IgA腎症の予後予測マーカー:糖鎖修飾の変化をレクチンで補足する

岡山大医学部のグループは、IgA腎症の予後予測マーカーについて、糖鎖とレクチンに着目した研究を報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41598-020-77736-1

2010年から2017年にかけて岡山大病院でIgA腎症の生検を受けた157名の患者を対象とし、尿をサンプルとしたレクチンマイクロアレイを用いた研究から、優れた予後予測マーカーを発見しています。
予後の転帰の判断基準は、glomerular filtration rate (eGFR) の減少 (> 4 mL/min/1.73 m2/year)、あるいはまた、eGFR がベースラインより30%以上減少した場合とされました。統計学的な評価には、T Scoreが使用され、ECAレクチン(Galβ1-4GlcNAcに糖鎖結合特異性を持つ)とNPAレクチン(High Mannoseに糖鎖結合特異性を持つ)が良好な予後予測マーカーになり得ることが分かりました。
ECA:(odds ratio [OR] 2.84, 95% confidence interval [CI] 1.11–7.28)
NPA:(OR 2.32, 95% CI 1.11–4.85)
T Scoreは、パーセンタイル順位を標準化した値を10倍して50を足すことで求められます。T0, T1, T2は、尿細管萎縮/腎間質線維化に関するOxford classificationを指します。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のfurin cleavage site周辺に存在するO型糖鎖の影響について、英国変異株(B.1.1.7)の感染力アップを絡めて

National Institutes of Healthのグループは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のfurin cleavage site周辺のO型糖鎖修飾の影響を、英国変異株(B.1.1.7)の感染力が上がっていることと関係付けています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7872346/

SARS-CoV-2のSタンパク質のS1/S2境界には、下図のようにPRRAという配列が挿入されており、furin cleavage siteを形成しています。

 

 

 

上図のようにO型糖鎖が修飾される位置には、S673, T676があります。この位置にO型糖鎖修飾が起こるには、681のprolineの存在が深く関係しています。また、O型糖鎖修飾に関わる糖転移酵素について、著者らはGALNTファミリーの中でGALNT1が最も活性が高いことも突き止めました。更に、O型糖鎖の修飾が起こると、furin cleavage siteの切断が大きく抑制されることも示されました。英国変異株(B.1.1.7)では、P681Hという変異が入っており、prolineがhistidineに置換されています。上記の結果を踏まえると、英国変異株では681にprolineが存在しないことで、O型糖鎖修飾が抑制され、その結果としてfurin cleavage siteの切断効率が上昇し、感染力のアップに繋がっていると推論されます。

 

不妊症の一つの原因である薄い子宮内膜(子宮内膜発育不全)に対する再生医療学的な治療アプローチについて

成育医療研究センターのグループは、不妊症の一つの原因である薄い子宮内膜(子宮内膜発育不全)に対する再生医療学的な治療アプローチについて述べています。
https://stemcellres.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13287-021-02188-x

不妊症にはいろいろな原因があるのですが、その中の一つに薄い子宮内膜(子宮内膜発育不全)があります。子宮内膜が薄いと、卵子の着床が起こりにくいということが分かっていますが、何故そうなのか?については、殆ど分かっていません。この子宮内膜発育不全に対する治療法には、(1)エストラジオール補充やミネラルやビタミンの投与、そしてまた、再生医療的なアプローチとして、(2)多血小板血漿の投与、(3)間葉系幹細胞の投与、および(4)in vitroで培養した自家子宮内膜シートの利用などが考えられています。

再生医療学的なアプローチでは、しかし、子宮内膜を如何に効率的に xeno-freeで培養するか?という事が非常に重要です。子宮内膜は基本的にfeeder-freeでは培養が難しく、xeno-freeという観点から、著者らはMEFではなく自家子宮間質細胞をfeederとする方法を開発しました。そしてまた、子宮内膜細胞の成長を加速するという観点で、特殊培地(ESTEM-HE)を使用しました。下図にて、conventional mediumとはDMEMであり、epithelium-specific medium とは特殊培地ESTEM-HEであります。

2018年11月、2019年8月の牛乳から新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のIgGが発見された

順天堂大学らのグループは、牛乳のホエーから、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のS-タンパク質に対する抗体(IgG)を発見しました。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0958694621000303?via%3Dihub

牛乳は、2018年11月、2019年8月にニュージーランドの牛から搾乳されたものであり、その牛乳のホエー中に、SARS-CoV-2のS-タンパク質に存在するRBDに対するIgGが存在していることを発見しました。S-タンパク質の遺伝子配列は下図のようですが、エピトープマッピングを行っところ、RBDにアフィニティーを持つことが分かりました。従って、牛乳のホエーからエンリッチしたIgGは、SARS-CoV-2に対する中和活性を示す可能性があります。
しかし、この牛乳は、新型コロナウイルスが蔓延する以前に搾乳されたものであり、牛がSARS-CoV-2に感染していたということは考えにくく、SRAS-CoV-2と免疫原生をシェアする未知のコロナウイルスに感染していたのかもしれません。

 

 

ピロリ菌が感染した胃上皮細胞の糖鎖修飾変化について

Chinese Center for Disease Control and Prevention, Beijingらのグループは、胃上皮細胞(GES-1)に各種病態から取得したピロリ菌を感染させ、その糖鎖修飾の変化をレクチンマイクロアレイにて調査しています。
https://www.mdpi.com/2076-0817/10/2/168/htm

ピロリ菌を取得した病態は、次の通り、
慢性胃炎 (YN4-62)、
十二指腸潰瘍疾患 (M84, P164)、
胃癌 (HLJ011, HLJ030)、

傾向としては、α1-2Fucとα2-3Sia修飾の昂進が特徴と言えるでしょう。ピロリ菌が感染していないGES-1をコントロールとし、発現量の変化を示しています。赤は増加していることを示す。

Lactoferrinが新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の抗ウイルス薬として機能する

Lactoferrinは、乳から分離された鉄結合性の分子量8万の糖タンパク質です。ヒトを含む哺乳類の乳(特に初乳)に多く含まれていますが、成人においても涙液、唾液、膵液その他の外分泌液や好中球に含まれています。Lactoferrinが、免疫調整機能、抗ウイルス機能、ビフィズス菌の増殖、鉄結合能と関連する鉄吸収調節、抗炎症作用、脂質代謝改善作用などの健康を維持・増進する作用を持つことも知られています。

University of Arizona, Tucsonらのグループは、lactoferrinが実際にSARS-CoV-2に対して抗ウイルス作用を示すこと、そしてまた、そのメカニズムは何なのか?について報告しています。
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/22221751.2021.1888660

Vero E6 細胞, Calu-3 細胞, ACE2を過剰発現させた293T 細胞を用いて、SARS-CoV-2のin vitroでのlactoferrinの感染抑制効果を示しています。
そしてまた、その機構がACE2の共受容体であるヘパラン硫酸へのSARS-CoV-2結合阻害であることを分子ドッキング法を用いて検証しています。ヘパラン硫酸は負電荷を持ち、SARS-CoV-2のSタンパク質のNTDに存在する正電荷を帯びた領域(17~41残基領域)と結合するものと考えられています。下図において、BLF=Bovine lactoferrin 、HLF=Human lactoferrinであります。下図の右側は、heparin dp4とBLFとの分子ドッキング図を示しています。

何故、SARS-CoV-2 (20I/501Y.V1)英国変異株では、感染力がアップするのか?

Anschutz Medical Center, University of Coloradoらは、SARS-CoV-2 (20I/501Y.V1)英国変異株では何故感染力がアップするのか?について分子ドッキング法を用いて解析しています。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.02.02.428884v1.full

Wild typeであるN501に対して、変異体のY501は、RBDであるACE2に対して10倍ほど高い結合力を示し、これはRBDとACE2との間に新たに水素結合が形成されることと(下図の太い破線)、ring-ring相互作用(下図の薄い破線)が存在するからだと結論しています。

Pfizerの新型コロナウイルス(COVDI-19)ワクチンの有効性:B.1.1.7(英国変異株)、B.1.351(南アフリカ変異株)への影響

Grossman School of Medicine, New Yorkらは、Pfizerの新型コロナウイルス(COVDI-19)ワクチンの有効性をB.1.1.7(英国変異株)、B.1.351(南アフリカ変異株)について報告しています。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.02.05.430003v1

本ブログサイトでも、他の研究グループによる同様な研究結果を記載しています(2021年2月6日の記事参照)。
本グループの報告でも、似たような傾向になっています。現在のPfizerのワクチンは、英国変異株の影響はさほど受けませんが、南アフリカ変異株に対しては、有効性がかなり下がりそうだ、というのは確かなようです。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のRCA増幅とRedox反応を用いた電気化学的な高感度検出法

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)検出のGold Standardと言えば、RT-PCRであります。
Mahidol University, Nakhon Pathom, Thailandらのグループは、RT-PCRと同レベルの感度と特異度を有し、かつ高額な装置も必要としない電気化学的な検出法について報告しています。
https://www.nature.com/articles/s41467-021-21121-7

SARS-CoV-2を高感度に検出するには、当然ながら遺伝子の増幅工程が必要です。筆者らは、Rolling Circle Amplification(RCA)を使用しています。RCA法は、PCR法やLAMP法とは異なり、キャリーオーバーコンタミネーションを起こしても次の増幅工程に与える影響が小さい、室温程度(25℃~37℃)の等温工程で増幅できる、といった利点を持っています。RCA amplicon (Padlock probe)は、下図のように設計され、検出したいターゲット(SARS-CoV-2のN-gene, S-geneなど)に特異的な配列(Target gene), Universal capture probe-binding region, Gene specific reporter probe-binding regionからなっています。このPadlock probeを用いてRCAを行うと、Target geneらが繰り返し現れる巨大な長鎖が得られます。このRCA productsに対して、probe-conjugated magnetic bead particle (CP-MNB), Silica methylene blue reporter probe (SiMB-RP)をハイブリダイズして最終的な産物を得ます。Redox反応を起こさせるためにMethylene blueやAcridine orangeを使用します。電気化学反応によって得られる電流は、下図のようにcopy numberと共に増加します。結果として、検出限界感度は、1 copy/uLが得られたとのことです。

Vitamin Dと新型コロナウイルス(COVID-19)

University of Floridaらのグループは、987,849人の統計解析にて、ビタミンD欠乏症の患者は、年齢層を調整した後、欠乏症のない患者よりもCOVID-19に感染する可能性が5倍高かったそうです(OR = 5.155; 95%CI、3.974–6.688; P <0.001)。充実した食生活が健康の基礎ということを改めて教えられます。短いブログで恐縮です。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7716744/