、ACE2, TMPRSS2, CTSLの発現も有意に上昇しました。Calu-3肺上皮細胞を用いたin vitroの実験では、CHI3L1のドーズと共にACE2, TMPRSS2, CTSLが単調に増加することが示されました。また、CHI3L1のモノクロナール抗体であるFRGを投与すると、ACE2, TMPRSS2, CTSLの発現が抑制されることも示されました。COVID-19の患者において、その重症度とCHI3L1の間には、有意な相関関係があることも示されました。

これらのことから、CHI3L1がCOVID-19の治療において、創薬ターゲットになり得るということが強く示唆されます。今後の研究を期待しましょう。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染阻害に、予想外にIgMが大きな役割を果たしている

University de Montreらのグループは、新型コロナウイルス(COVID-19)の回復期患者=25名の血漿を用い、IgM, IgA, IgGのSARS-CoV-2中和活性を相対評価した結果を報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33596407/

アイソタイプ特異的なリガンドを固定化したビーズを用いて、IgM, IgA, IgGをそれぞれ選択的に除去します。それぞれが除去された血漿に対して、SARS-CoV-2の疑似ウイルスの阻害希釈(ID50)を評価した結果が下図です。IgMの除去血漿では中和活性が5.5倍減少、次点はIgGの除去で4.5倍減少、IgAの除去は2.4倍という結果。IgMは、全免疫グロブリンの5%にしか過ぎないことも考えると、以外にもIgMの中和活性が大きいことが分かります。

2020年後半から新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の20G系統樹にQ677変異が急増している

University of Bern, Switzerlandらのグループは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の20G系統樹(B.1.2)において、Q677に変異が入った株(Q677PとQ677H)が米国で急激に増加していることを報告しています。この変異はfurin cleavage site近傍に存在する為、感染力への影響が考えられますが、詳細な研究は今後の課題になります。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33594385/

新型コロナウイルス(COVID-19)の患者では、腎臓に過剰な補体の活性化が起こっている

Friedrich-Alexander-University (FAU) Erlangen-Nürnbergらのグループは、新型コロナウイルス(COVID-19)の患者では、腎臓に過剰な補体の活性化が起こっていることを報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7878379/

COVID-19は、急性呼吸窮迫症候群 (ARDS)を引き起こしますが、肺以外に循環器や腎臓にもダメージを与えます。腎臓の場合は、糸球体や尿細管が損傷を受けるようです。補体が過剰に活性化されることで、過剰な細胞膜障害性複合体(MAC)が糸球体や尿細管組織にダメージを与えると考えられます。
下表は、コントロールに対して、COVID-19と代表的な腎臓疾患での補体発現量の比較を示しています。

 

ATI:急性尿細管傷害
HUS:溶血性尿毒症症候群
DIC:播種性血管内凝固症候群