2018年11月、2019年8月の牛乳から新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のIgGが発見された

順天堂大学らのグループは、牛乳のホエーから、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のS-タンパク質に対する抗体(IgG)を発見しました。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0958694621000303?via%3Dihub

牛乳は、2018年11月、2019年8月にニュージーランドの牛から搾乳されたものであり、その牛乳のホエー中に、SARS-CoV-2のS-タンパク質に存在するRBDに対するIgGが存在していることを発見しました。S-タンパク質の遺伝子配列は下図のようですが、エピトープマッピングを行っところ、RBDにアフィニティーを持つことが分かりました。従って、牛乳のホエーからエンリッチしたIgGは、SARS-CoV-2に対する中和活性を示す可能性があります。
しかし、この牛乳は、新型コロナウイルスが蔓延する以前に搾乳されたものであり、牛がSARS-CoV-2に感染していたということは考えにくく、SRAS-CoV-2と免疫原生をシェアする未知のコロナウイルスに感染していたのかもしれません。

 

 

ピロリ菌が感染した胃上皮細胞の糖鎖修飾変化について

Chinese Center for Disease Control and Prevention, Beijingらのグループは、胃上皮細胞(GES-1)に各種病態から取得したピロリ菌を感染させ、その糖鎖修飾の変化をレクチンマイクロアレイにて調査しています。
https://www.mdpi.com/2076-0817/10/2/168/htm

ピロリ菌を取得した病態は、次の通り、
慢性胃炎 (YN4-62)、
十二指腸潰瘍疾患 (M84, P164)、
胃癌 (HLJ011, HLJ030)、

傾向としては、α1-2Fucとα2-3Sia修飾の昂進が特徴と言えるでしょう。ピロリ菌が感染していないGES-1をコントロールとし、発現量の変化を示しています。赤は増加していることを示す。

Lactoferrinが新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の抗ウイルス薬として機能する

Lactoferrinは、乳から分離された鉄結合性の分子量8万の糖タンパク質です。ヒトを含む哺乳類の乳(特に初乳)に多く含まれていますが、成人においても涙液、唾液、膵液その他の外分泌液や好中球に含まれています。Lactoferrinが、免疫調整機能、抗ウイルス機能、ビフィズス菌の増殖、鉄結合能と関連する鉄吸収調節、抗炎症作用、脂質代謝改善作用などの健康を維持・増進する作用を持つことも知られています。

University of Arizona, Tucsonらのグループは、lactoferrinが実際にSARS-CoV-2に対して抗ウイルス作用を示すこと、そしてまた、そのメカニズムは何なのか?について報告しています。
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/22221751.2021.1888660

Vero E6 細胞, Calu-3 細胞, ACE2を過剰発現させた293T 細胞を用いて、SARS-CoV-2のin vitroでのlactoferrinの感染抑制効果を示しています。
そしてまた、その機構がACE2の共受容体であるヘパラン硫酸へのSARS-CoV-2結合阻害であることを分子ドッキング法を用いて検証しています。ヘパラン硫酸は負電荷を持ち、SARS-CoV-2のSタンパク質のNTDに存在する正電荷を帯びた領域(17~41残基領域)と結合するものと考えられています。下図において、BLF=Bovine lactoferrin 、HLF=Human lactoferrinであります。下図の右側は、heparin dp4とBLFとの分子ドッキング図を示しています。

何故、SARS-CoV-2 (20I/501Y.V1)英国変異株では、感染力がアップするのか?

Anschutz Medical Center, University of Coloradoらは、SARS-CoV-2 (20I/501Y.V1)英国変異株では何故感染力がアップするのか?について分子ドッキング法を用いて解析しています。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.02.02.428884v1.full

Wild typeであるN501に対して、変異体のY501は、RBDであるACE2に対して10倍ほど高い結合力を示し、これはRBDとACE2との間に新たに水素結合が形成されることと(下図の太い破線)、ring-ring相互作用(下図の薄い破線)が存在するからだと結論しています。

Vitamin Dと新型コロナウイルス(COVID-19)

University of Floridaらのグループは、987,849人の統計解析にて、ビタミンD欠乏症の患者は、年齢層を調整した後、欠乏症のない患者よりもCOVID-19に感染する可能性が5倍高かったそうです(OR = 5.155; 95%CI、3.974–6.688; P <0.001)。充実した食生活が健康の基礎ということを改めて教えられます。短いブログで恐縮です。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7716744/

Rab11 (リサイクリングエンドソーム経由の膜小胞輸送のレギュレーター) がどのようにN型糖鎖修飾に関係しているか?

大阪大学らのグループは、N型糖鎖修飾にRab11(リサイクリングエンドソーム経由の膜小胞輸送のレギュレーター)が深く関わっていることを発見しました。
https://www.jbc.org/article/S0021-9258(21)00126-5/fulltext

糖鎖修飾は、小胞体およびゴルジ体に存在する糖転移酵素によって制御されます。従って、それぞれの糖転移酵素が適当なポジションに存在しないと、正しく糖鎖修飾が行われません。しかし、糖転移酵素の正しい位置への輸送に関するメカニズムについては、分かっていません。

著者らは、膜小胞輸送のレギュレーターのRab11がα2-3Siaの修飾に大きく関わっていることを発見しました。Rab11をノックアウトした細胞では、α2-3Siaの修飾が大幅に昂進しており、この原因は、Rab11がα2-3Sia修飾に対する糖転移酵素ST3GAL4をゴルジ体領域外に輸送していることにありました。結果として、Rab11がα2-3Sia修飾をネガティブに制御していることが分かりました。

下図は、正常な状態でのRab11の役割を示しています。

HDL善玉コレステロールが高いと新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染リスクが大きく低下する

Hospital del Mar Medical Research Institute (IMIM), Barcelona, Spainらのグループは、HDL善玉コレステロールが高いと新型コロナウイルスの感染リスクが大きく低下することを報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7852244/

下図のように、HDLコレステロールが増えるとともに、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染リスクが単調に減少することが分かります。317,306人のデータから統計解析がされています。38.66535をかけることで、mmol/Lをmg/dLに換算することができます。

血栓形成促進性の血小板表現型(P-Selectin, GPIIb/IIIa複合体ら)と新型コロナウイルス(COVID-19)との関係性

新型コロナウイルス(COVID-19)においては、急性呼吸窮迫症候群のみでなく、心血管合併症らの血栓形成状態を引き起こすことが知られています。

Technical University of Munichらのグループは、21種類の膜貫通型タンパク質に対する抗体パネルを用いて、マスサイトメトリー法によって血小板のこれらマーカーの発現状態を調査しました。
https://www.nature.com/articles/s41419-020-03333-9

マスサイトメトリーより、P-Selectin (0.67 vs. 1.87 健常者中央値 vs. COVID-19患者中央値, p = 0.0015) ,  LAMP-3 (CD63, 0.37 vs. 0.81, p = 0.0004),  GPIIb/IIIa 複合体 (4.58 vs. 5.03, p < 0.0001)らが高発現していることが分かりました。P-Selectinは、血管の内面を覆う活性化内皮細胞の表面上の細胞接着分子として機能し、血小板を活性化します。GPIIb/IIIaはインテグリン複合体であり、フィブリノーゲンおよびフォンヴィレブランド因子の受容体であり、血小板の活性化を助けます。LAMP-3はリソソーム関連膜糖タンパク質3です。

P-Selectinが活性化することで、血小板と白血球の相互作用が促され、結果として好中球細胞外トラップ(NETS)が形成されます。NETSは、自然免疫のひとつの機能であり、ウイルスの捕獲と排除を行います。しかし、過剰なNETSは、血栓形成に繋がります。また、P-Selectinとインテグリン複合体の高発現は、血小板凝集を引き起こし、炎症を助長します。血栓塞栓につながる病態生理学的な詳細なメカニズムや血小板の活性化における鍵となるドライバーについては依然不明ですが、ウイルスが感染した上皮細胞やサイトカインストームによって誘起されていることには間違いがないでしょう。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とABO血液型

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染については、O型のヒトは抵抗性が高く、A型のヒトでは抵抗性が低くなる、という報告が既にいくつかの研究機関から発表されています。このことから、抗A抗体の存在がSARS-CoV-2の感染防御に関係しているに違いないと推測されています。
Université Libre de Bruxelles (ULB), Brussels, Belgiumらのグループは、抗A抗体や抗B抗体の存在量が問題であり、それがSARS-CoV-2の感染のし易さに関係しているではと推測しています。
https://www.ijidonline.com/article/S1201-9712(20)32549-2/fulltext

O型:IgM 抗A+抗B凝集スコア:88.29±33.01(健常者)、76.93±34.93(COVID-19患者)
A型:IgM 抗B凝集スコア:30.40±18.84(健常者)、24.93±18.73(COVID-19患者)
B型:IgM 抗A凝集スコア:36.50±17.41(健常者)、28.56±17.41(COVID-19患者)

これらの結果から、抗A抗体や抗B抗体の存在量が少ないと、SARS-CoV-2への抵抗性が弱くなり感染しやすくなるということが言えそうですし、存在量が多くないと血液型の違いによる感染防止の効果は明確にはでてこないと考えられます。

抗A抗体や抗B抗体は、胃腸内細菌叢からの免疫刺激によって合成されます。これら抗体産生と微生物叢の存在量の両方は、個人の年齢と栄養状態によって大きく異なります。つまり、腸内細菌叢によるABO抗体産生の促進こそが、新型コロナウイルスの感染防止に役に立つということではないでしょうか!?

新型コロナウイルス(COVID-19)回復患者の血漿中和抗体が効かなくなる

ワクチン開発の重要な問題は、ワクチン接種を受けた人々のポリクローナル免疫応答の選択圧下で、ウイルスがその免疫から逃れるために進化してしまわないか?ということであり、変異を受けたウイルスに対して有効性を担保できるか?ということになります。

Fondazione Toscana Life Sciences, Siena, Italyらのグループは、新型コロナウイルス(COVID-19)回復患者の血漿中から得られた中和抗体(ポリクロナール)を用いて、ウイルスと共培養を行った結果について報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33398278/

本実験においては、20人の回復患者の中和抗体について最も力価の高い患者のそれを使用し、VERO E6細胞とSARS-CoV-2を100日間(14継代以上)に渡って共培養し、中和抗体の力価の変化とウイルスに発生した遺伝子変異の関係を調査しています。本実験では、Sタンパク質のNTDとRBDに下記のような変異が起こっており、それとともに、中和抗体の力価が下がっていく様子が如実に示されています。

  1. deletion of the phenylalanine in position 140 (F140) on the S-protein NTD N3 loop.
  2. glutamic acid in position 484 of the RBD was substituted with a lysine (E484K).
  3. 11-amino-acid insertion between Y248 and L249 in the NTD N5 loop (248aKTRNKSTSRRE248k).

この実験結果は、力価の高い中和抗体(ポリクロナール)でもウイルスが変異してその選択圧力から逃れていくことを示し、従って、治療にはカクテル抗体を使用することが推奨されます。加えて、変異に対応できる第二世代のワクチン開発の必要性を示唆しています。