Mannose Binding Lectin (MBL)の遺伝子変異が新型コロナウイルス(COVID-19)の重症度に大きく関係しているらしい

自然免疫には、(1)マクロファージやNK細胞等の貪食細胞が中心となる貪食、(2)補体レクチン経路、(3)好中球細胞外トラップがあることが知られています。補体レクチン経路においては、Mannose Binding Lectin (MBL)が中心的な役割を果たし、病原体の細胞壁のマンノースにMBLが結合すると、MBLと結合したMBL結合セリンプロテアーゼ(MASP)という酵素が活性化され、MASPが補体第4因子(C4)を活性化し、順次補体を活性化して、最終的に、病原体の細胞壁に穴をあけて殺傷します。

Istanbul Faculty of Medicine, Istanbul Univ.らのグループは、このMBLの遺伝子変異が新型コロナウイルス(COVID-19)の重症化に大きく係わっていることを報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7838598/

MBL2遺伝子のcodon52の変異について、
AA genotypeを参照として、
BB genotype: odds ratio (OR) = 5.3, p < 0.001;
AB genotype: OR = 2.9, p = 0.001

ICUの必要性については、更にodds比が大きくなり
BB genotype: OR = 19.6, p < 0.001
AB genotype: OR = 6.9, p = 0.001

MBLを治療薬として使用する場合の参考になりそうです。

新型コロナウイルス(COVID-19)における自然リンパ球(ILC: Innate Lymphoid Cell)の重要さについて

新型コロナウイルス(COVID-19)では、リンパ球減少症が発生します。しかし、そのリンパ球のサブセットについて詳細に病態との相関関係を調べると面白い事実が浮かび上がってきます。
University of Massachusetts Medical Schoolらのグループは、自然リンパ球に着目し、COVID-19の重症度との興味深い相関関係を報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7814851/

自然リンパ球とは、抗原受容体を持たないリンパ球を指し、獲得免疫が立ち上がるまでの期間の免疫において、主要な生体防御機構となります。細胞障害性を持つNK細胞も自然リンパ球に分類されます。即ち、自然リンパ球は、サイトカイン産生を主体とするものと、細胞障害性を持つものに二分されると言えます。本論文においては、自然リンパ球(ILC: Innate Lymphoid Cell)は、NK細胞を除外した細胞集団として定義されています。

COVID-19の患者においては、健常者に比べて、ILCが1.78倍 (95%CI: 2.34–1.36) 、CD16+ NK細胞が2.31倍(95%CI: 3.1–1.71)減少しています。
興味深いことに、入院率と相関しているのは、CD16+ NK細胞でも、CD4+ T細胞でも、CD8+ T細胞でもなく、ILCであることが示され、ILCの二桁増加で入院率のodds比は、0.413 (95%CI: 0.197–0.724)となりました。また、ILCが増えるにしたがって、入院率のodds比が減少し、入院期間も短くなり、炎症性マーカーであるCRPが減少することが示されました。

本知見は、新規治療法に結び付きそうな予感がします。

膵管腺癌の糖鎖マーカーについて

Medical University of South Carolinaらのグループは、膵管腺癌の糖鎖マーカーについての研究成果を報告しています。
https://www.mcponline.org/article/S1535-9476(20)35126-4/fulltext

膵管腺癌の糖鎖マーカーを詳細に検討する為に、MS(MALDI-FTICR, MALDI-QTOF), 抗体免疫染色(CA19-9, TRA-1-60), レクチン染色(PHA-E, GSL-II)を駆使しています。

結果を要約すると、膵管腺癌では、正常組織と比較して、α2-3 Sia, poly-LacNAc, branching, bisecting GlcNAc, core fucose, terminal GalNAcの構造が増加しているとのことです。Siaについては、間質ではα2-3Siaがメインであり、腺癌部ではα2-6Siaが若干多めです。

IgA腎症に扁桃腺由来のmicroRNA(miR-630)が関与している可能性を示す

IgA腎症は、尿のろ過装置である糸球体に免疫グロブリンの一つであるIgAが沈着する慢性腎臓病の代表的な難病疾患です。沈着するIgAにはそのO型糖鎖修飾に異常が発生していることも知られています。
Central South University, Changsha, Chinaらのグループは、IgA腎症で見られる糖鎖異常のIgAが扁桃腺単核細胞由来のmicroRNA(miR-630)によって制御されている可能性を示しています。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fimmu.2020.563699/full

IgA腎症発症のメカニズムについては、扁桃腺由来のmiR-630が過剰に産生され、Toll様受容体4 (TLR4)が遺伝子ターゲットとなることで、NF-κBのシグナルパスを通してIgA産生と糖鎖修飾の異常を及ぼすのではないかと推論しています。

ESCからエピブラスト様細胞(EpiLCs)への変化に伴う糖鎖修飾の変化とその背景にある制御因子

創価大学らのグループは、ESCからエピブラスト様細胞(EpiLCs)への変化に伴う糖鎖修飾の変化と、その背景にあるPolycomb群タンパク質について報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-020-79666-4

ESCからEpiLCsへの変化に伴い、次のような糖鎖修飾の変化が起こります。

  1. N型糖鎖に関しては、両者に共通してHigh Mannose構造がメインであるが、EpiLCsでは、Fucose修飾、bisecting、Sia修飾が増加、Siaについては、α2-6がメインとなり、typeI LacNAc (Galβ1-3GlcNAc)にα1-2Fucが修飾されたSSEA-5が高発現する。
  2. O型糖鎖に関しては、両者に共通してTn抗原とO-GlcNAcがメインであるが、EpiLCsでは、総体的にO型糖鎖の発現が昂進しており、長鎖のムチン型O型糖鎖も増加する。
  3. Glycosaminoglycans (GAG)については、EpiLCsで総体的にGAGが昂進し、特にHeparan sulfate (HS), chondroitin sulfate (CS) and dermatan sulfate (DS)が増加する。
  4. 糖脂質については、EpiLCsでglobo (Gb)からganglio (Gg)への構造変化が起こる。

これらの糖鎖修飾構造の背景には、クロマチンタンパク質であるPolycomb群タンパク質2(PRC2)が制御因子として関係していることが示されました。ESCの糖鎖修飾にかかわる多様な糖転移酵素の遺伝子群がPRC2の制御下にあります。

重度のグリオーマ(神経膠腫)における特徴的な糖鎖修飾の変化

Quilmes National University, Bernal, Buenos Aires Province, Argentina らのグループは、グリオーマ(神経膠腫)における特徴的な糖鎖マーカーについて報告しています。
https://www.oncotarget.com/article/27850/text/

重度のグリオーマにおいては、N型糖鎖の末端シアル酸修飾の昂進と多分岐N型糖鎖の昂進が特徴です。シアル酸修飾は、α2-3が主となり、末端のフコース修飾を伴う形で、末端修飾構造はSLex型になっています。これを裏付けるように、糖転移酵素(α1,3-fucosyltransferases (FuT3-7 and 9-11) , α2,3-sialyltransferases (ST3Gal3/4/6))も高発現しています。下図で、LN299, T98Gが重度のグリオーマであり、その他は軽度のそれです。

腫瘍細胞表面の糖鎖プロファイルの変化は、新規糖鎖マーカーや糖鎖をターゲットとした治療薬開発の基礎となる、と締めくくっています。

 

 

 

 

 

 

 

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染において、ヘパラン硫酸はウイルスの捕獲に関与、ACE2のシアル酸修飾はウイルスの結合を弱める

The University of Hong Kongらのグループは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染におけるヘパラン硫酸とACE2の糖鎖修飾の影響について研究しています。
https://www.nature.com/articles/s41467-020-20457-w

SARS-CoV-2の感染実験に、Calu3 (肺上皮細胞) and Caco2 (小腸上皮細胞) を使用しています。ヘパラン硫酸の影響を調べるにはHeparinaseを使用し、ACE2の糖鎖については、特にシアル酸に着目し、Neuraminidase (NA) を使用しています。

下図のように、Heparinazseのアプライで、ウイルス感染が抑制されており、ACE2の共受容体としてウイルスの捕獲にヘパラン硫酸が関係していることが示されています。ACE2のシアル酸修飾については、Sialidaseでシアル酸を切断することにより、ウイルスの感染がむしろ強くなっていることが示されています。

新型コロナウイルス(COVID-19)の病態を最も正しく反映する指標は、唾液中のウイルス量である

Yale University School of Medicineらのグループは、新型コロナウイルス(COVID-19)の病態を最も正しく反映するのは、唾液中のウイルス量である、という報告をしています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7805468/

COVID-19のマーカーとしては、炎症性サイトカインやケモカイン (CXCL10, IL-6, IL-10), インフラマソーム (IL-18, IL-1β), インターフェロン (IFNα, IFNγ, IFNλ)らがある訳ですが、唾液中のウイルス量が病態と非常に良く相関することが示されました。比較として鼻咽頭のウイルス量のそれも評価されています。ウイルス量は、唾液からRNAを抽出し、RT-PCRのCt値から、RNA copies/mLを計算しています。非入院者、中等症、重症、致死の判別精度については、中等症(AUC=0.96)、重症(AUC=0.89)、致死(AUC=0.91)という高い精度が得られています。

下図の上段は、唾液のウイルス量と病態との相関を、下段は、鼻咽頭のウイルス量と病態とのそれを示しています。

日本における無症状から軽症の新型コロナウイルス(COVID-19)患者の抗体反応の特異性

慶応大医学部のグループは、日本におけるPCR検査では陽性となっている無症状から軽症の新型コロナウイルス(COVID-19)患者の抗体反応についてのコホート研究を報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7787511/

多くの海外におけるコホート研究は、COVID-19の症状がより明らかな患者から重症患者を対象にしていますが、感染後3週間で80%から100%の患者で抗体反応が出ています。そしてまた、これら抗体の産生量は、年齢、重症度、リンパ球減少症、血中CRPのレベルらと相関していることも数多くの研究で示されています。

本コホート研究は、既知のコホート研究より軽症や無症状患者を対象にしていますが、無症状患者では87.5%、軽症患者でも23.5%が抗体反応を示さなかったということです。

メチレンブルーで、新型コロナウイルス(COVID-19)の過剰なサイトカインと炎症メディエーターを全てブロック

Fondazione IRCCS Istituto Neurologico Carlo Besta, Via Padova, Milan, Italyらのグループは、新型コロナウイルス(COVID-19)におけるサイトカイン阻害剤らの抗ウイルス薬の有効性が低いのは、(1)おそらくウイルスが炎症反応を引き起こしており、もはや主役ではなくなった抗ウイルス薬投与の遅れに、(2)抗サイトカイン薬の比較的低い効能は、数十のサイトカインの内の1つまたは数個にしか作用しないということ、(3)加えて、他の炎症メディエーター(活性酸素種と窒素種)が標的にされていないからだ、と説明しています。

炎症メディエーターが過剰に生成されると、反応種は広範な細胞および組織の損傷を引き起こします。活性種とサイトカインの過剰産生を阻害することが知られている唯一の薬剤は、マラリア、尿路感染症、敗血症性ショック、およびメトヘモグロビン血症の治療に効果的に使用される消毒特性を備えた低コストの染料であるメチレンブルーです。COVID-19の急性呼吸窮迫症候群と対比するためにメチレンブルーをテストしましょう、と提案しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7728423/