根圏のバイオフィルム:植物の根から分泌されるムシゲルと根圏細菌が分泌する細胞外多糖類の類似性と差異

Division of Biogeochemistry of Agroecosystems, Georg-August University of Göttingen, Göttingen, Germanyらのグループは、植物の根圏に存在するバイオフィルムの特徴について語っています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8792611/

根は、根圏の機能を調節する物質として、ムシゲル、アミノ酸、二次代謝産物など、さまざまな化合物を根圏に分泌しています。ムシゲルは、ほとんどすべての植物によって生成されるゼラチン状の高分子化合物です。ムシゲルの骨格は多糖類でできていることが知られていますが、タンパク質、ミネラル、脂質らもバイオフィルムの一部です。根圏細菌はまた、細胞外高分子物質(EPS)を分泌しています。 EPSは主に多糖類で構成されていますが、タンパク質、核酸、脂質、ミネラルも含まれており、根圏細菌の住処として、バイオフィルムが根の表面に形成されます。このように、多糖類は両方のバイオフィルムの主要な構成成分でありますが、それらの間で有意差は無いようです(ムシゲルとEPSでそれぞれ77.4%と74.6%)。

具体的には、多糖類の骨格は、ムシゲルとEPSの間で、ガラクトース(ムシゲル= 23.8%; EPS = 22.8%)、フコース(13.9%; 9.9%)、グルコース(16.7%; 28.7%)、ラムノース(12.4%; 15%)、キシロース(13.4%; 8.1%)、およびグルクロン酸(8%; 12.8%)となり、その比率に有意差はありませんでした。しかし、マンノース(3.9%; 18.6%)は、ムシゲルよりもEPSで有意に高く(ほぼ5倍)、アラビノース(16.3%; 4.8%)とガラクツロン酸(27.3%; 7.8%)は、EPSよりもムシゲルにおいて高くなっていました(それぞれ、3.4倍、および3.5倍)

アルギン酸塩はEPSに含まれる陰イオン性多糖類で、グルクロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸などのウロン酸のみで構成されています。アルギン酸塩は、バイオフィルム形成プロセスの開始時に微小コロニーの形成に関与し、EPSの水和を増加させ、Ca2 +、Zn2 +、Cd2 +、およびNi2 +などの陽イオンの捕捉を助けます。ムシゲル中のガラクツロン酸の比率が高いことは、EPSよりもムシゲルの吸水能力が高い主な理由の1つであると考えられます。

ムシゲルは、微生物の食糧として、分解および消費されることもあります。ガラクトース、フコース、アラビノースなどのムシゲルに豊富に含まれる糖が酵素の分解作用で根圏に放出されると、ムシゲルに存在する微生物がそれを栄養として取り込むことが出来ます。ムシゲルに存在する内因性グリコシダーゼ酵素の存在がこの事を裏付けています。微生物はムシゲルをエネルギー源として利用しているようで、土壌に添加されたムシゲル炭素の50%を消費するのに平均7〜15日かかります。ムシゲルのタンパク質含有量が高いと、炭素:窒素比は約16:1になります。これは、微生物の炭素:窒素比の約2倍です。したがって、炭素の50%が異化作用を介して利用され、酸化されてエネルギーになると考えると、微生物にとっての単独のエネルギーの元となる炭素および窒素源として、ムシゲルというのは理想的な組成を持っていることになります。結果として、微生物には、ムシゲルを提供する植物と共有される一般的な栄養素であるミネラル(P、K、Ca、Mgなど)のみが供給されれば良いということになるのです。