多価のナノ・レクチンを用いてSARS-CoV-2を中和する

School of Chemistry and Astbury Centre for Structural Molecular Biology, University of Leeds, United Kingdomらのグループは、多価のナノ・レクチンを用いてSARS-CoV-2を中和する方法について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10302749/

SARS-CoV-2のスパイクタンパク質三量体は、各単量体サブユニット上に22個のN-型糖鎖の修飾部位があり、オリゴマンノース、ハイブリッド、複合型糖鎖らの構造が存在することが知られています。スパイクタンパク質エピトープの変異により、SARS-CoV-2変異体はワクチン接種等によって誘起される免疫反応を回避してしまいます。対照的に、SARS-CoV-2変異体における糖鎖修飾部位の変異は非常にまれであるため、糖鎖は抗ウイルス薬開発の強力な標的となる可能性があります。従って、レクチンがSARS-CoV-2変異株に対して潜在的に強力な抗ウイルス活性を示す可能性があると考えられます。

DC-SIGNの糖鎖認識部位(CRD)は、一価の低いアフィニティー(Kd-値: 0.1 ~ 3 mM)で、SARS-CoV-2を含むウイルス表面にあるマンノースおよびフコース含有糖鎖に特異的に結合することが知られています。レクチンである DC-SIGNのアフィニティーを高めるために、DC-SIGN CRDを金ナノ粒子(GNP)に多数結合させました。 13 nmサイズの金ナノ粒子(G13)を、H[AuCl4] のクエン酸還元によって合成し、まず初めに部分的にG13のPEG化を行いました。次に、これらのG13をリンカー標識されたDC-SIGN CRDとインキュベートし、多価のナノ・レクチンを得ました。

その結果、G13-DC-SIGN CRDは、初めての多価ナノ・レクチンとして、SARS-CoV-2変異体に対して幅広い活性を有することが示されました。

MannoseおよびMannanでコーティングされたフコイダン/キトサンのナノ粒子を用いてマクロファージを活性させる

LAQV, REQUIMTE, Departamento de Ciências Químicas, Faculdade de Farmácia, Universidade do Porto, Rua de Jorge Viterbo Ferreira, Porto, Portugalらのグループは、MannoseおよびMannanでコーティングされたフコイダン/キトサンのナノ粒子を用いてマクロファージを活性させる方法について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10298651/

マクロファージを活性化するために、マクロファージ表面に存在するマンノース受容体を、mannose (M) とmannan (Mn) を修飾した薬物を含まないフコイダン/キトサン (F/C) ナノ粒子によって刺激しました。ここで使用されている高分子電解質複合体ナノ粒子は、カチオン性キトサンとアニオン性フコイダンとの間のクーロン相互作用を通じて静電的に凝集させたものです。

マクロファージ上のCD11b発現は、LPSの曝露と同様に、mannanおよびmannoseでコーティングされた F/Cナノ粒子の存在下で強く昂進しており、それは、コントロール(NS)およびコーティングされていないF/C ナノ粒子の場合と比較して統計的に有意なものです。 従って、このような糖鎖でコーティングされたナノ粒子は、LPS 刺激で観察されたように、マクロファージの活性化を誘発することが確認されました。

このようにして、薬物を含まないポリマーナノ粒子の機能化を介してマクロファージ受容体を標的にすることは、免疫系を調節するための有望なアプローチであることが示されています。

統計的機械学習の一種であるボルツマンマシンを用いて糖鎖構造を推定する

Department of Physics, University of California, San Diegoらのグループは、ボルツマンマシンモデルを用いてレクチンパネルの情報から糖鎖構造を推定する方法について述べています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10274649/

本研究では、レクチンの糖鎖結合パターンから対象とする糖鎖構造を予測できるかどうかが議論されています。各レクチンには、それが特異的に結合する小さな糖鎖構造モチーフのセットがあります。レクチンには論理的に定式化される複雑な結合ルールがあるとは予想されていないため、浅いニューラル ネットワーク トポロジーが適切であると考えました。この相互作用を議論するための合理的な最小モデルは、2層ネットワークとして概念化できる完全に可視化されたボルツマンマシンであると考えられました。

正直言って精度は高くないです。それって糖鎖がとてもヘテロな集団だからということもありますし、レクチンの特異性が曖昧だからというのもありましょう。
この手のレクチンを使った糖鎖構造推定には、否定的な人が多く、MS/MS信奉者が非常に多いです。
しかし、この論文のディスカッションの文脈の中で、彼らが述べていることは、自分の考えと同じです。
「レクチンを用いた情報は生物学的な文脈においては十分正確である!」

早産児を壊死性腸炎から守るには母乳がとても効果的

USDA Children’s Nutrition Research Center, Department of Pediatrics, Baylor College of Medicine, Houston, TX 77030, USAらのグループは、プレバイオティクスとプロバイオティクスだけでは、粉ミルクだけをベースにした食事で壊死性腸炎から早産児を守るのに十分ではないと報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10255242/

壊死性腸炎は、早産児の胃腸疾患による主な死因であり、死亡率は15~40%に達します。本研究では、腸内細菌として、(1)Escherichia-Shigellaは、健康な子豚に有意に多く存在し、疾患の重症度と負の相関があり、(2)Clostridium sensu stricto 1 and Enterococcusは、病気の子豚の結腸に有意に多く存在し、疾患の重症度と相関していることが示されています(下図参照)。

食事性プロバイオティクスであるBifidobacterium longum 亜種およびミルクオリゴ糖であるシアリルラクトース(3’SL)の補給だけでは改善効果は認められませんでしたが、母乳は壊死性腸炎の発生率を有意に減少させることが示されています。

一型糖尿病の合併症における補体C3の特異的な糖鎖修飾変化について

Faculty of Pharmacy and Biochemistry, University of Zagreb, Zagreb, Croatiaらのグループは、一型糖尿病の合併症における補体C3の特異的な糖鎖修飾変化(c3.Asn939-N2H10)について報告しています。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fendo.2023.1101154/full

補体成分C3のN-型糖鎖修飾について、様々な合併症重症度を持つ189人の一型糖尿病被験者のプロファイリングを実施しました。分析は、Con A レクチンによるハイ・マンノース糖タンパク質のエンリッチメント、Glu-C 消化、糖ペプチド精製を行い、nano LC-ESI-MSを用いて行われました。

結果として、アルブミン尿と網膜症では ひとつの糖鎖構造(C3.Asn939-N2H10:下図参照)のみが有意に変化し、C3.Asn939-N2H10とHbA1cの間には強い相関関係があることも分かりました。

非小細胞肺癌の血清バイオマーカーについて:コンドロイチン硫酸プロテオグリカン

Department of Laboratory Medicine, Shanghai Tongji Hospital, School of Medicine, Tongji University, Shanghai, Chinaらのグループは、非小細胞肺癌の血清バイオマーカーについて報告しています。
https://respiratory-research.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12931-023-02423-4

非小細胞肺癌患者においては、血清バーシカンおよび血清エクソソームバーシカンが有意に増加しており、T1 + T2 患者と比較して T3 + T4 患者で有意に昂進していました (P < 0.05)(ROCカーブ参照)。バーシカンとは、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンです。血清バーシカンおよび血清エクソソームバーシカンは、ELISAキット(中国製)を用いて検出されました。

トマトの根から分泌されるヘキサデカン酸が善玉菌であるシュードモナス菌のバイオフィルム形成を最も強く促進する

School of Biotechnology and Pharmaceutical Engineering, Nanjing Tech University, Nanjing, Chinaらのグループは、トマトの根から分泌されるヘキサデカン酸が善玉菌であるシュードモナス菌のバイオフィルム形成を最も強く促進すると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10220591/

植物成長促進細菌は、その安全性、病気や害虫の生物学的制御、および耐環境性を誘導する能力により、農業用途で広く使用されつつあります。 それら善玉菌の根圏定着、走化性、バイオフィルム形成は、根からの分泌物と特定の代謝産物によって誘導されることが知られています。

本研究では、特定の濃度のシュードモナス・スタッツェリ NRCB010 を接種すると、トマトの成長が大幅に促進され、トマトの根からの分泌物に大きな変化が誘発されることが示されました。これらの分泌物の中で、n-ヘキサデカン酸が、シュードモナス・スタッツェリの成長、走化性反応、バイオフィルム形成、そして根圏定着を最も強く誘導することが分かりました。

トリコデルマ菌をトウモロコシとスイカの種にコーティングした結果

Jiangsu Collaborative Innovation Center for Solid Organic Wastes, Educational Ministry Engineering Center of Resource-Saving Fertilizers, Nanjing Agricultural University, Nanjing, Chinaのグループは、トリコデルマ菌をトウモロコシとスイカの種にコーティングした結果について報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37195176/

本研究では、真菌トリコデルマ guizhouense NJAU4742 を種子コーティングによってトウモロコシとスイカの種子細菌叢に接種させ、スイカとトウモロコシの種子コーティングが、植物の成長と根圏土壌の酵素活性を大幅に改善することを示しています。
種子コーティングされた種子の発芽率は、コントロールと比較して、トウモロコシでは植え付け後3日後で25%、スイカでは植え付け後8日後で35%それぞれ有意に増加していました。
トウモロコシへのトリコデルマ種子コーティングの影響

コントロールと比較して、種子コーティングされたトウモロコシでは、ウレアーゼ、スクラーゼ、酸性ホスファターゼ、アルカリ性ホスファターゼ、α-グルコシダーゼ、ペルオキシダーゼ、セルラーゼらの酵素活性が、それぞれ97.9%、51.7%、61.2%、82.3%、27.0%増加しました。種子コーティングされたトウモロコシでは、スクラーゼ、酸性ホスファターゼ、中性ホスファターゼ、α-グルコシダーゼ、ペルオキシダーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、およびセルラーゼの酵素活性が、それぞれ51.7%、25.7%、21.1%、62.6%、39.1%、34.3%増加しました。
種子コーティングしたトウモロコシの茎腐れ病の発生率は、コントロールと比較して28%減少し、種子コーティングを施したスイカの場合には、発生率は病原菌散布後60日で37%減少しました。

18F-labeled rBC2LCN レクチン複合体を膵臓癌のPETプローブとして使用する

Department of Gastrointestinal and Hepato- Biliary- Pancreatic Surgery, Faculty of Medicine, University of Tsukuba, Tsukuba, Japanらのグループは、18F-labeled rBC2LCN レクチン複合体を用いた膵臓癌のPETイメージングについて報告しています。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/cas.15846

本研究では、rBC2LCN-F-18 (18F) レクチン複合体の新しい陽電子放出断層撮影 (PET) 用プローブとしての応用の可能性について検討されました。 H-type-3型糖鎖陽性のヒト膵臓癌細胞株であるCapan-1を選択し、Capan-1細胞(2×106)をヌードマウスの右背部に皮下注射しました。rBC2LCN レクチンは H-type-3型糖鎖に対して結合特異性を有することが知られています。重要なのは、rBC2LCN は血球凝集(外因性レクチンが血液中に導入されると誘発される)を誘発しないため、無害に静脈内投与できるということです。

その結果、18F 標識 rBC2LCN レクチンは、細胞表面糖鎖を標的とする新しいクラスの PET 用腫瘍特異的プローブとなり得ることが実証されています。ただし、Mxブログ管理人は、このプローブは癌細胞に確かに特異的ではありますが、以下に示すように他の正常組織にも結合することが問題のようにも思いますが、どうなのでしょう?

WGAレクチンの修飾を受けた抗生物質を内包するヒト血清アルブミン・ナノ粒子で尿路感染症を治療する

University of Vienna, Faculty of Life Sciences, Division of Pharmaceutical Technology and Biopharmaceutics, Vienna, Austriaらのグループは、WGAレクチンの修飾を受けた抗生物質を内包するヒト血清アルブミン・ナノ粒子(NP)を尿路感染症の治療に使用しました。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1549963423000369?via%3Dihub

NPがどのように作られたのかを知るのはとても興味深いです。 NPの生成のために、20 mgのHSAを10 mlの100 mMリン酸緩衝液(pH 8)に溶解しました。その後、1 mlのオリーブ油をタンパク質溶液上に流し込み、超音波発生器のプローブマイクロチップを、2つの相の界面に挿入しました。緒音波パワー= 約253 W/cm2、振幅40 % でサンプルを2分間超音波処理しました。続いて、NPを遠心分離(5204×g、40分、4℃)で4回洗浄して分離しています。抗生物質内包のNPの製造では、2.5 mg、5 mg、10 mg、または 20 mg のリファンピシンを 1 ml のイソプロピルアルコールに溶解し、オリーブ油と混合し、上記のように処理しました。トリメトプリム担持粒子の調製では、2.5 mg、5 mg、10 mg、または 20 mg のそれを 10 ml の 100 mM リン酸緩衝液 (pH 8) に溶解しています。

ヒト尿路上皮細胞と本NPをインキュベートすると、青色に染色された核の周囲と赤色に染色された膜内にNP(緑色の色素で染色)が局在していることが観察されました。これは、細胞へNPがうまく取り込まれていることを示しています。 WGA修飾のあり・なしの場合を比較すると、WGA修飾ありでは細胞結合能が60%増加していました。