FDAはIgG1抗体医薬品用として9種類のレクチンを搭載した新規レクチンマイクロアレイを開発し、その迅速な糖鎖プロファイリングを推奨

FDAは、IgG1抗体医薬品の糖鎖エピトープを評価するために、9種類のレクチンを搭載した新規レクチンマイクロアレイを開発し、GlycoStation Reader 2300(GSR2300)と組み合わせた迅速な糖鎖プロファイリングの有効性を示しました。
https://www.fda.gov/media/169026/download
2023 FDA Science Forum

FDAの開発した新規レクチンマイクロアレイ(IgG1-mAb-LecChip)には、rPhosL, rOTH3, RCA120, rMan2, MAL_I, rPSL1a, PHAE, rMOA, PHELという9種のレクチンが固定化されており、標準的な14ウェルのLecChipフォーマットが使用されています。
IgG1モノクロナール抗体の糖鎖解析は、レクチンマイクロアレイでは糖鎖を切り出すことなく解析が可能であり、IgG1のインタクトで迅速な糖鎖プロファイリング解析が可能となっています。
FDAは、IgG1-mAb-LecChipとGlycoStationを使うことにより、IgG1抗体医薬品の開発時に、バッチ間またはバイオシミラーから先発品までの糖鎖修飾の比較分析がより簡便にハイスループットで行えるものとして製薬メーカーにその使用を推奨しています。

下図には、GlycoStationとLecChip(n=74 library)を用いて、IgG1の糖鎖解析に最適化されたIgG1-mAb-LecChipが開発された様子が示されています。

本技術の有効性を示す実例として、Infliximab先行品とそのバイオシミラーの間の糖鎖構造の違いをIgG1-mAB-LecChipとGSR2300を用いて評価した結果が下図に示されています。High Mannose構造、シアル酸修飾、3分岐N-型糖鎖らの存在量に顕著な違いがあることが一目瞭然で分かります。

PAA-糖鎖を癌細胞へのターゲティングに使用し、光照射で細胞毒性活性酸素種を放出させて癌細胞を選択的に殺す

School of Chemistry, University of East Anglia, Norwich Research Park, Norwich, UKらのグループは、糖鎖とレクチンの相互作用と光線力学的治療を組み合わせたDDSについて報告しています。
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2023/NA/D3NA00544E

レクチンの発現は、細胞の健康状態で変化する可能性があります。
例えば、癌では、糖鎖とタンパク質の相互作用は免疫チェックポイントとしても、癌転移時の新しい組織への再付着を回避する上で重要な役割を果たします。癌細胞では、増殖の増加により代謝も増加しており、その影響は糖鎖トランスポーターの増加にも反映されます。
乳癌細胞の場合には、ガレクチン、グルコーストランスポーター、マンノース受容体など、重要なレクチンと糖鎖結合受容体が上方制御されていることが分かっています。

新しい癌治療のDDSとして、PAA-糖鎖と光増感剤クロリンe6のアミン誘導体を金ナノ粒子上に化学的に結合されたものが開発されました。
PAA-糖鎖は標的のがん細胞に対する標的分子として機能し、光増感剤は特定の波長の光で活性化すると細胞傷害性活性酸素種を放出してがん細胞を死滅させます。

カナバリン・ビローサの種子から得られた「Cvill」と名付けられたレクチンの構造と特性

Laboratory of Biochemistry and Glycobiology, Department of Biotechnology, Ghent University, Belgiumらのグループは、カナバリン・ビローサの種子から得られた「Cvill」と名付けられたレクチンの構造と特性について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10649158/

Cvillは、Canavalia villosa の種子から単離された ConA様マンノース特異的レクチンです。

レクチン構造は、他のConA 様レクチンと同様に、237アミノ酸残基で構成されています。

Cvillは、β サンドイッチとしても知られる典型的なマメ科植物のレクチン折り畳み構造を持ち、サンドイッチに似たふたつの重ねられたベータシートの存在を特徴とします。これらのベータシートは逆平行のストランドで構成されており、一方のベータシートは6本の長くて平らなベータストランドで構成され、もう一方のベータシートは7本の湾曲したストランドで構成されています。Cvillは、二量体と四量体構造を取り得ると予測されました。

糖鎖アレイの実験により、Cvillは末端α-マンノシル残基および N-型糖鎖のトリマンノシドコアに対して親和性を示すことが示されました。

Cvill は、試験したすべての細胞株に対して用量依存的な細胞毒性を示しましたが、この毒性は糖鎖を介したものです。 Cvillは、HeLa細胞について 48 時間のインキュベーション期間後に 97.0 μg/mLのIC50 値を示しました。 Cvillは線維肉腫 (HT1080 細胞) および NHDF 細胞の生存率にも影響を及ぼし、48時間のインキュベーション期間後のIC50 値は 116.08 μg/mL および 108.34 μg/mL でした。

肝細胞癌では、ラミニン受容体インテグリンα6β1のGal修飾が減少し、癌細胞の浸潤が加速する

Graduate Institute of Anatomy and Cell Biology, College of Medicine, National Taiwan University, Taipei, Taiwanらのグループは、ベータ 1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ (B4GALT) が肝細胞癌では発現が低下しており、アガラクト型のN-型糖鎖の発現を促進し、インテグリンα6およびインテグリンβ1のラミニン結合活性を強化して、肝細胞癌細胞の浸潤が促進されると報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10618527/

ハイマンノースN-型糖鎖の増加は子宮内膜の脱落膜化を妨げ、妊娠不全の原因となる

Liaoning Provincial Core Lab of Glycobiology and Glycoengineering, Department of Biochemistry and Molecular Biology, Dalian Medical University, Chinaらのグループは、レクチンマイクロアレイを使用した研究により、早期妊娠女性と比較して、流産患者の脱落膜組織ではハイマンノースN-型糖鎖修飾が増加していることが分かりました。それに呼応してマンノシダーゼであるMAN1A1が減少していました。搭載レクチンの中でも、マンノース結合レクチンである、NPA、HHL、LCHA、CALSEPA、および GNAらが顕著な変化を示していました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10616321/

MAN1A1の発現低下による異常に昂進したハイマンノース化は、子宮内膜の脱落膜化を阻害しました。
Long non-coding RNA (LncRNA) のスクリーニングにより、流産患者の脱落膜組織でLncNEAT1 が増加していることが明らかになりました。
更に、LncNEAT1はNPM1-SP1転写複合体と相互作用し、MAN1A1発現を阻害することによって、子宮内膜の脱落膜化と胚の着床を妨げることが判明しました。

SARS-CoV-2とバクテリアの重複感染

Department of Experimental Immunology, Amsterdam UMC location University of Amsterdam, The Netherlandsらのグループは、SARS-CoV-2感染によって活性化されるヒト樹状細胞(DC)に発現する細菌に対する主要な受容体であるTLR4を抑制する新規経路を発見したと報告しました。
https://journals.plos.org/plospathogens/article?id=10.1371/journal.ppat.1011735

SARS-CoV-2は、C-型レクチン受容体DC-SIGNと相互作用し、Raf-1を介したTLR4シグナル伝達の抑制を引き起こすようです。この結果として、SARS-CoV-2はDC-SIGNを介して樹状細胞の免疫機能を積極的に抑制してしまい、新型コロナウイルス感染症と細菌の重複感染が起こると、死亡率の上昇を引き起こすことになるということです。

植物成長促進効果を発揮する善玉菌としてのバチルス菌の根圏への定着と活性化を促す方法:SynComとPrebiotics

College of Resources and Environmental Sciences, Nanjing Agricultural University, Nanjing, Chinaらのグループは、植物におけるバチルス菌の生体防御メカニズムについてレビューしています。
https://ami-journals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1751-7915.14348

良く知られているように、バチルス菌は、持続可能な環境再生型農業を実現するために、植物病害の生物的防除として広く使用されて来ています。

植物の「Cry for Help」メカニズムとは、植物が特定のシグナルを出して、植物の健康を増進してくれる有益な微生物を呼び集めることで病原体の攻撃から自分を守る仕組みを指します。この仕組みは、免疫細胞がサイトカイン/ケモカインを分泌することで免疫細胞をさらに動員し、免疫を活性化するという人間の免疫とよく似ています。
根からの浸出液は、植物の病気に反応して善玉菌を動員するのに非常に重要であり、L-リンゴ酸、クエン酸、フマル酸、トリプトファン、トレオン酸、リジン、ペクチン、キシラン、アラビノガラクタンらが重要な浸出液として知られています。

植物病害の生物的防除のためのバチルス菌の使用は、冒頭で記したように世界中で一定の利益を達成しています。しかし、バチルス菌をフィールド条件下で実際に利用した場合に、その病害抑制効果が不安定であることが問題となっています。それは、土壌の特性、植物の遺伝子型、土着の微生物叢などの複雑で動的な要因がすべて、接種されたバチルス菌の定着と機能的有効性に影響を与えるからです。

この問題を解決するために、現在までに2種類の方法が提案されています。
ひとつは、「SynCom」と呼ばれる方法を使用することです。これは、バチルス、バークホルデリア、エンテロバクター、シュードモナス、およびアシネトバクターといった善玉菌から幾つかのキーストーン株を使用して構築された細菌コンソーシアムを使用するという方法です。
もうひとつは、いわゆる「Prebiotics」を活用することです。上で述べたように、根の浸出液から放出される特定のシグナルがバチルス菌を動員し、その活動を誘導します。従って、人間の腸内で有益な細菌を刺激するために広く応用されている方法と同様に、バチルス菌の動員や活性化に関連する化合物は、バチルス菌の根への定着と生物制御性能を高めるためのPrebioticsとして使用できます。この観点に立てば、スクロース、L-グルタミン酸、リボフラビンらの土壌への添加は、善玉菌であるバチルス菌の根圏定着を促進するためのPrebioticsとして使用できる可能性があります。

それにしても、まず必要なことは、根圏のバチルス菌を「見える化」して、経験則からの脱却を図る事でしょう。

薬剤耐性を持つシュードモナス・アルギノーザ株と持たない株の比較糖鎖プロファイリング

Laboratory of Functional Glycomics, College of Life Sciences, Northwest University, Xi’an, Shaanxi, Chinaらのグループは、薬剤感受性を持つシュードモナス・アルギノーザ株(DSPA)と薬剤耐性を持つシュードモナス・アルギノーザ株(CRPA)間の比較糖鎖プロファイリング解析を行っています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37861315/

カルバペネム薬剤耐性に関連する重要な糖鎖パターンを同定することを目的として、レクチンマイクロアレイを使用して、臨床分離株から得られた53種の薬剤感受性を持つDSPA株と57種のカルバペネム薬剤耐性を持つCRPA株の間の比較糖鎖プロファイリング解析を行っています。

本実験では、Cy3で蛍光標識された細菌のホールセルライセートをレクチンマイクロアレイにアプライして、細菌の糖鎖プロファイルを取得しています。

その結果、LCAレクチンがDSPAとCRPAの間の細菌表面の糖鎖構造の発現差を見分ける上で強力なバイオマーカーになり得ることを発見しています。

根圏細菌を「見える化」することで環境再生型農業実現の指標作りを目指す

この度は大変お忙しい中、農業WEEK東京展での弊社ブースにお越し頂きありがとうございます。

ブースでは根圏細菌を簡易、安価、短時間で「見える化」することが出来る光バイオームセンサーをご説明させて頂きましたが、ご参考になれば幸いでございます。
ご不明点がございましたら、お気軽にこちらのメールアドレス(info@emukk.com)へお問い合わせください。

今後とも、何卒よろしくお願い申し上げます。