妊娠している女性の重症化率はかなり高くなる:新型コロナウイルス(COVID-19)

新型コロナウイルスにおいて、COVID-19の重症化リスクは、本来女性は男性よりも低いのですが、妊娠している女性は重症化率がかなり高くなることが報告されています。
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/69/wr/mm6944e3.htm?s_cid=mm6944e3_w

15歳から24歳の妊娠している女性は、侵襲的人工呼吸を受けなければならないリスクが3倍増加(95%CI: 1.6 – 5.7)、
35歳から44歳の妊娠している女性では、3.6倍に増加(95%CI: 2.4 – 5.4)する
とのことです。

新型コロナウイルス(COVID-19)の重症化と各種免疫細胞の動き(CD4+ Tcell, CD8+ Tcell, NK Cellなど)

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染し、COVID-19の重症化が進むと、各種免疫細胞において、次のような変化が見られます。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7591707/

健常者に比べて、
白血球と好中球が大幅に増加、
逆にリンパ球、好酸球、T細胞、NK細胞が減少します。

更に、T細胞やNK細胞のサブセットにも興味深い変化が現れ、
CD4+/CD8+比が大幅に増加し、
PD-1 NK細胞、CD244 NK細胞、PD-1 CD4+ T細胞、PD-1 CD8+ T細胞、CD244 CD8+ T細胞が増加、
逆にCD27 NK細胞、CD27 CD8+ T細胞が減少します。

このように、免疫細胞とそのサブセットの変化は、COVID-19の重症化のメカニズムにも関係していると思われますし、臨床的にも重症化のスクリーニングに役立つと考えられます。

N1H1インフルエンザウイルスにおける重症化と年齢の関係性の背後にHigh mannose糖鎖修飾の変化がある:フェレット・モデル

2009年のN1H1インフルエンザの大流行において、新型コロナウイルスと同様に、若年者は軽症であり、年齢が上がるに従って重症化するという傾向が見えていました。

下記のグループは、フェレットをモデルとして、N1H1インフルエンザの重症化と年齢の関係性に糖鎖修飾の変化が関わっているのではないか?という視点でレクチンマイクロアレイを用いた実験結果を報告しています。比較糖鎖プロファイリング解析のサンプルにはフェレットの肺を使用しています。
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jproteome.0c00455

結果として、
年老いたフェレットでは、重症化とともにHigh mannoseが高発現しています。
離乳したばかりの若いフェレットでは、感染して3日から5日ではHigh mannoseの発現が上昇するものの、それ以降は健常時と同レベルにまで糖鎖修飾が回復し、軽症で済んでいます。
重症化に糖鎖修飾が深く関係していることを伺わせます。

Tn-抗原(α-GalNAc)の高発現が癌の増殖を促進する

癌が進行すると、O-型糖鎖が刈り込まれてTn-抗原(α-GalNAc)が高発現するという変化が良く見られます。このTn-抗原の高発現と癌細胞の増殖や転移との関係については、まだ十分な研究がおこなわれているとは言えません。下記のグループは、マウスの直腸がん(MC38細胞)のモデルを使用し、CRISPR/Cas-9を用いて、Tn-抗原のT-抗原への伸長に関与する糖転移酵素(C1galt1c1)をノックアウトした細胞株MC38-Tn(high)を作ることで、Tn-抗原の昂進が如何なる遺伝子発現の変化を引き起こしているかについて検討しています。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fonc.2020.01622/full

結果として、1,348遺伝子に発現量の変化が起こり(log2 fold change)、641遺伝子がdown、707遺伝子がupしていました。包括的には、抗原提示に関係するシグナルパスやT-細胞活性化に関するシグナルパスが抑制されており、癌細胞の増殖や転移を促す方向に変化しているようです。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のRT-PCRを使った検査には、感染の兆候が出てからの時期とサンプル取得の方法がクリティカルだ

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検査には、RT-PCRがGold Standardになっています。

しかし、RT-PCRの結果については、気を付ける必要があります。感染の兆候が表れてから、4日目位までは鼻咽頭からのRT-PCR検査の信頼性は高いのですが、10日を過ぎてしまうと検出能力が落ちてしまい、偽陰性になる非常に確率が高くなります。
それに対して、糞便からの検査は、感染初期には信頼性は高くはないのですが、感染して日数が経ってもウイルスを検出することが可能であり、最終的にウイルスが排除されたかどうかまで判断するには、鼻咽頭からのサンプル取得よりも糞便を使う方が良いという結果になっています。
https://bmcmedicine.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12916-020-01810-8

 

 

 

 

この図において、ダークブルーとダークグレーは、感染後2週間前、2週間後のウイルス検出をそれぞれ示し、ライトブルーとライトグレーは偽陰性を示します。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とHCoVsの交差抗体の存在について

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)と風邪の一因となるコロナウイルス(HCoVs)間の交差抗体について調査した結果が下記のグループから報告されています。
https://science.sciencemag.org/content/early/2020/11/05/science.abe1107

新型コロナウイルスに感染していない人でも、HCoVsの抗体が交差反応を示すことによって、SARS-CoV-2の感染を抑制する効果があるとのことです。
この交差抗体は、SARS-CoV-2のRBDをエピトープとするものではなく、アミノ酸配列に共通配列が多い、S2領域をエピトープとするもののようです。

 

 

 

 

また、この交差抗体を持つ人は若年層に多く、若年層がCOVID-19で重症化しにくいという現象にもHCoVsの抗体が交差反応を通して関わっている可能性があります。

TNF-αとIFN-γの協同効果が、新型コロナウイルス(COVID-19)の重症化の核心にあるようだ

新型コロナウイルスでCOVID-19を発症し重症化した場合には、IL-6, IL-18, IFN-γ, IL-15, TNF-α, IL-1α, IL-1β, IL-2といったサイトカインが高発現し、いわゆるサイトカインストーム状態に陥ります。COVID-19の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)が、このサイトカインストームと直接的に相関していることは広く知られています。

このような多様なサイトカインの発現において、特にTNF-α, IFN-γの協同効果が重症化の原因になっているらしいということが下記のグループから指摘されています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7605562/

TNF-α, IFN-γの協同効果が、COVID-19の症状を模倣するということのマウスを用いたin vivo検証例が下記です。

 

 

 

 

また、SARS-CoV-2を感染させたhACE2トランスジェニックマウスにTNF-α, IFN-γの中和抗体をアプライすることで、生存率が大きくアップすることもin vivoで検証されています。

 

 

 

 

即ち、TNF-α, IFN-γを含めその下流にあるシグナルパスに対する的を突いた阻害剤がCOVID-19の重症化治療につながりそうです。

糖尿病は、新型コロナウイルス(COVID-19)の重症化や死亡率を押し上げる

韓国の臨床研究から、糖尿病が新型コロナウイルス(COVID-19)に与える影響について統計解析した結果が報告されています。
https://e-dmj.org/journal/view.php?doi=10.4093/dmj.2020.0141

年齢、性別、高血圧、脂質異常症、慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患、循環器疾患、心房細動、末期腎臓病、癌らの影響を加味して計算された糖尿病がCOVID-19に与えるOR(オッズ比: 95% CI)は、次のようでした。

入院: 1.071 (0.722 – 1.588)
酸素吸入: 1.349 (1.099 – 1.656)
人口呼吸器: 1.930 (1.276 – 2.915)
死: 2.659 (1.896 – 3.729)

新型コロナウイルス(COVID-19)において、ヒドロキシクロロキンのウイルス増殖阻害効果は認められなかった

新型コロナウイルス(covid-19)の治療薬の候補の一つにヒドロキシクロロキンがあります。この物質は、RNAポリメラーゼを阻害することでウイルスの増殖を阻止するとされています。
作用機序については、細胞壁にゲートを開き、亜鉛イオンが細胞内に入り込めるようにすることで、その亜鉛がRNAポリメラーゼの働きを阻害するというものです。

新型コロナウイルスに対して、このヒドロキシクロロキンの効果を投与群と非投与群を比較した結果が報告されています。評価の指標としては、新型コロナウイルスの量をRT-PCRにおけるPCR反応閾値に達するサイクル数(Ct)を用いています。
誠に残念ながら、有効性を示すデータは得られなかったということです。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7592126/

過日、同じように作用機序は違いますがウイルスの増殖を阻害するレミデシビルについて、効果が認められないという発表をWHOが行っています。
益々持って、新型コロナウイルスの治療薬には先が見えません。

新型コロナウイルスの感染受容体であるACE2は、上気道の上皮細胞に存在する繊毛細胞にかなり局在的に存在している

新型コロナウイルスにおいて、主要な感染受容体は、ACE2であることは良く知られています。そのACE2の発現状態について、詳細に調査した結果が報告されています。
https://www.nature.com/articles/s41467-020-19145-6

ACE2は、遺伝子発現解析にて、鼻咽頭、肺、小腸、腎臓、精巣に発現が認められるとされていますが、ACE2抗体を用いた免疫染色では、肺におけるACE2の発現は、その他器官よりも相対的に少ないようです。また、ACE2は、上気道の上皮細胞に存在する繊毛細胞にかなり局在的に存在して発現しているようです。

一方、ACE2の発現量は、年齢、性別、喫煙とはほとんど相関がないことも分かりました。SARS-CoV-2の感染で心配される高血圧治療に用いられるAngiotensin-converting enzyme inhibitors (ACEI)、angiotensin II receptor blockers (ARBs)らの薬剤投与もACE2の発現量には影響を及ぼさないことが分かりました。

従って、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染防止や重症化については、以下が指摘されます。
(1)口腔鼻腔へのSARS-CoV-2阻害剤が感染防止予防に有効
(2)ACE2の発現量自体はCOVID-19の重症化とは無関係