世界の医薬品全体のマーケットサイズは2024年に約262兆円に達したとのことです。その中でもバイオ医薬品の成長は顕著であり、同年にはそのマーケットサイズは38兆円に達し、今後も10%を超える成長率が見込まれています。更に、世界売上高の上位100位の医薬品に絞ると、バイオ医薬品の占める割合は2019年には5割以上を占めるまでになっています

これらの状況を見越したように、2011年には、FDAに治療用タンパク質のQCに関する特別チームがDr. Baolin Zhangをリーダーとして発足しました。このプロジェクトの主眼は、抗体医薬品の糖鎖修飾に焦点を当て、特にバイオシミラー製品の評価に関連して、その製品の安全性と生物活性に対する影響を的確に評価することであり、最終的な目標は、世界中に存在する分析ツールを評価し、抗体医薬品の品質をより適切に評価するために使用できると考えられる分析ツールを特定、または開発することにありました。エムックの前身であるグライコテクニカは、2013年にレクチンマイクロアレイ(LecChip)を用いた糖鎖プロファイリング技術のプラットフォームであるGlycoStationをFDAに納入し、それ以来10年以上に渡って、レクチンアレイを用いた抗体医薬品の評価をFDAと共同開発してきました。

2016年には、GSR1200とLecChip Ver1.0を用いた抗体医薬品の評価結果が、FDAより2本の論文として公開されました。
Glycan analysis of therapeutic glycoproteins
The use of lectin microarray for assessing glycosylation of therapeutic proteins
これらの論文において、FDAはレクチンマイクロアレイを用いた抗体医薬品の評価に対して、その優位性を以下のように説明しています。

「レクチンマイクロアレイは、酵素消化を用いてのタンパク質骨格からの糖鎖の切り取りを必要とせず、タンパク質が持つ糖鎖プロファイルをそのまま直接的に測定することが可能です。このような糖鎖解析に対するプラットフォーム技術は、糖タンパク質が持つ糖鎖バリアントを完全にカバーする可能性を高めるという点で独特です。市販のレクチンマイクロアレイ(LecChip Ver1.0)を用いることで、一連の治療用タンパク質の糖鎖プロファイルを決定することができました。特に、レクチンマイクロアレイは末端糖鎖エピトープ構造の変化、すなわちガラクトシル化とシアリル化に非常に敏感であり、レクチンマイクロアレイは、異なるシアル酸結合を含む糖鎖異性体を効果的に区別することができました。我々のデータは、タンパク質サンプルの糖鎖修飾パターンのスクリーニングにおけるレクチンマイクロアレイの有用性を実証しています。」

このようにして、FDAは、レクチンマイクロアレイを用いたバイオ医薬品の糖鎖解析における大きなポテンシャルを示しつつ、最終的なあるべき姿について次のように課題設定を行いました。
「本研究で使用した市販のレクチンマイクロアレイは、治療用抗体医薬品の評価専用に設計されたものではない。原理的には、異なる糖鎖構造に対する選択性と結合親和性を高めたレクチンを使用することで、評価性能をさらに向上させることができる。特定の糖タンパク質を分析するために、レクチンマイクロアレイは、試験サンプル中に存在する可能性のある糖鎖構造に関連するレクチンを含むようにカスタマイズすることもできる。このようにしてレクチンマイクロアレイを最適化すれば、この糖鎖解析プラットフォーム(GlycoStation)は、バイオ医薬品の糖鎖プロファイルのハイスループットスクリーニングのための有用なツールとして採用できる可能性がある。」

この結論を踏まえて、FDAは、グライコテクニカが当時使用していた天然型レクチンおよびリコンビナントレクチン、その総数83種類、を用いて治療用抗体医薬品評価用のカスタムレクチンマイクロアレイの開発を進めました。その結果は、2024年に以下の2論文として公開されました。
Benchmark Glycan Profile of Therapeutic Monoclonal Antibodies Produced by Mammalian Cell Expression Systems
A tailored lectin microarray for rapid glycan profiling of therapeutic monoclonal antibodies

この研究開発で使用されたレクチンは、ちなみに下記であります。
LecChip Ver1.0
LecChip Ver2.0

FDAは、抗体医薬品として認可した157種類の抗体医薬品の糖鎖修飾構造を網羅的に解析し、一般的に存在する9つの糖鎖エピトープを発見・同定しました。9つの糖鎖エピトープとは、core fucose, terminal N-acetylglucosamine, terminal β-galactose, high mannose, terminal α2,3-linked N-acetylneuraminic acid, terminal α2,6-linked N-glycolylneuraminic acid, bisecting N-acetylglucosamine, terminal α-galactose, triantennary 構造であります。FDAは、これらのN-型糖鎖のエピトープに選択的に結合する9つの異なるレクチンを厳選し、抗体医薬品評価用としてカスタム設計されたレクチンアレイ(IgG1-mAb-LecChip)をグライコテクニカと共同開発しました。その9つのレクチンとは、 rPhoSL, rOTH3, RCA120, rMan2, MAL_I, rPSL1a, PHAE, rMOA, PHALであります。このレクチンアレイは、抗体医薬品サンプルから糖鎖を切り出すことなくそのまま利用することが出来、迅速な糖鎖プロファイリングのためのハイスループットプラットフォームを提供し、高精度な糖鎖修飾パターンの比較分析を可能にします。
「FDAは、このレクチンアレイが、様々な製造バッチ間、あるいはバイオシミラーと先発医薬品間の糖鎖修飾の違いを評価する上で極めて実用的であると結論しました。」なお、このIgG1-mAb-LecChipには、14個のウエルが存在し、それぞれのウェル内に9つのレクチンが3重にスポッティングされています。14種類のサンプルを同時に比較糖鎖プロファイリング解析することが可能です。


FDAのホームページより引用