SARS-CoV-2 オミクロン変異株に対して、何故、中和抗体35B5は高い中和能力を示すのか?

Department of Gastroenterology of the Second Affiliated Hospital, School of Medicine and Life Sciences Institute, Zhejiang University, Hangzhou, Chinaらのグループは、中和抗体35B5は、RBDの「ダウン」状態から「アップ」状態への遷移を制御することで宿主侵入受容体ACE2の認識を可能とする保存されたN-型糖鎖スイッチ構造内に有意なコンフォメーション変化を引き起こすことにより、SARS-CoV-2 オミクロンおよびその他の変異体を強力に中和することが出来る、と報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8960183/

抗体によるSARS-CoV-2の中和は、ACE2競合ACE2分子模倣Fc受容体を介した中和などのメカニズムによって行われます。 N-型糖鎖修飾は、タンパク質の折り畳みと安定性の制御、ウイルスの結合方向性など、ウイルスの病理学において重要な役割を果たします。糖鎖修飾は特定のエピトープをシールドして、ウイルスの免疫回避を促進します。糖鎖のシールド機能はそれとして、SARS-CoV-2のN末端ドメイン(NTD)内のN165およびN234に存在する糖鎖は分子スイッチとして機能し、受容体がACE2に結合するために必要な「ダウン」状態から「アップ」状態へのRBDのコンフォメーション遷移を制御します。 N165とN234はSARS-CoV-1とMERS-CoVで保存されており、Spikeタンパク質のRBDコンフォメーション転移の一般的なメカニズムとして機能しています。

オミクロンのSpikeタンパク質には、顕著な抗原性のシフトと構造変化があり、ほとんどの中和抗体からオミクロン変異体は免疫回避をしてしまいます。過去の研究において、中和抗体35B5がWTおよびSARS-CoV-2のベータおよびデルタ変異体に対して中和活性を有することが示されていました。 35B5はSpike三量体を分離してしまうことで、SARS-CoV-2を中和します。本研究においては、中和抗体35B5が他の多くの中和抗体よりもはるかに高い中和効果でオミクロン変異体を中和できることが示されました。
Spikeタンパク質が解離する実際の理由は、35B5が保存されたRBDの糖鎖スイッチを変位させ、RBDのアップ状態を不安定化させ、最終的にSpike三量体からのS1のはがれを引き起こすためです。35B5の糖鎖変位作用は、SARS-CoV-2に対する中和抗体の前例のない中和作用を表しており、これは、通常のACE2競合およびACE2分子模倣、およびFc受容体を介した中和メカニズムらとは根本的に異なっています。

 この図は、in vitro での35B5とSARS-CoV-2 オミクロンのインキュベーションで、オミクロンのSpike三量体が完全に分離されてしまうことを示しています。