Vitamin Cと新型コロナウイルス(COVID-19)

University of Helsinkiらのグループは、Vitamin Cと新型コロナウイルス(COVID-19)の関係について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7848027/

健常者ですと、血中のVitamin C濃度を維持するには、0.1g/day程度のVitamin C摂取量で事足ります。しかし、COVID-19に感染して重症化すると、血中のVitamin C濃度が激減し、Vitamin C欠乏症と同程度、更には、ほとんど検出されないレベルにまで下がってしまう場合もあります。

大量のVitamin C(6~8g/day)を摂取することで、以下のような効果が得られるということです。
ICU治療期間を平均8%短縮
致死率を35%から78%に低減

Vitamin Cには副作用がないので、これも一つの治療法として有効であると考えられます。

気管支肺胞洗浄液を用いた肺癌の新しいバイオマーカーについて

The First Affiliated Hospital of Xi’an Jiaotong University, Xi’an, Chinaらは、肺腺癌、肺扁平上皮癌、小細胞肺癌らを判別するための新しいマーカーを気管支肺胞洗浄液から報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7840895/

マーカー探索には、レクチンマイクロアレイを使用し、サンプルとしては、気管支肺胞洗浄液を使用しています。adenocarcinomas (ADC) 肺腺癌、squamous carcinomas (SCC) 肺扁平上皮癌、small cell lung cancer (SCLC) 小細胞肺癌らを、benign pulmonary diseases (BPD) 良性肺疾患から判別することを目的としています。更には、early stage lung cancer (LC-ES) 早期癌と、advanced stage lung cancer (LC-AS) 進行癌を区別することも目的としてます。

レクチンマイクロアレイの結果からは、15種類のレクチンで有意差が見受けられ、各種肺癌の違いも見分けるために、数種類のレクチンを組み合わせてロジスティック回帰分析を行っています。

結果として、
肺癌を良性肺疾患から判別するには、ECA, GSL-I, RCA120が使用され、(cutoff value: 0.754, AUC: 0.961, 感度: 0.918, 特異度: 0.939)となり、
ADCを判別するには、DBA, STL, UEA-I, BPLが使用され、(cutoff value: 0.569, AUC: 0.619, 感度: 0.706, 特異度: 0.586)、
SCCを判別するには、PNAが使用され、(cutoff value: 0.578, AUC: 0.693, 感度: 0.800, 特異度: 0.667)、
SCLCを判別するには、STL, BS-I, PTL-II, SBA, PSAが使用され、(cutoff value: 0.728, AUC: 0.718, 感度: 0.721, 特異度: 0.684)、
そしてまた、
早期癌を見分けるには、MAL-II, LTL, GSL-I, RCA120, PTL-II, PWMが使用され、(cutoff value: 0.668, AUC: 0.856, 感度: 0.829, 特異度: 0.810)が得られました。

多様な疾患を判別するには、一変数(一レクチン)に頼るのではなく、多変数(多レクチン)を用いて、各疾患ごとに特徴的なプロファイルを見分けていくことが有利であります。本ブログ管理者の私見ですが、プロファイルの違いを見分けて行くために、従来型の統計解析手法ではなく、AIを投入していくことがトレンドになると考えています。

Rab11 (リサイクリングエンドソーム経由の膜小胞輸送のレギュレーター) がどのようにN型糖鎖修飾に関係しているか?

大阪大学らのグループは、N型糖鎖修飾にRab11(リサイクリングエンドソーム経由の膜小胞輸送のレギュレーター)が深く関わっていることを発見しました。
https://www.jbc.org/article/S0021-9258(21)00126-5/fulltext

糖鎖修飾は、小胞体およびゴルジ体に存在する糖転移酵素によって制御されます。従って、それぞれの糖転移酵素が適当なポジションに存在しないと、正しく糖鎖修飾が行われません。しかし、糖転移酵素の正しい位置への輸送に関するメカニズムについては、分かっていません。

著者らは、膜小胞輸送のレギュレーターのRab11がα2-3Siaの修飾に大きく関わっていることを発見しました。Rab11をノックアウトした細胞では、α2-3Siaの修飾が大幅に昂進しており、この原因は、Rab11がα2-3Sia修飾に対する糖転移酵素ST3GAL4をゴルジ体領域外に輸送していることにありました。結果として、Rab11がα2-3Sia修飾をネガティブに制御していることが分かりました。

下図は、正常な状態でのRab11の役割を示しています。

HDL善玉コレステロールが高いと新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染リスクが大きく低下する

Hospital del Mar Medical Research Institute (IMIM), Barcelona, Spainらのグループは、HDL善玉コレステロールが高いと新型コロナウイルスの感染リスクが大きく低下することを報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7852244/

下図のように、HDLコレステロールが増えるとともに、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染リスクが単調に減少することが分かります。317,306人のデータから統計解析がされています。38.66535をかけることで、mmol/Lをmg/dLに換算することができます。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の英国及び南アフリカ変異株に対するModernaとPfizerのワクチンの有効性について

Columbia University Vagelos College of Physicians and Surgeonsらのグループは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の英国及び南アフリカ変異株に対するModernaとPfizerのワクチンの有効性について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7852271/

英国および南アフリカ変異株には、従来のD614Gに加えて、下記のような変異が入っています。 英国変異株(B.1.1.7 )には8個の変異が(UKΔ8と略記)、南アフリカ変異株(B.1.351)には9個の変異が入っています(SAΔ9と略記)。
ModernaとPfizerのワクチンを接種したボランティアからの血清サンプルを用いて力価を測定した結果、D614GをWTとして、UKΔ8ではそれほどでもないですが(1.8 倍, Moderna; 2.0 倍, Pfizer)、 SAΔ9では(8.6 倍, Moderna; 6.5 倍, Pfizer)と、かなり力価が下がっていることが示されています。

血栓形成促進性の血小板表現型(P-Selectin, GPIIb/IIIa複合体ら)と新型コロナウイルス(COVID-19)との関係性

新型コロナウイルス(COVID-19)においては、急性呼吸窮迫症候群のみでなく、心血管合併症らの血栓形成状態を引き起こすことが知られています。

Technical University of Munichらのグループは、21種類の膜貫通型タンパク質に対する抗体パネルを用いて、マスサイトメトリー法によって血小板のこれらマーカーの発現状態を調査しました。
https://www.nature.com/articles/s41419-020-03333-9

マスサイトメトリーより、P-Selectin (0.67 vs. 1.87 健常者中央値 vs. COVID-19患者中央値, p = 0.0015) ,  LAMP-3 (CD63, 0.37 vs. 0.81, p = 0.0004),  GPIIb/IIIa 複合体 (4.58 vs. 5.03, p < 0.0001)らが高発現していることが分かりました。P-Selectinは、血管の内面を覆う活性化内皮細胞の表面上の細胞接着分子として機能し、血小板を活性化します。GPIIb/IIIaはインテグリン複合体であり、フィブリノーゲンおよびフォンヴィレブランド因子の受容体であり、血小板の活性化を助けます。LAMP-3はリソソーム関連膜糖タンパク質3です。

P-Selectinが活性化することで、血小板と白血球の相互作用が促され、結果として好中球細胞外トラップ(NETS)が形成されます。NETSは、自然免疫のひとつの機能であり、ウイルスの捕獲と排除を行います。しかし、過剰なNETSは、血栓形成に繋がります。また、P-Selectinとインテグリン複合体の高発現は、血小板凝集を引き起こし、炎症を助長します。血栓塞栓につながる病態生理学的な詳細なメカニズムや血小板の活性化における鍵となるドライバーについては依然不明ですが、ウイルスが感染した上皮細胞やサイトカインストームによって誘起されていることには間違いがないでしょう。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とABO血液型

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染については、O型のヒトは抵抗性が高く、A型のヒトでは抵抗性が低くなる、という報告が既にいくつかの研究機関から発表されています。このことから、抗A抗体の存在がSARS-CoV-2の感染防御に関係しているに違いないと推測されています。
Université Libre de Bruxelles (ULB), Brussels, Belgiumらのグループは、抗A抗体や抗B抗体の存在量が問題であり、それがSARS-CoV-2の感染のし易さに関係しているではと推測しています。
https://www.ijidonline.com/article/S1201-9712(20)32549-2/fulltext

O型:IgM 抗A+抗B凝集スコア:88.29±33.01(健常者)、76.93±34.93(COVID-19患者)
A型:IgM 抗B凝集スコア:30.40±18.84(健常者)、24.93±18.73(COVID-19患者)
B型:IgM 抗A凝集スコア:36.50±17.41(健常者)、28.56±17.41(COVID-19患者)

これらの結果から、抗A抗体や抗B抗体の存在量が少ないと、SARS-CoV-2への抵抗性が弱くなり感染しやすくなるということが言えそうですし、存在量が多くないと血液型の違いによる感染防止の効果は明確にはでてこないと考えられます。

抗A抗体や抗B抗体は、胃腸内細菌叢からの免疫刺激によって合成されます。これら抗体産生と微生物叢の存在量の両方は、個人の年齢と栄養状態によって大きく異なります。つまり、腸内細菌叢によるABO抗体産生の促進こそが、新型コロナウイルスの感染防止に役に立つということではないでしょうか!?

新型コロナウイルス(COVID-19)回復患者の血漿中和抗体が効かなくなる

ワクチン開発の重要な問題は、ワクチン接種を受けた人々のポリクローナル免疫応答の選択圧下で、ウイルスがその免疫から逃れるために進化してしまわないか?ということであり、変異を受けたウイルスに対して有効性を担保できるか?ということになります。

Fondazione Toscana Life Sciences, Siena, Italyらのグループは、新型コロナウイルス(COVID-19)回復患者の血漿中から得られた中和抗体(ポリクロナール)を用いて、ウイルスと共培養を行った結果について報告しています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33398278/

本実験においては、20人の回復患者の中和抗体について最も力価の高い患者のそれを使用し、VERO E6細胞とSARS-CoV-2を100日間(14継代以上)に渡って共培養し、中和抗体の力価の変化とウイルスに発生した遺伝子変異の関係を調査しています。本実験では、Sタンパク質のNTDとRBDに下記のような変異が起こっており、それとともに、中和抗体の力価が下がっていく様子が如実に示されています。

  1. deletion of the phenylalanine in position 140 (F140) on the S-protein NTD N3 loop.
  2. glutamic acid in position 484 of the RBD was substituted with a lysine (E484K).
  3. 11-amino-acid insertion between Y248 and L249 in the NTD N5 loop (248aKTRNKSTSRRE248k).

この実験結果は、力価の高い中和抗体(ポリクロナール)でもウイルスが変異してその選択圧力から逃れていくことを示し、従って、治療にはカクテル抗体を使用することが推奨されます。加えて、変異に対応できる第二世代のワクチン開発の必要性を示唆しています。

レクチンを発現したLactococcus lactis(グラム陽性菌)を用いた癌細胞のターゲティング

癌では、特異的な糖鎖が発現します。その状態は、もちろん癌種によって異なるのですが、一般的には、多分岐N型糖鎖の発現、O型糖鎖の昂進、O型糖鎖の刈込、末端修飾の変化(シアル酸、フコース)が特徴とされています。
University of Ljubljanaらのグループは、Lactococcus lactis(グラム陽性菌の一種)の表面に、癌の糖鎖に特異的なレクチンを人工的に発現させて、癌細胞を狙い撃ちする方法を提案しています。
https://www.mdpi.com/2076-2607/9/2/223/htm

具体的には、二種のレクチンに着目しました。ひとつはB subunit of Shiga holotoxin(Stx1B)、もう一つはClitocybe Nebularis lectin (CNL)であります。
これらレクチンの糖鎖結合特異性は、
Stx1B = Gb3
CNL = LacdiNAc
であります。

これらのレクチンの遺伝子は公開されていますので、それをプラスミドに組み込んで、Lactococcus lactisの細胞表面にこれらレクチンが発現するように改変しました。
Stx1B自体、細胞障害性を持つため、下図のように癌細胞に効果的にターゲティングし、癌細胞を狙い撃ちすることができます。
CNLについては、細胞障害性を持たない為、癌細胞へのターゲティングは可能ですが、細胞障害性はありません。
最終的には、癌細胞ターゲティング用にレクチンを発現するように改変されたバクテリアに治療薬を運ばせる、というような使い方を提案しています。

Mannose Binding Lectin (MBL)の遺伝子変異が新型コロナウイルス(COVID-19)の重症度に大きく関係しているらしい

自然免疫には、(1)マクロファージやNK細胞等の貪食細胞が中心となる貪食、(2)補体レクチン経路、(3)好中球細胞外トラップがあることが知られています。補体レクチン経路においては、Mannose Binding Lectin (MBL)が中心的な役割を果たし、病原体の細胞壁のマンノースにMBLが結合すると、MBLと結合したMBL結合セリンプロテアーゼ(MASP)という酵素が活性化され、MASPが補体第4因子(C4)を活性化し、順次補体を活性化して、最終的に、病原体の細胞壁に穴をあけて殺傷します。

Istanbul Faculty of Medicine, Istanbul Univ.らのグループは、このMBLの遺伝子変異が新型コロナウイルス(COVID-19)の重症化に大きく係わっていることを報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7838598/

MBL2遺伝子のcodon52の変異について、
AA genotypeを参照として、
BB genotype: odds ratio (OR) = 5.3, p < 0.001;
AB genotype: OR = 2.9, p = 0.001

ICUの必要性については、更にodds比が大きくなり
BB genotype: OR = 19.6, p < 0.001
AB genotype: OR = 6.9, p = 0.001

MBLを治療薬として使用する場合の参考になりそうです。