小麦の根圏:大気中のCO2濃度が上昇すると土壌中の有機リン(P)化合物の無機化が進み、リンの利用効率が上昇する

Department of Animal, Plant and Soil Sciences, Centre for AgriBioscience, La Trobe University, Melbourne Campus, Bundoora, Victoria, Australiaらのグループは、小麦の根圏における大気中の二酸化炭素濃度の上昇に起因する根圏の変化と有機リンの無機化について報告しています。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8785599/

リン(P)は、生命の主要な構成要素であり、土壌生物相にとっても基本的に重要です。有機リンは土壌中の総リン量の最大80%を占めるため、土壌微生物による有機リンの無機化は、特にフィチン酸などの主要な有機リンの無機化において非常に重要です。植物の根からは細胞外にホスファターゼが放出されますが、この酵素活性の多くは根の表面に限定されており、土壌有機リンの活発な無機化は、主に土壌微生物が植物由来の炭化水素分泌物と相互作用する場所、即ち根圏で起こります。

気候変動は、有機的リンの無機化に影響を与える可能性があります。最も重要な気候変動要因のひとつである大気二酸化炭素濃度の上昇は、土壌有機リンの無機化を大幅に加速します。有機リン無機化の加速は、植物の根から根圏に分泌される炭化水素の影響を受けた植物-土壌-微生物間の相互作用の変化に起因するものです。

著者らは、小麦の根圏における主要な有機リン化合物であるフィチン酸の無機化作用に関連する細菌および真菌群集を含む土壌微生物叢の遺伝子プロファイリングとそれらの機能を調査することにより、大気二酸化炭素濃度の上昇下での有機リンの無機化に対する根圏微生物の寄与を定量化しました。

微生物の多様性は、Vertisolと呼ばれる土壌よりも、Chromosolと呼ばれる土壌の方が大気二酸化炭素濃度の上昇の影響をより明確に受けていました。 二酸化炭素濃度の上昇は、Chrmosolにおいて、小麦の根の表面から3 mm以内の根圏領域全体で細菌種の豊富さを33%と大幅に増加させました。しかし、Vertisolでは、根圏細菌はeCO2の影響をあまり受けませんでした。 ふたつの主要な細菌門、バクテロイデス門とゲンマティモナス門の存在量は、大気二酸化炭素濃度の上昇により根圏で比較的濃縮されており、フィチン酸の無機化作用と正の関連がありました。最も一般的なバクテロイデス門の仲間は、キチノファガ科とマイクロシラ科であり、スフィンゴバクテリア科とヒメノバクテリア科がそれに続いていました。

真菌群においても、Chromosolにおいて、小麦の根の表面から3 mm以内の根圏領域で、より多くの種が大気二酸化炭素濃度の上昇によって見られるようになりました。しかし、Vertisolでは、大気二酸化炭素濃度の上昇は有意な影響を与えませんでした。 大気二酸化炭素濃度の上昇によって、担子菌属アガリスクの存在量、およびグロムス門のクラロイデオグロムス属とファネリフォルミス属の存在量が大幅に増加していました。